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29話 敗北のその先へ

俺たちが王宮に到着すると、すでに王宮内は騒然としていた。

北の山脈の探索に派遣されたのは、ジェイドが率いる騎士団員30名。

そのうち帰還したのはジェイドのみ、しかし、そのジェイドも血まみれで息も絶え絶えである。


どうやら国王はジェイドを手当てするように命令したのだが、ジェイドがそれを拒否しているらしい。


「私はもう助からない。国王様、急ぎ王都の住民の避難を。今まさにこちらに魔物の大群が押し寄せようとしています」


「うむ、わかった、直ちに住民を避難させよう。だから、お前は手当てを受けるのだ」


国王がそう言い、ジェイドに近づこうとした瞬間、ジェイドは口から血を吐き倒れた。

その直後、ジェイドの身体が浮き上がる。

同時に、ジェイドを介して聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「きさまら人間は、われらの安息の地にまで足を踏み入れようというのか。よかろう。ならば、われらがきさまら人間どもの安息の地を踏みにじってくれる。この者は、その見せしめだ」


突然、ジェイドの身体が炎に包まれ灰になって消えた。

ジェイドはいい奴だった。

少し頼りないところもあったが、部下思いの優秀な団長だった。

シーティアの戦い以降は、数回しか声をかけていないが、あの戦いでの反省を活かし自分なりに努力しているのも感じられた。


その騎士団長が死んだ、残念だ。

怒りと悲しみの感情がわき上がる。

やったのは、この声の主だろう、俺は誰かを知っている、魔王だ。


ジェイドの言うことが本当なら、魔王が大軍を率いて攻めてくる。

このまま王都が戦場になれば、大勢が死ぬ。

それは何としてでも避けなければ。


「皆の者、住民を避難させろ!伝令部隊は近隣のギルドに救援要請を出せ!騎士団長の死を無駄にするな、急げ!」


俺が考えを固めるよりも早く、国王は全軍に叫んだ。

側近である騎士団長の死を悲しむ間もなく、全軍に的確な指示を出している。

さすがは一国の王である。


「リアム、王国指名冒険者として任を言い渡す。一足先に北の山脈へ向かえ。わざわざ、迎え撃ってやる義理はない。こちらが先手を取る、任せたぞ。近隣のギルドから応援部隊が到着次第、そちらに向かわせる」


俺たちは国王の指示を受け、北の山脈へ向かう。

前回は、何もできずに完敗した相手。

しかし、あれから8日間で俺たちも強くなった。秘策もある。

今度こそ魔王を討ち、復讐を果たすときだ。



俺たちは、一直線に北の山脈を目指していた。

成長したアイラは本来の姿に戻ると、一段と大きくなっていた。

大人2人が背中に乗っても、まだ広い。

成長期の成長というのは恐ろしいものである。


しばらくすると、目の前からは土埃が見える。魔物の大群だ。

前線はゴブリンやオーク、スケルトンといった低ランクの魔物が配置され、ゴーレムやデュラハンがそのわきを固めている。

上空にはガーゴイルと、あれは…前足と翼が一体化している…ワイバーンか。


俺は瞬時に敵戦力を確認した。

地上の魔物はたいしたことない、まずは上空にいる魔物からだ。


「俺が魔法で殲滅する。魔王のところまで一気にいくぞ!」


俺はアイラの背中を飛び降り、魔物の大群に向け魔力を集中する。


「空間魔法展開、エアーインパクト!」


俺は大気の衝撃波で上空の敵を攻撃した。

魔法自体は下級魔法を広範囲に放っただけだ。

俺の実力では、ガーゴイルやワイバーンのような高ランクの魔物にダメージを与えることは難しい。


しかし、ガーゴイルやワイバーンは、空中でバランスを崩し、地面に落下していく。

それにより、地上の魔物は隊列が乱れ、進軍の足も遅くなる。


下級魔法も使い方次第か、母さんには感謝しないとな。

飛行性能を持っている魔物に、攻撃を当てるのは難しい。

しかし、一度地面に落としてしまえば話は別だ。

再び飛翔するまでに時間がかかるのだ。そこをつく!


俺は地面に両手をついた。

「空間魔法展開、タイダルウェーブ!」


地面からわき出た津波が魔物の大群を飲みこむ。


「いくぞ、アイラ!」


俺は再び、アイラの背中に飛び乗り、北へ向かう。

しかし、魔物の数が多い。

この数を全て相手にしていたら、いくら何でも魔力の消費が大きい。


俺たちが足を止めた瞬間、俺の顔のすぐ横を巨大な火球が通過した。

チリチリと俺の髪の毛が焦げた気がした。

その火球は魔物の大群の真ん中に着弾し、巨大な火柱を上げ、周囲の魔物を消滅させた。


俺は、後ろを振り返る。

砂埃を巻き上げ、援軍が向かってきている。

先頭にいる人物には見覚えがあった。

王都のギルド長バルス、東の町のギルド長ナイルトン、南の町のギルド長ゼラードだ。

今の火球はナイルトンの魔法だろう。


真っ先に叫んだのは、ゼラードだった。

身の丈ほどの大剣を背負い馬にまたがる大男に、すれ違いざまに肩を叩かれた。

あまりの勢いにバランスを崩す。


「いけ、リアム!雑魚は俺たちに任せろ!いくぞお前ら、俺に続けー!」


味方の冒険者を鼓舞しながら、魔物の大群に突っ込んでいく。

なんとも頼もしいかぎりだ。

俺も新米冒険者であれば雄たけびをあげながらついていっただろう。


しばらくゼラードの背中を眺めていると、俺の両脇に2人の男が並んだ。

ナイルトンとバルスだ。

ナイルトンは俺に小瓶をひとつ差し出した。

俺は何も言わずに手に取る。

小瓶は、手のひらに収まる程度の大きさで、中身はピンクがかった液体だった。


「それはハイエリクサーです。私が長い年月、エリクサーの成分を抽出し凝縮させたものです。例え身体に風穴が開いたって治りますよ。ただ作成するのは困難でして、今現在、手元にあるのはそれひとつだけなのです」


ありがたい、俺は素直にそう思った。なにせエリクサーは高価で希少である。

上級冒険者でも使用することを躊躇するような代物だ。

それを凝縮させたとあっては効果は折り紙付きだろう。

ハイエリクサーを眺める俺の背中を、もう一人の大男が力強く叩いた。


「いってこい、リアム。お前は、たいまつ君と呼ばれていたあのころとは違うんだ。行って、世界を救ってこい!」


俺はバルスとナイルトンに無言で拳を向けた。2人も無言で俺のこぶしに拳を合わせる。

バルスに背中を押され、俺はアイラに指示を出す。

アイラは魔物の大群の隊列の間隙を縫うように進んでいく。


もうすぐ魔物の大群を抜けるというところで、巨大なカメの魔物が行く手を塞いだ。

山のような大きさで、岩のようにゴツゴツした足と棘のついた甲羅、カメだというのに長く鋭い牙を持っている…デスノトスだ。


アイラは構わず突っ込んでいく。

なにか策でもあるのだろう、あの巨大な魔物相手に無策で突っ込むのは無謀すぎる。


「このまま突っ切る、振り落とされるなよ」


ん?それだけ!?策とかないの?と驚いている俺を無視し、アイラは突っ込んでいく。

デスノトスも黙っていない、高速で近づくアリを踏むつぶすかの如く足をあげて迎撃態勢を整えている。

頭上にデスノトスの巨大な足が迫る。

瞬間、アイラが速度を上げる。

アイラの足が光ったように見えたと思った時には、デスノトスの下を潜り抜けていた。


振り返ると、デスノトスの足は切り刻まれ、身動きが取れなくなっている。

アイラがすれ違いざまに攻撃していたのだろう。俺でも見えないほどの速度で。

この8日間でアイラは強くなっているのだ、俺の想像を超えるくらいに。


気づくと目の前には北の山脈が見えてきた。周りは荒れ果てた荒野が続いている。

すると突然アイラが動きを止めた。

来る!その場にいる皆がそう思ったに違いない。

上空に魔力の渦と空間のゆがみ。

ほどなくして、その歪みから魔王が姿を現した。

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