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28話 敗北と目覚め

広間の天井付近が白く光り始めた瞬間、光は聖なる流星となり降り注ぎ、俺と魔王は白い光に包まれた。


痛みはない、光属性魔法だからか?

邪悪なもの以外には、魔法の効力はないとでも?

ははは、まさかな。

いや、でも、これだけの魔法を受けて痛みがないということは、そもそも死んだのか?


混乱する俺の頭が状況を理解するのに、そう時間はかからなかった。

白い光が徐々に薄くなり、視界が開けてきたとき、目に飛び込んできたのは無傷の魔王と、ボロボロになった部屋だった。


ダメだったか…俺は絶望した。

下を見ると、魔王の足元の床だけは、崩壊せずにキレイなまま。

どうやら、俺の最後の魔法も魔王には届かなかったようだ。


ふと、俺の首を締め付けている手から力が抜けた。

そのまま下に落ちていき、地面に足がつくかどうかというところで、魔王の放った魔弾により後方にはじけ飛ぶ。

地面にたたきつけられ、一回転二回転…何回転かしてから、壁に激突した。


魔王がゆっくり近づいてくる。

立って…戦うんだ、最後まで…身体のどこかが動くかぎり…あがいてやる。

剣を握る手に力をこめる。

が、その剣は魔王に踏みつけられビクともしない。


「ほう、まだ戦う意思があるのか。おもしろいやつだ、きさまからなら良い芽が育つかもしれん」


魔王は俺の剣を踏みつけたまま、あざ笑うように言った。

良い芽、なにを言っている。俺には言葉の意味が分からなかった。

わからないまま、考えを巡らせていると、再び魔王に持ち上げられる。

持ち上げられるというより、魔力で浮かされたというべきか。


次の瞬間、俺の胸を魔王の腕が貫通していた。

みるみるうちに力が抜けていく。

やられた、もうダメだ。

身体から血の気が引いていく、呼吸もできない、意識が…薄れて……。



気が付くと真っ白い空間に俺はいた。

視線を落とし、自分の身体を確認する。どこにもケガがない、貫通したはずの胸にも穴は開いていない。


「これが死後の世界か、案外なにもないんだな。もっとお花畑でもあるもんだと思ったんだが」


そんなことを言いながら、俺は考え始めた。

さて、これからどうすればいいのかと。


俺は死んだ、そしてここが死後の世界だとする、そこまではいい。だが、それだけだ。

死んでいるのだから目的がない、この白い空間で何もすることがないのだ。

それは耐えがたい苦痛だ、いっそ死んで楽になりたいと思うほどの。

まあ、死んでいるわけだが。


しばらく考えていると、突然、目の前にふたりの男女が姿を現した。

茶髪の髪の毛を後ろでひとつに縛っている筋肉質な身体の男性と、腰まで伸びた長い赤髪をなびかせている肉付きの良い体型の女性。

俺は、この2人を知っている。


「父さん!母さん!」


思わず、叫んだ。

2年ぶりの両親との再会、もう会えないものだと思っていた。

なにせ2人は死んでいるのだから。


「父さん、母さん、俺、魔法剣士として旅に出たんだ。いろいろあったけど、今では楽しく旅ができているよ。ハイエルフのソフィリアっていう女の人に救われて、ルーナとアイラと俺の3人で旅をしてるんだ。あとは、そうだ!剣の腕は父さんほどじゃないし、魔法も母さんの足元にも及ばないかもしれないけど、国王からは大賢者の称号ももらった」


自分でも信じられないくらい話が止まらない。

生前は口うるさい父と、おせっかいな母を疎ましく思うこともあったが、やはりしばらくぶりに再開すると、両親というものはいいものだと痛感する。

生前にもっと親孝行をしておけばよかったと後悔する。


俺の話を2人は黙って聞いていた、その顔は未熟な息子を見守る優しい笑顔だった。

俺は自慢の息子になれたんだろうか。

志を半ばにして魔王に殺された俺を、誇りに思ってくれるだろうか。


ひとしきり俺の話を聞いたところで2人は俺に背を向けた。

なぜ、なにも言ってくれない?

やはり、俺が未熟なダメ息子だからか?

俺は追いかけるように走り出す。

しかし、距離は詰まるどころか、どんどん開いていく。


「待ってくれよ、また俺を置いていく気か?俺も連れて行ってくれ!こんな白い空間に残されても、どうすればいいっていうんだ!」


「リアム、お前はまだこっち側には来るな。お前にはまだやらなければならないことがあるだろう」


どこからともなく父さんの声が頭の中に流れ込んでくる。


「あとな、リアム。剣術と魔法の融合という考え方は悪くない。ただ、お前の場合は別々に考えすぎだ。もっと柔軟に考えるんだ。魔法使ってから剣を振るんじゃない、魔法を使いながら剣を振りゃあいいだろうが。さっきの鳥みたいに飛んで剣術使う発想は悪くなかったぜ」


なんだ、ちゃんと話せるんじゃないか。

俺の言葉を無視してたから、会話はできないものかと思っていたんだけど。


「それとな、リアグフッ…な、なにしやがる、ルミナリア」


「あなたはいつも話が長いんです。だから、リアムに煙たがられるんです」


どうやら母さんが父さんを殴って話を中断させたらしい。

というか、俺が父さんを煙たがっていたのはバレていたのか。

さすがは母さんだな。


「リアム、あなたは魔導士としての才能に恵まれているわ。でもね、魔法の選択が少し下手みたいね。敵単体相手に上級広範囲魔法なんて使ったら、魔力が足りなくなるのなんてわかりきっているでしょう。敵が単体なら、中級魔法までで倒しなさい。威力が足りないなら、魔法の威力をあげる訓練をしなさい。あなたは昔から基礎の勉強を、もごもご…」


ん、なんだ?急になにかに押さえつけられるような、聞き取れない。

その瞬間、父さんに口を押せられている母さんの姿が目に浮かんだ。

いつもの見慣れた光景、死んでもなお2人は変わらないらしい。

少しホッとした。


「はあ、母さんだって話が長いよな?そんなわけだから、リアム、お前はお前のやるべきことをやれ。もし、剣術の修行で行き詰まったら、東の国ライラックに行きアルセイフを探せ。俺の名前を出せば、イヤな顔はするだろうが力は貸してくれるはずだ」


ライラックのアルセイフか…覚えておいて損はなさそうだ。

父さんが認めるほどの実力者だ、頼りになるだろう。


「じゃあ、俺たちは先に行く。お前のことはいつも見ているからな。行ってこい、自慢の息子よ」


2人は光の中に消えていった。

ここが本当に死後の世界のような場所で、2人がそこで一緒にいるなら何も問題ない。

いつも通り、にぎやかに楽しく過ごしているだろう。

その光景が目に浮かぶ。

俺は帰らなければならない、まだやることがある。それまでは、お別れだ、父さん母さん。



「う…うぐぐ」


目を開けると、そこは見覚えのある薄暗い広間だった。


「夢…か」


ここには見覚えがある。たしか、魔王と戦って…。

そこまで考え、ガバッと身体を起こす。痛くない、血も止まっている。

少し気だるさは残るものの身体に異常はない。

なぜ?とその答えはすぐに分かった。俺の隣で息を切らしながらルーナが回復魔法をかけてくれていた。


額には汗をにじませ、呼吸は荒い。

きっと相当な魔力を消費しているに違いない。

しかし、俺が身体を起こしたことに気づかず回復し続けているということに、少し違和感を感じる。


そして、俺はルーナの頭に手を置いた。


「ありがとう、ルーナ、もう大丈夫だ」


返事はない。うつむきながら、ひたすらに回復し続けている。

俺はルーナの顔を覗き込んだ。

泣いていた。大粒の涙は、頬を伝い、地面へと流れ落ちる。

申し訳ない…そう思った瞬間、左頬を殴打された。


痛い、正直な感想だった。

俺の首はねじれ、その勢いに引っ張られるように俺の身体は横向きに倒れた。

身体を起こそうとしたところに踏みつけ攻撃。見事に後頭部を地面にたたきつけた。

ダメージは大きい、このまま攻撃を食らい続ければ、また真っ白な空間に逆戻りだ。

早くアイラに謝罪を…。


しかし、アイラはその隙すらも与えない。

さすがは野生のハンターだ、俺が後頭部を強打している間に馬乗りになり、俺を逃がさない。

そのまま、スムーズに顔面への連撃へつないでいく。

一発、二発…終わらない。


どんなに殴られてもダメージは蓄積しない、殴られたそばからルーナが回復してくれているからだ。それでも限界はある。

ルーナが苦しそうである。


「ア、アイぐはっ、ちょ、ちょっとグフッ、待ってくグハッ、ルーナがゴフッ…」


俺の言葉を気にも留めず、アイラは殴り続ける。

ダメだ、アイラが止まらない。

どうにかして攻撃を止めなければ。

そう思った瞬間、突然攻撃が止んだ。

ルーナが身体を張ってアイラを制止したのである。


俺はおそるおそる、アイラの顔を覗き込む。

歯を食いしばり、息を荒くし、俺のことを睨んでいる。

相当怒っているようだ。


「放せ、ルーナ!まだ殴り足らぬ!」


「待ってアイラちゃん!もうこれ以上は、私の魔力がもたないの。お願い、やめて。アイラちゃんだって、リアム様を心配していたじゃない…」


アイラの振り上げられた拳が下ろされる。

どうやら、ルーナの言葉はアイラに届いたらしい。

助かった、またあの真っ白い空間に戻らなくて済む。

そう思った瞬間、アイラは俺の胸ぐらをつかみ、無理やり上半身を起こした。


「きさまにとって、われらはなんじゃ!ともに旅をする仲間ではなかったのか!?自分ひとりが犠牲になるようなマネしおって!そんなにわれらは、きさまにとってお荷物か?」


「そんなことはない…お荷物なんて思ったことはグハッ…」


俺の言葉はアイラに拳によって中断する。


「ならば、なぜ自分ひとりで魔王と対峙した?きさまは、われらを信用してはいないのか!?」


信用していないわけではない。

むしろ戦闘では、アイラの補助がないというのは考えていない。

いざとなれば、ルーナにも回復役として頼る場面はあるだろう。

しかし、今回は違う。

可能性を感じていたとはいえ、明らかに勝てないであろう相手との戦いに、俺が2人を巻き込むわけにはいかなかった。


「われもルーナもパーティーを組んだ、あのときから、きさまと運命を共にする覚悟はできておる。それなのに、きさまは…きさまというやつは……もう、ひとりで死にに行くようなマネは…するな…」


アイラの頬を涙が流れ落ちる。

俺はアイラの顔を直視できずに顔をそむけた。


きっとアイラの言葉に嘘はない。

事実、今、この場に2人がいるからだ。


俺は死を覚悟し、2人に逃げろと言った。

魔王との戦いだって、壮絶なものだったはずだ。

ダンジョンが崩壊するかもしれない、魔王が来るかもしれない。

そんな状況の中、逃げずに俺の帰りを待っていてくれたのだ。生半可な覚悟ではできないことだ。


正直そこまでの覚悟があるとは思っていなかった。

俺は2人の覚悟を裏切ったのだ、どんなに責められても仕方がない。

俺が殴られることで、気が晴れるならいくらでも殴られよう。


しかし、もう拳は飛んでこなかった。

アイラは俺の胸ぐらを掴みながら、顔をうずめて泣いていた。

ルーナも、横で座り込み両手で顔をおおい続けていた。

俺は2人の肩に手をやり、優しく抱き寄せた。


広間から出ると魔力は問題なく回復していた。

そのことから考えると、魔力が回復しなかったのは、魔王が原因ではなく、広間自体になにか細工がされていたんだろう。

いや、今はそんなことはいい。まずは帰らなければ。


その後、俺の回復を待ってから王都に帰還した。

アステラ王に今回の報告をしたが、魔王討伐失敗については、不問にするとのことで話がついた。

今回の依頼は、新種の魔物の調査と討伐だから、当然といえば当然だ。


しかし、腑に落ちないのは魔王が俺にとどめを刺さなかったことだ。

ルーナたちが駆けつけたときには、すでに魔王の姿はなかったと言っていた。

さらに胸を貫かれたような傷もなかったという。

では、あれは幻だったとでもいうのか。

いや、痛みや苦しさは現実のそれだった、幻ではないはずだ。それに良い芽というのは…。


いや、過ぎたことだ、今は忘れよう。

今は傷を癒し、これからの戦いに備えることが大切だ。

俺は自分にそう言い聞かせ、王宮を出るのだった。



そして、現在、国王が用意してくれた宿屋の一室に俺たちはいた。

今後の方針決定のためである。

まず、東の国ライラックへの移動は国王に却下された。

魔王との戦闘の可能性がある今、隣国への移動は許可できないとのことだった。


これについては納得している。ただでさえ、俺は魔王と一戦交えている。

今後、魔王が侵攻してくる可能性は大いにあり得ることだ。

だが、ライラックに行けば、もしかしたら今よりも強くなれるかもしれない。

しかし、北の山脈の調査団が帰還するのが10日後、どのみち10日ではライラックを往復することは不可能だった。


悩んでいると、アイラが口を開いた。


「われは今回、別行動をとらせてもらう。8日の後に合流すると約束しよう。その間の主の面倒はルーナに任せる」


どこへ行くとは聞くまい。俺はアイラとルーナを信じる。

アイラが8日後に戻ると言うならば、信じて待っていればいい。

俺は俺のやるべきことをやるだけだ。


「俺は、修行のためにダンジョンに潜ることにするよ。ルーナはどうする?」


「私もリアム様に同行します。私も魔法の練習がしたいですし、リアム様のケガは私が治しますから」


ルーナもアイラも、いつもの調子に戻ったようである。

本当に良かった。

本当は、あの後も幾度となくアイラには殴られたのだが、それは言わないことにしよう。

話し合いが終了し、俺とルーナはギルドへ、アイラは別のどこかへそれぞれ向かっていったのだった。8日後にここに全員集まることを約束して。



そうして俺たちは、各々が目的を持った8日間を過ごした。

約束通り、全員が同じ宿屋の同じ一室に集合していた。


アイラは少しというか、かなり風貌が変わっていた。


髪が少し伸び、身長も伸びたように見える。

さらにあどけない少女のような顔つきも、少し大人びているようにも見える。

しかし、まだ幼さを残しているアイラの顔は、ルーナやソフィリアとは違った意味での可愛さを備えていた。


ただ、慎ましやかな胸のふくらみは、そこまで変化はなかったらしい。

これは体質なのかもしれないが、アイラには慎ましやかな大きさが似合っている。


俺とルーナが絶句していると、その様子がよほどおかしかったのか、アイラが笑いながら説明してくれた。

どうやら、魔獣族というものは、魔力が高い獲物を数多く捕食することで飛躍的に自身の力が増すのだという。

それに伴い、見た目も少し変わるのだとか。


つまり、アイラはこの8日間で、かなり強くなったということだろう。

成長したアイラを見るルーナの目つきが、少しキツくなったように思えるが、それは言わないでおこう。


そういう俺たちも遊んでいたわけではない。

ダンジョンに潜り、魔物相手に腕を磨いてきたつもりだ。


特にルーナは、詠唱なしで回復魔法を使えるようになっているし、一部ではあるが自身の魔力を相手に移すこともできるようになっていた。

回復魔法に関しては、俺よりもルーナのほうがセンスが良かった。

もっとも、魔力量の問題で、使用回数自体はそこまで多くはないのだが。


俺たちは2日間を、魔王討伐に向けた情報収集と作戦会議に費やした。

そして、王都へ帰還してから10日目、俺たちは王宮へ向かう。

なにやら、町中がざわついていた。

俺はすれ違う男のひとりに話を聞いた。どうやら、騎士団長が帰還したらしい。

しかし、騎士団長は血まみれで半ば担ぎ込まれるように運ばれていったという。


俺たちは王宮へと急いだ。

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