23話 パーティー結成
青空が広がり、さわやかな風が吹き抜ける街道。
魔物の姿はなく、とても穏やかな時間。
俺たちは、シーティアでもらった馬車に乗り、王都アステラに向かっているところだ。
レヴィアタンを討伐後、俺の体調の回復や魔力の強化鍛錬、アイラとの剣術の稽古をしていたため、シーティアには17日間ほど滞在していたことになる。
ここまで長期間の滞在となると、町を離れるのが少し寂しい気もするが、目的を果たしたなら、ソフィリアも連れて、また訪れたいと思う。
きれいな町だ、きっとソフィリアも気に入るだろう。
俺は、ふと、あたりに視線を移す。
隣ではルーナが真剣な顔で読書をしていた。
あれはおそらく治癒魔法の入門書のようなものだろう。
出会ってから、ルーナは鑑定眼以外使用したことがない。
本人がそれしかできないと言ったわけではないが、それしかできないと思っていた。
そのルーナが回復魔法を習得し、俺を回復させるまでに成長していた。
正直驚きだ。ともに行動する中で、少しずつ成長しているのかもしれない。
子の成長を感じる親の気持ちはこんな感じなのだろうか。
どこか嬉しくも寂しいような複雑な感情だ。
対してアイラは、馬車を引く馬の背にあぐらをかいている。
アイラも最近はひとりで考え事をしている時間が多いような気がする。
アイラのことだ、放っておいても無茶はしないと思うが、いったい何を考えているのやら。
あまり深く関わりすぎると、また怒られそうだし、少し様子を見るか。
そんなことを考えながら、今回のシーティアでの出来事を思い返す。
そして、ひとつ心に決めた。
今、それをみんなに話す時だ。
「ルーナ、アイラ、聞いてほしい」
俺の突然の言葉にふたりは俺のほうへ向き直る。
なにかを悟ったのか真剣な表情だ。
そんな真剣な表情のところ悪いが、やはり美女に見つめられると照れるな。
おっと、それどころではなかったな。
「ふたりに相談なんだが、俺とルーナ、アイラの3人でパーティーを組まないか?」
ルーナは口元を手でおおい、目を丸くしている、顔色からは喜んでいるようにも見える。
この反応なら、きっと賛成してくれるだろう。ルーナはわかりやすくて助かる。
問題はアイラのほうだ。腕組みをしながら目を閉じて、なにかを考えている様子。
しばらくして、アイラは腕組みを解き、視線をこちらに移す。
そしてゆっくり口を開いた。
「なにゆえパーティーを組む?」
アイラは一直線に俺を見る。
その真剣なまなざしで、ごまかしは無用であると俺は理解した。
「俺の目標は魔王を倒すことだ。そして、それにはふたりの力が必要だ。だから力を貸してほしい」
小細工は意味をなさない、ならば正直な胸の内を伝えるのがいい。
先の戦いと、先日までの鍛錬の日々で、ふたりが俺の支えになっていることはわかった。
きっとこれからの戦いにおいても、ふたりの力は俺の助けになるはずだ。
俺の言葉を受け、アイラは再び腕組みをし、考え込んだ。
「主さまがわれらとパ-ティーを組みたい理由はわかった。ルーナも賛成というところか。しかし、われには主さまとパーティーを組むメリットがない。むしろ、それが今後、われの足かせとなるやもしれん」
なるほど、アイラにもなにか目的と考えがあるようだ。
それならば、俺が強引に話を進めるわけにもいかないか。
しかし、なにが目的なんだ?
あまり聞きすぎると、また怒られそうだが…。
「アイラの目的はなんだ?罪深き森では忠誠を誓うためと言っていたが、パーティーを組むことを断るのなら、忠誠を誓うという言葉と矛盾する。なにか別に目的があるんだろ?」
アイラは腕組みのまま顔をあげた。
俺の顔をまっすぐ見て、ため息をひとつ。
「ふむ、たしかに忠誠を誓うといった言葉に背くことになるな。あの時の話は覚えておるな、森でわが子分たちの乱獲があったという話じゃ。われはその首謀者を探しておる。そして、その者を討ち、わが子分たちの無念を晴らすのが目的じゃ」
なるほど、忠誠を誓うという理由よりもはるかに納得できる目的だ。
この話に嘘はないだろう。俺は妙に納得できた。
「それなら、なおさら冒険者になるといい。冒険者になれば、ギルドで情報を集めることもできるし、資料室への立ち入りも許可される。アイラの目的達成にも役立つ情報があるかもしれない。まあ、そのほとんどが冒険者が持ち帰った情報ではあるがな」
俺の発言にアイラは少し驚いた様子で、目を見開いた。
「止めぬのか?万が一、わが子分たちが無事であれば、われは迷わず開放するぞ?魔物が野に放たれることは、人間からすれば困ることではないのか?」
それはもちろん困る。
ただでさえ、罪深き森にいた魔物のレベルは高い。
並みの冒険者では歯が立たないどころか、王国の騎士団ですら油断すると足元をすくわれるだろう。
だが、俺にはアイラが人間に害をもたらすことを望んでするようには思えない。
それをするなら、そもそもシーティアの町の戦闘には参加していないはずだ。
「俺はアイラが人間に害のある行動をするとは思えない。もし、魔物を開放したとしても、アイラが責任を持ってコントロールするはずさ。俺はそう信じている」
俺の言葉を受け、アイラは少しはにかんだ笑顔を見せたが、すぐに顔をそむけた。
「ふむ、仕方あるまい。ルーナの頼みでもある、われもパーティーに加わることにしよう」
あとになって聞いたことだが、ルーナは事前に3人でパーティーを組みたいとアイラに話をしていたらしい。
そこで、反対派のアイラを長い時間かけ説得したそうだ。
ルーナのそういうところは正直すごいと思う。
頑固なところのあるアイラを説得するとは…本当にそういう面ではルーナには敵わないな。
とにもかくにも、これで俺たち3人はパーティーを組むことで全員の意見がまとまったのである。
それから数時間。
俺たちは王宮内の広間にいる。
シーティアでの件についての報告のためである。
そして、アステラ王はゆっくりと玉座に腰かけた。
「リアム・ロックハート、ルーナ・アルシノエ、と獣人の娘。こたびのシーティアでの働き大儀であった。戦果については、騎士団長ジェイド、ギルド長バルスの両名から報告は受けている。そこで、提案なんだが…」
俺はイヤな予感がした。
国王直々の提案であれば、まず断ることはできない。
断れば場合によっては反逆罪になることもある。
王国指名冒険者である俺が、反逆者にされる可能性は低いが、そもそも選択の余地がない提案ほど、ありがた迷惑な話はないのだ。
「リアム・ロックハートをわが側近として迎え入れ、今後はこの王宮にて国家の発展と防衛に尽力してもらいたい」
意外だった、まさか貴族出身でない人間が国王の側近とは。
いや、ルーナであればあるいは、キーウッドの町長の娘だ、あり得るのかもしれないが。
「国王、質問よろしいですか?もし、その提案を断ればどうなります?」
「ふむ、あまり言いたくはないが、ことと次第によっては冒険者資格のはく奪もあり得るな。お主のような優秀な冒険者は失いたくない、よく考えてから発言してほしい」
やはり、拒否権はないに等しい。
それは予想できた、あとは側近になるメリットとデメリットだ。
その比重によって答えを考える。
打算的と言われようが、俺にも譲れない目的がある。
「では、もうひとつ聞かせていただきたい。側近になったとしても、今まで通りクエストで王都外へ出ることは問題ないということでよろしいですか?」
国王は腕組みし、眉間にしわを寄せ考え込んでいる。
「それはならん、側近はわが王宮内での仕事が主になる。そうやすやすと王都を離れてもらっては困る」
その答えに俺は小さくうなずいた。
それなら、答えは決まっている。
「では、その申し出、お断りさせていただきます」
「なに!?」
アステラ王は、思わず玉座から立ち上がる。
驚きを隠せない様子で、顔を真っ赤にし、肩をわなわなと振るわせていた。
「理由を聞かせてもらおう、場合によっては、おぬしたちを追放せねばならん」
俺は深呼吸をひとつ、気持ちを落ち着かせ、ゆっくり話し始める。
「俺の目的は魔王を倒すこと。側近になり王宮を離れられなくなれば、目的達成までの道のりが長くなります。それにここにいる獣人の娘のアイラも人探しをしています。俺はそれを手伝うと決めています。国王が俺たちを追放するというならば、謹んでお受けしましょう。魔王の討伐も人探しも、それ自体は国を追われた身でも可能ですので」
俺はまっすぐ国王の目を見て、堂々と言い放つ。
国王もそんな俺をまっすぐに見ている。
まるでなにかを試すように。
今、言うべきことではないが、やはり男に見つめられるというのは気分のいいものではない。
まあ、それは今は置いておこう。
「よかろう、そこまでの覚悟であれば無理にとは言わん。ただし!王国指名冒険者として、国のための依頼は率先して受けることが条件だ。これだけは譲らんぞ!」
アステラ王は意外と話が分かる。
いや、町ひとつを救える戦力をみすみす逃したくないだけということもある。
ただ、まあ、ジルガたちのパーティー時代にもアステラ王は良くしてくれてはいたか。
あの傲慢なジルガの行いに目をつむっていたことも多いはずだ。
「もちろんです。今後は、俺とルーナ、アイラの3人でパーティーを組み、王国のために尽くすと約束しましょう」
こうして俺たちは、王宮をあとにし、ギルドでルーナとアイラの冒険者登録とパーティー登録をした。
パーティー名は決めなかった、単純に良い名前が思いつかなかったからだ。
パーティー名がなくても特に問題はないらしいし。
さらにアステラ王の計らいによって、ルーナとアイラは登録時点で、すでにBランク冒険者として認定されていた。
シーティアでの功績が認められたらしい。
加えてパーティーランクもAランクとなった。
どこまでもお人好しな国王だな、だが、ありがたい。
この日、俺たちはパーティーとして新たな門出を迎えたのであった。




