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25話 未知との邂逅

俺たちは虚言の森に足を踏み入れていた。

森の中は薄暗く、そこら中に魔物との戦闘の痕跡がある。

俺たちは周囲に警戒しながら森を進んでいた。

ふと、アイラと視線が交錯する。


「なんじゃ主さま、怖いのか?」


アイラが冗談交じりに悪い笑みを浮かべている。

こういうときのアイラは普段の落ち着いた印象とは違い、子供のようなあどけなさを見せる。

最近はその悪い顔も可愛く思えてきた、気を抜くとニヤけそうになるのを必死にこらえる。


「いや、妙だと思わないか?これだけの戦闘の痕跡があるにもかかわらず、死体がないんだ。冒険者の死体も、魔物の死体ですらもな」


俺の言葉にアイラは腕組みをして考え込む、ルーナはというと今気づいたと言わんばかりに周囲をきょろきょろと見回していた。


「たしかに変じゃとは思っておった。まあ、冒険者側が魔物を完全に消滅させたんじゃろうぐらいにしか考えておらんかったが…」


アイラの言葉の途中ではあるが、俺たちは森の奥地に小高い岩山と、そこから下につながる洞窟を見つけた。

こんなことは、オルレンフィアのギルドでは聞かされていない。

見たところ、洞窟の中は整備されており、何者かが作ったダンジョンのようである。


「ルーナ、アイラ、どう思う」


ルーナは洞窟の奥地を凝視している、おそらくは鑑定眼でダンジョン内を見ようとしているのだろう。

アイラはというと、鼻をヒクつかせて、なにやら気配を感じ取ろうとしている。

先に口を開いたのはルーナだった。


「一応、鑑定眼で見ようとしたのですが、洞窟の入り口に分厚い扉があり、中までは確認できませんでした」


アイラもルーナに続く。


「ふむ、血のにおいも混じっておる、冒険者の一団はあの中だと考えるのが妥当じゃな」


アイラの言うとおり、ここまで死体がないということは、冒険者たちは先に進んだと仮定するべきか。


「よし、俺たちもダンジョンに入るぞ。俺、ルーナ、アイラの順で隊列を組む。俺は前方、ルーナは前方に加え俺の死角を、アイラはさらに広範囲の前方と後方の気配にも気を配ってくれ。いくぞ」


俺たちはダンジョンに入っていく。中は薄暗く、なんとか前方を目視できる程度の明るさしかない。

これでは魔物の奇襲に備えることは難しい。

久しぶりだが、やってみるか。

俺は剣を抜き、刀身に魔力を込める。剣が光り輝き、見る見るうちに視界は開け、通路全体を見渡せるようになった。


ジルガたちとダンジョンに潜っていた頃を思いだす。

この光を頼りに、よくダンジョン内をナビゲートしたものだ。


視界の開けた通路を見渡すと、ダンジョン内も森の中同様に戦闘の痕跡が点在している。

だが、ここにも肝心の生きている魔物はいない。

おかげで、順調にダンジョンを進めることができたわけだが。


しかし、徐々にその雰囲気は禍々しいものへと変化していく。

そして、ちょうど30階層の広間に到着、どうやら行き止まりのようだ。

…いた、今回の獲物はあいつだ。


2階建ての家ほどもある体高に、黒光りした巨体からは鋭く長く伸びた足が8本、なるほど遠目には巨大なクモそのものだ。しかし、実際はクモとは大きく異なっていた。

まず、尻尾…サソリのような鋭い針を備えた巨大な尻尾を持っている。

さらには、頭…クモは前体と後体の2部構造だが、前体には見慣れたトサカを備えた鳥の頭、コカトリスのような頭が3つ付いている。


明らかに異形なその姿は、一目でお目当ての新種の魔物であると判断できた。

一瞬にして空気が張り詰める。

俺は剣に手をかけ、アイラも戦闘態勢に入っている。

俺はルーナを避難させ、魔法障壁で保護する。


俺はあたりを見回す。

いたるところにクモの糸が張り巡らされており、広間全体がクモの巣のようになっている。

所々にクモの糸でできた繭の玉がある…あれは卵か?

俺はアイラに歩み寄り作戦を練ることにした。


「アイラ、お前に石板のほうを頼みたい。できるか?」


「無論じゃ!じゃが、そのあとはどうする?」


「相手の出方がわからない以上、うかつに飛び込むのは危険だ。まず俺が空間魔法で先手を打つ。アイラはそこから攻撃に転じてくれ」


「あい分かった」


そう言うと、アイラは飛び出していく。足音を立てず、ものすごいスピードで急接近。

石板を一瞬魔物に当てたかと思うと、石板が白く光り、そして光が消えた。

これで完了なのだろう。

魔物は反応しない。これなら、一撃で仕留めることもできるかもしれない。


俺は魔力を集中させた、さらに半歩踏みだす。

そのときだ、魔物は振り向き、こちらに牙をむく。

なぜ?考えるよりも先にアイラが叫ぶ。


「主さま、糸じゃ!クモの糸に気を付けろ!絡め取られるうえに、振動で感知されるぞ!」


なるほど、よくできている。

たしかにクモの巣にかかった獲物は視覚ではなく、糸の振動を頼りに狩りをしていると聞く。

実に理にかなっている。

…しかし、感心している余裕はない。


「アイラ跳べ!空間魔法展開、ヒートウェイブ」


炎の波が広間一帯へ広がっていく。周囲に張り巡らされていたクモの糸が焼き切れる。

同時に繭の玉も焼き尽くす。

繭の中から出てきたのは人間だった。

おそらく先に調査に来ていた冒険者だろう。

すぐに近寄って確認するが…息はしていない、手遅れだった。


一方アイラはというと、新種の魔物と交戦中。苦戦しているようだ。


「アイラ、どうなっている?」


「どうもこうも、体表が堅く刃が通らん!」


アイラは広間を広く使い、魔物の攻撃を避けつつ攻撃をしている。

コカトリスの頭は、それぞれが独立し、毒液・炎・石化攻撃を、身体からはクモの糸を出し、尻尾の攻撃まで同時にしてくる。


おそらく、あの連携攻撃はアイラでなければ避けられないだろう。

俺ではまず避けられない、それほどの波状攻撃だ。さすがアイラだな。


「アイラ援護するぞ!空間魔法展開、ヒート……」


俺は途中で魔力を集中させることをやめた。

ダメだ、ここで魔法に頼り切っているようでは、シーティアでの戦闘の二の舞になる。

それだけは避けなければならない、そのためにアイラと剣術の鍛錬をしたんじゃないか!


「主さまよ、どうした!?」


俺が魔法を使うのをためらっているのを見て、アイラが叫ぶ。


「アイラ!俺も剣術で戦う、援護を頼みたい!」


俺は剣を握り、魔物に向かっていく。

特訓の成果を見せるときは今なんだ!

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