3話 力の覚醒とエルフの美女
俺は、勇者パーティーを追放され、さらには王都までも追放されてしまったため、日が落ちかかっている中、隣町を目指していた。
暗くなってきたな、隣町にはまだ距離がある。
仕方ない、今日は野営でしのぐしかないか。
気温も下がってきたし、早く森にでも入って準備をしなければ。
あたりを見回すが、街道と草原が続くのみで野営ができそうな場所はない。
見晴らしのいい草原は、野営のための物資が揃えにくく、魔物に狙われやすいからだ。
ん?あんなところに森なんてあったか?
良く目を凝らすと、遠くに小さな森が見える。
王都に向かう際には気づかなかったが、野営をするにはありがたい。
俺は急いでその森に向かった。
追放されてから数時間、なんとか野営の準備ができた。
追放されるときに衣服以外の物は取られてしまったが、俺には道具に魔法をかけることができる。
この能力を使えば、例えば落ちているこの小枝が、ナイフと同じ切れ味と強度を発揮することができる。
俺はこの能力を使い、ダンジョンに入る際は、みんなの武器や防具に支援魔法をかけることで戦闘の補助をしていたのだ。
ジルガの剣には、硬度や切れ味を上昇させて、攻撃力の強化を。
リリアの杖には、俺の魔力を事前に流し込んでおくことで魔法威力の強化を。
イゴールの大盾には、硬度や強度、魔法反射性能を上昇させ、防御力の強化を。
ざっと思い返すだけで、少なくともこれくらいは支援魔法を使用していたのだ。
まさか、気づいていないはずはないよな?
まさかな、仮にもSランクになろうかという勇者たちだ。
さすがに気づいているだろう。
気づいたうえで、俺を追い出したに違いない。
そもそも、ジルガは俺を気に入らない存在と見ていたのかもしれない。
でなければ、今回の追放宣言には納得ができない。
しかし、いまさらそんなことを考えても仕方がない。
いずれ必ず、魔王を倒しジルガたちを見返してやる。
そんなことを考えながらたき火を眺めていたが、俺はふと違和感を感じた。
森全体を深い霧が包んでいく。
「まさか、この森は魔物が発生するという、魔巣というやつか」
俺のその予感は正しかった。邪悪な気配を身にまとい目の前から、何者かが近づいてくる。
「ギギギ」「グフッグフフ」「ケケケ」
どうやらゴブリンのようだ。ゴブリン程度なら今の装備というか無防備な状態でもなんとかなる。
俺は手に持っている木の枝に雷の魔法を流し込む、さらに支援魔法でそれを強化する。
硬度と切れ味を強化し攻撃力を高める。
俺はゴブリンとの距離を一気に詰める。
濃い霧のおかげで、先手さえ打てれば数的不利は関係ない。
ズバッ、ザクッ、ザシュッ。
「ギギャアア」
俺は目にもとまらぬ連撃で、ゴブリン3体を切り刻んだ。
ゴブリンたちは悲鳴を上げ倒れた。
しかし、周囲の霧は晴れない。
「どうやら、まだどこかに親玉がいるみたいだな」
魔巣はモンスターを大量発生させる際に、ボスとなるモンスターの魔力により出現する。
この森の規模からして、そこまで強大な魔物ではないだろうが、果たして今の無防備の状態で切り抜けられるのか。
「今のうちに脱出方法を見つけるしかないか」
俺はひとまず森からの脱出を試みたが、結界のようなものが張られているらしく出られそうもない。
やはり、相手の親玉を倒さないと無理か。
ズン、ズン、ズン。
遠くのほうから足音が聞こえてくる。
ゴブリンよりは大きいことは足音の大きさで容易に想像できた。
「オークか、オーク程度なら、なんとかなりそうだ」
姿を現したのはゴブリンの数倍はあろうかという巨大なオーク。
ゴブリンはEランク、オークならばDランク冒険者であれば勝てる相手だ。
「いや、待て。オーク程度が魔巣を作ることができるのか?」
ズブッ
「ぐっ、しまった、後ろにいたのか…」
俺は背中から腹部にかけての激痛に襲われた。
痛いなんてもんじゃない、意識が飛びそうだ。
痛みの原因に視線を移すと太く鋭い木の根が俺の胴体を貫通していた。と同時に口から血がしたたり落ちる。
周囲には本性を現した、ゴーストウッドが何体も群れを成していた。
「くそ、普通の木に擬態していたのか。しかも、複数体だと、ここのボスはどうやらこいつらのようだな」
ゴーストウッドはCランク冒険者が倒せるレベル、俺もCランクではあるが装備が不十分な状態では分が悪かった。
どうやら俺の予感は悪いほうへ的中してしまった。
オークなんかよりよっぽど強敵だ、しかも複数体とは。
とはいえ、俺のダメージも重大なもので立っていることも難しい、俺はとうとう地面に倒れ込む。
くそ、こんなところで終わりか。
魔王を倒すどころか、パーティーにまで追放されて、ジルガを見返してやることもできていない。
くそ、くそ、くそ。
「俺は魔王を倒すんだよ!こんなところで終わってたまるか!!俺の邪魔を、するなー!!!」
ズドーン
俺は怒りに任せて立ち上がり、魔力を全開放した。
どうやったのかは、俺にもわからない。
ただ、目の前には、雷に打たれ燃え盛る炎に包まれたゴーストウッドと、オークが倒れていた。
それにしても、雷が地面から立ち上ったように見えたが。
まあ、そんなことはどうでもいい、ともかく俺は目の前の魔物たちを殲滅したようだ。
「ざまあ…み、ろ」
俺は薄れゆく意識の中、1人の女性が歩み寄ってくるのが見えた。
天からのお迎えか、そう思いながら自然にその身を任せるのだった。
まぶしい、俺は死んだのか。光に照らされ目が覚めた。
「ぐっ」
体を起こそうとしたところで激痛に襲われ、再びベッドに身を任せる。
ん?ベッド??痛みがあるということは死んでいないのか???
「目が覚めましたか?」
混乱する俺に一人の女性が話しかけてきた。
その声は透き通り、聞いているだけで心地いい。
俺は、声のほうに視線を移した。
言葉が出ない、とても美しい女性がそこにはいた。
薄水色の透き通った瞳、それと同じ色をした長く伸びたサラサラの髪、神に選ばれたかとさえ思える美貌、肌の色は白くスタイルも良い、美しい見た目からは想像もできないほどの色気も漂わせていた。
歳は俺とそう変わらないように見えるが、気品あふれるその姿は、さながら女神か天使と見間違えるほどだ。
「ああ、俺は生きているんだよな?ここはどこだ?」
「ふふふ、ちゃんと生きていますよ。ここは王都より南にある山間の森の中にある私の家です」
「王都の南だって!?俺は王都を追い出されてから東に進んでいたはずだが」
彼女は俺の声に驚き目を丸くしたが、すぐさま穏やかな表情に戻った。
その表情は優しく、どこか慈愛に満ちた表情のように見える。
その顔を見ていると、どこか懐かしく、俺を穏やかな気持ちにしてくれる。
そして、あの美貌だ。微笑みかけられただけで胸が高鳴る。
「あらあら、王都を追い出されたのですか?もしかして、私はとんでもない悪人を助けてしまったのかしら」
「なっ、そんなわけないだろう」
自分でも驚くほど変な声が出た。
彼女にからかわれたことと、緊張からか、あまりうまく話すことができなかった。
「きみはエルフか?」
「良くわかりましたね、私はソフィリア、ハイエルフです」
彼女はそう言いながら、俺に微笑みかける。
また、胸が高鳴る。
いっそ、窓の外を見ながら話したほうが良いかもしれないとさえ思う。
俺はなるべく、緊張していることを悟られないように話す。
「ハイエルフ…はるか昔に滅んだんじゃなかったのか、たしか、魔王の手によって」
「ええ、私以外にはハイエルフは存在しないでしょう。かくいう私も魔王の呪いにより囚われの身ですけれども」
彼女、ソフィリアはそういうと優しく微笑んだ。
しかし俺には、それがなにか深い悲しみを抱いているような、そんな気がした。