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22.5話➃ 決戦のあと《リアムの苦悩…その➁》

「アイラ、まだだ!もう1回、いくぞ!」


「よかろう、来い!」


俺とアイラ、ルーナの3人はシーティアの町のはずれの草原に来ていた。

俺はレヴィアタンを討伐し、自分の課題を見つけ、魔王を倒すため王都へ帰還する前に鍛錬を始めたのだ。

魔力の鍛錬は自分でもできたが、剣術の鍛錬はアイラに頼ることにした。


ちょうどアイラも、鍛錬がしたいということで快く引き受けてくれたのだが……。


ガコォォン

俺の木剣はアイラにはじかれ、のど元にダガーほどのサイズの木剣が突きつけられる。

これで0勝12敗、自分の剣がいかに未熟かを思い知らされる。


なんで勝てない?罪深き森では勝てたはずだ。

あの時は、アイラはガルム本来の姿だったから、剣と魔法の戦闘に慣れてなかったというのか?

いや、今のほうが本来の姿での戦い方に寄せているわけだから、それはないか…。


「悩んでおるな、主さま。なぜ、われに勝てぬか聞きたいか?」


アイラは勝ち誇ったような笑みを浮かべながら聞いてくる。


「いや、まだだ。もう少しでなにかつかめるかもしれない、もう1回だ!」


「その意気やよし!受けてやろう」


その後も何度か挑んだが、日が暮れてしまったので宿に戻ることとなった。

結局勝つことはおろか、一太刀もあびせられなかった。


なにがダメなんだ?そもそも、アイラの動きについていけないどころか予測すらできない。

森の中での戦闘であれば、木を利用した立地的な戦闘が可能になるから予測ができないのはわかる。

だが、今日は草原での戦闘だった。

空でも飛べない限り立体的な攻撃はできないから予測しやすいはずなのに…。


俺が考え込んでいると、ふと視線を感じて、顔をあげた。

ルーナが俺の顔を覗き込んでいた。

上目遣いをしているルーナはいつだって可愛い。

俺は思わずニヤけそうになるのを必死にごまかした。


「リアム様、大丈夫ですか?ずいぶん考え込まれているようですが」


どうやらルーナに心配されていたようだ。

無理もないか、ここ最近は、ずっと自分の鍛錬のことしか考えていない。

魔力については自己解決できたが、どうにも剣術は自分ひとりでは難しい。

しかし、そうだな…宿にみんなでいるときに考えるのはよそう。


「ああ、大丈夫だ。そういえば、ルーナは最近ずっと本を読んでいるが、なんの本を読んでいるんだ?」


「な、な、な…なんでもないです。どうか、気にしないでください!」


俺の質問にルーナは慌てた様子でごまかしている。

なにか、マズイ質問だったか?

首をかしげる俺にアイラは、呆れながらに歩み寄る。


「まあまあ、良いではないか主さまよ。ルーナはルーナなりの考えがあるのじゃろうて」


「そう言えば、アイラもルーナの呼び方を変えたんだな。なにかあったのか?」


アイラはため息をひとつ。

両手の手のひらを上に向け、やれやれといった様子。


「主さまは、なんと言うべきか…もっと、乙女心というものを学んだほうが良いの。なんでも踏みこみすぎなのじゃ。ときには静かに見守ることも必要じゃよ」


「そ、そうなのか。それはすまない、今後は気をつけよう」


やはり女性と関わることに慣れていないせいか、こういうのはよくわからない。

今度、ここの店主のマリームさんにでも聞いてみるか…いや、あの人の勢いでは参考にならないかもしれない、やめておこう。


そんなことを考えていると、アイラが優しく語りかけてくる。


「そこまで難しく考えずとも良い。われもルーナもそこまで気にしておらんし、主さまのそのおせっかいに救われておる者がいることも、また事実。ゆっくり慣れていけばよい」


なぜかアイラに俺の心の内を見透かされているような気分になる。

おそらくそれで苦い顔でもしていたのだろう。

アイラは笑みを浮かべながらルーナのもとへと歩いて行ってしまった。

…今日はもう寝よう。俺はひとり静かにベッドに潜り込むのだった。


翌日。今日も早朝から町はずれの草原に来ていた。


今日で剣術の稽古は3日目、いまだにアイラに一太刀も入れられていない。

なにが悪いのかも、まだわかっていない。

ただ、確実にアイラの動きに反応できるようにはなってきている。

この調子でいけば、少しずつではあるが着実に強くはなれる。


と、稽古の前に珍しくルーナが俺のところに歩み寄る。

そして、ブレスレットのようなものを差し出してきた。


「リアム様、今後、稽古中はこれをつけてください」


そう言うとルーナは俺の左腕にブレスレットを装着した。

まさか、重り付きのブレスレットで筋力倍増!?

…というものではなさそうだ。

あまり重さもなく、大きさもないため剣を振る際の邪魔にもならない。


「ルーナ、これは?」


ルーナへの質問をアイラが答える。


「それは、魔力を封じるものじゃ。先日ルーナに頼み用意してもらっておった。われは金を持ち歩いておらんでな。これで主さまは魔法が使えぬただの剣士。さらに今日からは、木剣ではなく実戦で使用する剣で稽古をする。本気でやらぬと命を落とすと思え」


そう言うとアイラは俺の剣をこちらに放り投げる。

ザクッという音とともに剣は地面に突き刺さった。

実践の剣で!?さすがに魔法を封じられた状態でアイラ相手にそれはキツイ。

軽い木剣でさえ一太刀もあびせられていないというのに。


「アイラ、ちょっと待ってくれ。それは、いくらなんでも…」


「問答無用!」


俺の言葉をさえぎるようにアイラは突っ込んでくる。

ダメだ、話を聞いてくれる状況じゃない。

俺は、地面に突き刺さったままの剣を引き抜き、構える。

勝てなくてもいい、一太刀あびせることも後回しだ。

まずは攻撃を防ぎ、アイラの剣をはじき、話をする時間を稼ぐ、それが最優先だ。


ガキィィィィン

乾いた金属音がこだまする。なんとかアイラの一撃を防ぐ。

しかし、アイラの姿を捉えることができない。くそ!


「後ろじゃ」


アイラの声に反応し振り返る。

アイラはすでに攻撃体勢に入っている。

俺の剣にアイラのダガーが打ち付けられる。

そして、俺が剣を振る頃にはアイラの姿はそこにはない。

圧倒的なスピードの差、どう埋めればいいっていうんだよ!


と、視界の端にアイラの姿を捉えることができた。

俺は、半歩踏みこみ剣を振るう。

アイラは驚きの表情を見せながらも、それを避ける。

だが、体勢は崩れた…いけ!

俺はそこからさらに半歩踏みこみ剣を振る。


ギギィィィン

乾いた金属音とともにアイラの2本のダガーが俺の剣を受け止めている。


「アイラ、話を…」


「口を閉じんと舌を噛むぞ。集中しろ、もっと速く、強くじゃ」


アイラが再び距離をとる。

アイラの姿が視界から消えた。

…後ろ!と振り返ったが、そこにアイラの姿はなく、下からアイラに蹴り上げられ、俺の意識は遠くに飛ばされた。


目を開けると、そこにはきれいな青空が広がっていた。

どうやらアイラの蹴りによって、気を失っていたらしい。

俺は痛むあごをさすりながら身体を起こす。

アイラは昼寝している。

ルーナは俺に気づいたようで近づいてきた。


「大丈夫ですか?」


心配そうにルーナは俺の顔を覗き込む。


「ああ、アイラを呼んできてくれ。稽古の続きだと。」


ルーナは目を丸くしていた。


「まだやるんですか?」


「もちろんだ、俺には強くならなければならない理由がある。時間は無駄にはできない」


言い終わる頃には、アイラが目の前にいた。

眠そうにしているが隙が無い。

ここらへんはさすがといったところか。


「アイラ、もう一度頼む」


俺は剣を支えに立ち上がる。

体力的には次で今日は最後になるかもしれない。

なんとしてでも、何かヒントを得るんだ。

俺は自然と剣を握る手に力が入る。


「いくぞ!」


掛け声と同時に俺は、力強く踏みこみ剣を振る。

そこにアイラの姿はない。

…後ろ!と気配を感じた瞬間、剣を横なぎに振りながら振り返る。


ブォン!


風切り音で斬撃の威力がわかる。が、当たらない。

アイラは身をかがめ、俺の剣をかわしていた。

俺はそのまま剣を振り下ろす。

同時にアイラが後方に飛び、俺との距離をとる。


今、魔法が使えればアイラの着地に合わせ土属性魔法が使える。

いや、空中にいる間に別の魔法で攻撃してもいい。

そんなことを考えた一瞬の間をアイラは見逃さなかった。

着地したアイラに放った渾身の突きはかわされ、すれ違いざまに一撃。


俺はなんとか剣をタテに構え斬撃を防ごうとしたが、間に合わず右腕に激痛が走る。

俺の右手は剣の柄から滑り落ち、自力で持ち上げることができない。

どうやら、腱が切れたようだ。

骨ごと切断されなくてよかったと、心の底から思った瞬間だった。


だが、問題はそこではなかった。

俺の剣術がアイラに届かない理由、それは俺が魔法剣士であるからだ。

っと、その前に治療しなければ出血多量で死ぬ。


「ルーナ、治療…を…しなけ……れば…」


マズイ、出血が多すぎる。

俺は急激なめまいに襲われ、地面に卒倒した。


目を覚ました時には、空は赤く染まっていた。

どうやら生きているらしい、しかし長いこと気を失っていたようだ。

俺はなんとか身体を起こすが、頭が重い。

そのまま後ろに倒れ込んだところをルーナに抱きとめられた。

見ると、その目には涙を浮かべていた。


「ルーナ、大丈夫だ。なんとか生きているらしいな。ブレスレットを外してくれ、傷の治療をしないと…」


そう言いながら自分の右腕に目をやると、出血は止まっている。

それだけではない、動かせる。倒れるまでは腱が切れていたのか、動かせなかったはず。

治療薬にしたって、ただのポーションだけではここまでの回復は無理だ。

いったいどうやって…。


不思議そうに自分の腕を見る俺にアイラが近づいてきた。


「ルーナに感謝するんじゃな。ルーナが回復魔法を使えるようになっておらんかったら、今頃、干からびて死んでいたところじゃ」


そうか、治療はルーナが。

使えるようになったということは、時間をかけて習得したんだろう。

最近読んでた本は回復魔法の入門書というところか。

なぜ、そんなことをとは聞くまい。

昨日もアイラに言われたからな、踏みこみすぎは良くない。


「ありがとう、ルーナ。俺のために頑張ってくれていたんだな」


俺の言葉にルーナは顔を真っ赤に染め、勢いよく立ち上がる。

俺は背後の支えを失い、後頭部を地面におもいきり打ちつけた。


それを見たアイラは、呆れた顔で首を横に振っている。

どうやら俺は、また何か間違えたらしい。

乙女心とは言うならばAランククエストのダンジョンよりも難しいとさえ思う。


「自分の剣術の弱点、見つけられたか?」


アイラの問いにハッとした。


「ああ、俺はいつの間にか、魔法を頼りに剣術を使っていた。そのせいで反応が半歩遅れるんだ。アイラにはそこをつかれた、しかし、どうすればいいかまでは、まだ…」


アイラはうなずきながら話を聞いていた。

この推測は間違っていないらしい。


「その通りじゃ。主さまの魔法は強大じゃ、ゆえに魔法で相手の動きを制限し、無意識に相手の動きを予測しておる。われが先手を取ることをメインに考えているのに対し、主さまは後の先を取りにくる感じじゃ。しかし、魔法さえ封じられれば、自分と同等かそれ以上の相手には勝つことはできん。ここらが今の主さまの限界というところじゃな」


アイラは物事をはっきりと言う。

たとえ、それが相手の心の傷を深くえぐる結果になろうとも。

その結果、俺の心はズタズタだ。

自分の限界を他人に突きつけられ、解決策も見いだせない。

いったいどうすればいい…。俺はおもわず頭を抱えた。


その様子を見ていたアイラは噴き出して笑った。


「主さまでも悩み、頭を抱えることもあるのだな。いかに強大な力があろうとも、やはり全能というわけではないのじゃな。少し安心したぞ。なに、悩むことはない。われは今の主さまの限界と言った。われもルーナも、主さまの限界はもっと先にあると信じておるぞ」


そう言うとアイラは機嫌よく立ち去った。

そうだ、限界は自分で決めるものじゃない。

鍛錬すれば限界は引き上げることはできる。

考え方を変えれば限界もなくなる。

過去にそう学んだはずだ!


ありがとう、アイラ、ルーナ。

俺は心の中で感謝を述べ、宿へ帰る。

明日にはアステラに向け出発だ。

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