30.5話 女子会
ある日の夕刻。
ここは、とある酒場。
店は、近隣住民や商人から冒険者まで、大賑わいだ。
その店の奥のテーブルに3人の美女。
ひとりは、薄水色の長髪に色白の肌、エルフ特有の長い耳を持っており、大人の色気と気品を漂わせたエルフの女性。
もうひとりは、キレイな金髪で清楚な見た目の人間の女性。
最後のひとりは、毛先だけが赤い短めの銀髪、獣耳と尻尾、同じテーブルの2人に比べるとやや幼く見える獣人の少女。
彼女らは美味しい食事、美味い酒を囲み、談笑している。
どうやら親睦を深めることを目的にしているらしい。
しかし、酒が進むにつれ会話の内容が次第に変わっていく。
どうやら、彼女たちは同じパーティーで、今後のパーティー内での役割分担を決め始めた。
そして最後には、それぞれの想い人の話に発展していく。
なにやら3人は、同じ1人の男に想いを寄せているらしい。
そんな彼女たちを無謀にも口説こうとする男がまた一人。
これで何人目だろう。
金髪の女性に断られ、銀髪の少女に睨まれ、エルフの女性には魔法で店の外に叩き出された。
そうして、彼女らの楽しい時間は過ぎていく。
《ルーナside》
私、ルーナ・アルシノエは2人の女性を引き連れ酒場に入った。
そして席に着くなり、その場の主導権を握るように話し出す。
「今日は、ソフィリアさんを無事に救出できたことを記念して、親睦会を開きたいと思います」
おおーと残りの2人、アイラとソフィリアは、わざとらしく拍手をした。
次々に運ばれてくる料理、空になったグラスに注がれる美味しいお酒。
はじめは何を話せばいいかわからなかったけど、お酒の力を借りれば、意外にも話は尽きなかった。
「それで、パーティー内の役割を決めたいと思っているんです」
私の言葉に2人は首をかしげた。
「役割とはなんじゃ?」
すぐさまアイラちゃんが口を開いた。
私はうなずきながら答える。
「はい、今までは特に問題なく旅をして来れましたけど、今のリアム様は左腕がありません。日常生活でもなにかと不便なはず。そのお世話や食料調達などの役割をあらかじめ決めておいたほうが良いと思いまして」
「それがいいでしょう。リアムさんが、不自由なく旅が続けられるように支えるのも私たちの役目ですから」
ソフィリアさんも私の意見に賛成してくれた。
「なるほど。では、われは食糧調達と戦闘での先陣を任されよう。われにできることは、これくらいしかできんしのう」
アイラちゃんは腕組みをして、うんうんとうなずきながら言った。
その意見に私とソフィリアさんも同意した。
戦闘力が高いアイラちゃんが食料調達や、戦闘を担当してくれるのはありがたい。
正直、私は戦闘という点ではほとんど役に立たない。
剣を振ることもできなければ、初級の光属性魔法と回復魔法くらいしかできないのだ。
そんな能力では、普通は高ランクの冒険者パーティーに入ることなどできないと聞いた。
身体を売ることでパーティーに入れるかもしれないが、私の身体はそんなに安くないつもりだ。
私は意を決して、口を開いた。
「私はあまり戦闘では役に立てそうにないので、雑用と…あと、リアム様の身の回りのお世話をさせてもらいたいと思います」
私の言葉に2人は少し戸惑いながらも、うなずいてくれた。
「うむ、われは料理などはできんからな。ルーナが望むなら、それもよいかもしれん」
「私はお二人の判断にお任せしますよ。リアムさんと過ごした時間はお二人のほうが長いですから」
2人はそう言うとお酒の入ったグラスを傾けた。
2人には申し訳ないけど、これだけは譲れない。
私は自分の力は十分に理解しているつもりだ。
戦闘では前線を担当するアイラちゃんの足元にも及ばない…どころか、足手まといにすらなりかねない。
援護するにしても、攻撃魔法や回復魔法を多彩に使えるソフィリアさんには遠く及ばない。
ただでさえ、みんなそれぞれが強いのに、私なんかが役に立てるわけがない。
それに2人ともリアム様に尊敬されているし、女としても勝ち目がない。
そのことをみんなは気づいているのかもしれないし、気づいていないのかもしれない。
でも、誰かが不満を言えば、もしかしたら、私は一緒に旅を続けられないかもしれない。
それだけはイヤだった、みんなに非難されるのはいい、でもリアム様に見捨てられるのは怖かった。
だから、自分がリアム様の世話を買って出た。
そうすれば、不要だと切り捨てられることはないと思ったから。
今になって思えば、リアム様が左腕を失ったことに漬け込んだのだ。
私は弱い人間だ、そんな私の意見を2人は許してくれた。
泣きたくなった。
私だって2人がリアム様に好意を寄せてるのは知っている。
でも、捨てられたくない…その一心だった。
その日、私は心にひとつ誓いを立てた。
戦闘で役に立てなくても、どんな時でもリアム様を支えるんだ。
たとえ必要とされなくても、どんな時だって…いつだって……と。
《アイラside》
ルーナに呼び出され、酒場に行くと、なにやら親睦会というものをやるらしい。
われにはよくわからなかったが、どうやら食事と酒を堪能しながら、互いの関係を築いていくのが目的のようだ。
美味い食事に美味い酒…最高じゃ。
旅のさなかにこんな贅沢ができるなど、よもや想像すらしていなかった。
「パーティー内の役割を決めたいと思っているんです」
突然ルーナが言い出した。
今まで役割というものを別段意識したことはない。
戦闘では、われが魔物を倒せばよい。
われだけで難しければ主さまが倒してくれる。
食料の調達にしたって、その戦闘で得た魔物の肉を焼けばよい。
主さまはああ見えて、意外と料理がうまい。
ただ焼くだけではなく、どこから手に入れたのか、香草や岩塩といったものを多用し、焼いただけでも十分美味い肉が食える。
しかし、まあ、メンバーが増えれば役割を決めるのは悪くない。
われも、皆の役に立てるように動こう。
われにできることは戦って魔物を倒すこと、それならば、食料調達と戦闘での先陣を任されればよい。
「私はあまり戦闘では役に立てそうにないので、雑用と…あと、リアム様の身の回りのお世話をさせてもらいたいと思います」
ルーナは静かに、しかし、言いにくそうにそう言った。
われは最初、ルーナの意見をすぐには理解できなかった。
主さまの世話?
たしかに片腕では不便もあろう、世話が必要といえば必要だ。
しかし、それは皆で協力するものだと思っておった。
われだって…主さまのことを……。
われは口を開きかけて、やめた。
そうじゃな、われにできることは戦闘に関することだと、先ほど自覚したばかりじゃ。
例え、主さまの世話ができなくても、戦闘での主さまの負担を減らすことはできる。
それに主さまは、そもそもわれを女子としては見ておらん。
われの初めての唇を奪っておいてなお、平然としておる。
ルーナやこのソフィリアとかいうハイエルフだって主さまに好意を寄せているのはわかっているつもりじゃ。
じゃが、それはわれとて同じだというのに。
しかし、われには2人のように主さまを戦闘以外で支えることができんのだ。
これほど悔しいことはない。
だから、われは、主さまと肩を並べて歩いていけるように、主さまの道を切り開くことだけを考えよう。
主さまとの未来を考えるのは、主さまの横をともに歩くに相応しくなってからでも良いのだから。
《ソフィリアside》
ルーナさんに呼び出されて酒場に来て、3人で食事をする。
それだけで互いの絆が芽生えるとは思っていなかったのだけれど、いろいろ話を聞くことができた。
私は、旅立ってから帰ってくるまでのリアムさんを知らない。
2人の話は新鮮で、少し嫉妬してしまう内容だった。
もちろん助け出してくれたことは嬉しいし感謝している。
でも、帰ってきたリアムさんは、もう私だけのものではない。
弱って、絶望して、でも希望を見つけて、一生懸命に前を向いて進もうとひたむきに努力していた青年は、私の手の届かないところに行ってしまった。
話を聞いているとルーナさんはリアムさんに好意を寄せているのがよく分かった。
アイラさんも控えめではあるけど、好意を寄せているようだ。
当然だ、私だってあんな短期間で彼に惹かれたのだ。
長い時間をかけ旅をしてきた2人なら、好きにならないほうがおかしい。
「パーティー内の役割を決めたいと思っているんです」
ルーナさんが真剣な顔で言った。
その提案は実に理にかなっていた。
人が増えれば、役割を分担して効率よく行動する必要がある。
私は2人に言われた役割を甘んじて受け入れよう。
「私はあまり戦闘では役に立てそうにないので、雑用と…あと、リアム様の身の回りのお世話をさせてもらいたいと思います」
ルーナさんは、まっすぐな眼でそう言った。
きっと、思うところがあるのだろう。
でも、リアムさんの世話…それはアイラさんも望んでいるのではないか。
みんなが交代で行えばいいのではないか。
いや、言うまい。
私は、今まで何もしていない。
リアムさんが旅立ってから、助け出されるまで、リアムさんを支えたのはルーナさんとアイラさんだ。
決して私などではない。
それに、私を助けるためにリアムさんは片腕までを犠牲にした。
魔王を倒すためであって、私を助けるためじゃない、そう言われればそうかもしれない。
でも結果的には、そのおかげで助かったわけだし、私のもとに来ることを優先するあまり、腕の再生を拒否したという。
そんな私が、どの面を下げてお世話をさせてくれなどと言えようか。
言えるわけがない。
リアムさんが望んでも、2人が認めてくれるはずがない。
私は2人からすれば部外者同然。
リアムさんと苦楽を共にしたのはこの2人だ。
私はリアムさんが好きだ。
長年閉じ込められ、諦めかけていたところに彼は来た。
そして、本当に助け出された。
何年も何年も望んでは諦めた外の世界に連れ出してくれたのだ。
そのことが、彼への気持ちを加速させた。
そうだ、私は影ながらリアムさんを支えよう。
例え、私のこの気持ちがリアムさんへ伝わらなかったとしても、それは諦めるしかない。
私を助け出すために、リアムさんは一生懸命魔王と戦ったのだ。
それだけで十分じゃないか。
でももし、もしもリアムさんが望んだら、その時は気持ちを伝えよう…正直に。
これより、新章「大陸捜索編」となります。
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