24話 新種の魔物調査
シーティアより帰還してから、10日が過ぎていた。
俺たちは、2度クエストを受けダンジョンに潜った。
目的は報酬ということもあるが、魔王の情報とアイラの人探しの情報収集を兼ねている。
どちらの情報に関しても、ほとんど得られずじまいだったが。
魔王について今ある情報は、150年前に俺の生まれ故郷出身の勇者だか賢者だかが倒した。
しかし、現在はザウスガートという魔王が存在し、ソフィリアに呪いをかけた。
強大な魔力と強力な魔眼を持っているという。
だが、倒したというのならば、なぜ今もなお魔王が存在する?
もとより倒すことができないということか?
それとも、復活できるとでも?
はたまた150年前の魔王とは別なのか?
そのへんのことを知っている輩は、どこにもいなかった。
あとは魔王の居場所。
王都の北から東に連なる山脈のどこかに、ダンジョンへの入り口が存在し、そこが魔王の根城へとつながっているとされている。
これについては、実際の目撃例はなく、単純にその地域一帯の魔巣の数と魔物のランクからそうではないかと言われている。
一方、アイラのほうは、罪深き森での魔物の乱獲に似たような事例が数か所で確認されているらしい。
なんでも、冒険者がダンジョンに潜った際に魔物がほとんどいなかったという。
その2日前に潜った冒険者は、魔物を討伐することができず、途中帰還したということから、魔物が突然消えたのではと噂になっていた。
「むう、なかなか有力な情報には出会えんものじゃな」
アイラは難しい顔で愚痴をこぼした。
無理もない、2回のクエストとギルドの資料室で得られた情報が、周辺で似たような事例があるという事実のみ。
それでは愚痴のひとつでも言いたくなるだろう。
「主さまのほうも、あまり情報はないようじゃが?」
「たしかにな。だが、魔王については魔物を倒していけば、いずれはたどり着けるだろう。その間に、他の冒険者が情報を持ち帰る可能性もある。それにいざとなれば、北の山脈にでもいってみるさ」
「ここにいたか、リアム殿」
俺とアイラの話を遮るように声をかけてきたのは、騎士団長のジェイドだった。
「リアム殿、アステラ王より依頼だ。東の町の奥地の森に新種の魔物がいるとのことだ。至急調査に向かい、必要であれば討伐するようにとのこと」
今日は前回と違って落ち着いているな。
やはり、落ち着いていれば騎士団長としての威厳も感じられる。
慌てていないということは緊急性はないということなのだろうか。
だが、至急とも言っていたな。
「緊急性が?」
「いや、今現在、町が襲撃されているわけではない。しかし、いつ被害が出るかわからないから急ぐにこしたことはないが」
「わかった、用意ができ次第すぐに向かおう。今回、騎士団は別の依頼か?」
「そうだ、北の山脈に向かい、魔王軍の情報を集めてくる。最近、魔物の動きが活発化してきている。なにか情報を得られれば、こちらが先手を取れるかもしれない」
自慢げな表情とは裏腹に、槍を握る手に力がこもっている。
緊張しているのか、恐れているのか…騎士団長でも不安はあるということか。
それもそうだろう、本当に魔王軍の拠点になっていれば、前回のシーティア以上の魔物が生息していてもおかしくない。
もし、戦闘にでもなったら総力戦だ、それなりの被害は免れない。
この男はそれが分かっているのだ。
「では、俺はもう行く。新種の魔物の件、任せたぞ」
そういうとジェイドは踵を返す。
広い背中、自分だけでなく多くのものを守る背中だ、一国の騎士団を任される男に相応しいほどの。
「死ぬなよ」
俺はジェイドの背中にそれだけ伝えた。俺には俺のやるべきことがある。
いくぞ、東の地へ。
それから2日間が経ち、俺たちは王都の東、オルレンフィアという町に来ていた。
目的の森に一番近く、農業や林業で発展した町。
のどかで田舎のような雰囲気がありつつも、人々は活気に満ち溢れ、住み良い町である。
人が通りにいるということは、新種の魔物というのは、まだそこまでの騒ぎにはなっていなさそうだ。
とりあえず、ギルドで話を聞こう。
「王国指名冒険者、リアム・ロックハートだ。アステラ王からの要請で新種の魔物の調査にきた。情報をもらいたい」
俺の言葉にギルドの受付嬢は、慌てて奥の部屋に消えていった。
そして出てきたのは、魔導士風の若そうな男性、きっとこいつがここのギルド長だろう。
「よく来ましたね、私がここのギルド長のナイルトンです。あなた方の噂はかねてより伺っておりますよ。なんでもシーティアの町を魔物の大群から救ったとか。そんな方が来てくれるとは、心強い」
ナイルトンと名乗ったこの男、ギルド長という割には物腰も穏やかで、今までのギルド長のように威圧感というものがない。
どちらかというと細身の体で、冒険者になめられるんじゃないかとすら思う。
「それで、今回のクエストについてだが、森の奥地に新種の魔物ということだったな?」
「ええ、冒険者が森を探索中に遠目で確認したと報告を受けています。とても大きなクモのような身体に尻尾のようなものがついていたらしいです」
ふむ、クモの身体に尻尾か、たしかに聞いたことのない魔物かもしれないな。
俺が考え込んでいると、ナイルトンが話を続ける。
「現在、わがギルドの冒険者が調査に向かっております。どうか彼らの力になってあげてください。あと、これを」
ナイルトンが差し出してきたものは、魔法陣の描かれた石板。
クエスト受注の際に渡される石板に似てはいるが、少し違う。
「これは?魔法陣が描かれているが?」
ナイルトンは丁寧に説明を始めた。
「リアムさんは、新種の魔物調査は初めてなのですね。これはクエストで使用される石板に、より高度な細工をしたものです。新種の魔物に遭遇した際は、討伐前に魔物が生きている段階でこの石板を魔物に接触させてください。それにより、ざっくりとではありますが、魔物の戦力を計測し記録することができます」
なるほど、そうやってクエストのランクや魔物のランクを設定しているわけか。
ジルガはそういう説明をしてくれなかったからな、世界には俺の知らないことが、まだまだたくさんあるということか。
「わかった、では出発する」
「ご武運を」
俺たちはギルドを出て、町はずれの街道を歩いている。
目的地はもうすぐそこにある森、ここら辺の人々は《虚言の森》と呼んでいるらしい。
森の奥から禍々しい邪悪な気配を感じる。
以前感じたことのあるような、そんな感覚を覚えながら俺たちは森の中に足を踏み入れるのだった。