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21話 その頃、ジルガ勇者御一行様はというと…その➃

俺さまたち勇者パーティーは、Sランク昇格クエストの際のペナルティを見事クリアし、今は王都の西にある森を探索していた。

ただの探索でAランククエストとは大げさだが、それが、こんなに簡単ということは、やはり俺さまたちが優秀だからだと言える。


「ダスティン、あとどのくらいで最深部にたどり着く?」


「このペースなら、あと30分も歩けば最深部へ到達できるかと」


Aランククエストがこんなに簡単でいいのかよ、これならすぐにでもSランクへ昇格できるかもしれねえな。

俺さまは気分がいい。

一時はクエスト失敗による失態をさらしたが、それからは順調すぎるほど順調だ。

それには理由がある、パーティーメンバーを補充し、さらに強化したのだ。


新しく加入したのは3人。


レイクレット・オートルン、もともと騎士団志望だったところをダスティンがスカウトした。

騎士団志望というだけあって、装備は重厚で、盾とランスを使用して前線で戦うことができる。


ハティ・ルルメリア、医者として回復魔法の研究をしていたところ、同門のリリアがスカウトしてきた分厚い眼鏡をした地味っ子。

引っ込み思案であまり自己主張はしない。

人見知りも激しく、リリアの陰にいつも隠れている。

回復魔法が得意だが、攻撃魔法も使用できるヒーラー役。


ノルケラ、別の森の探索中に出会った野生児。

敵対してきた際にイゴールが直接対決を制し、イゴールにのみ忠誠を誓うかたちでパーティーに参加。

野生の勘での索敵能力に加え、森の狩りで鍛えた弓を使用し戦闘も可能。


この3人を新しく加入させたことで、俺さまたちはさらに完璧なパーティーになった。

とっとと、こんなクエストクリアしてSランクへ昇格してやるぜ。

そして勢いそのまま、魔王を倒し、金と権力、多くの女を手に入れてやるんだ。

そんなことを考えながら、しばらく歩き続けると、少し開けた場所に出た。

どうやら、この先が最深部のようだ。


意外にもここまでほとんど魔物に遭遇することなく進んでこれた。

まあ、ノルケラのおかげで、最近は戦闘回数も目に見えて減っているのだが。

ふと、俺さまはこの先が最深部ということで、周囲を警戒する。


「お前ら止まれ、イゴール!ノルケラの野郎の様子はどうだ?」


最後尾のイゴールが目の前を歩くノルケラと言葉を交わす。

前回の探索のときに森で拾ったため、言語については誰も理解できなかったが、何かあればイゴールにだけは伝えようと努力していた。


「いつもと変わりはない、特に強力な魔物はいないようだ」


「ふん!魔物どもめ、俺さまたちの強さに恐れをなして逃げやがったか。そんじゃあ、とっとと奥まで行って帰るとしようぜ」


俺さまたちが広場から最深部へ続く道に足を踏み入れた瞬間、悪寒が走る。

なにかいる!その場の全員がそう感じただろう、それほどの邪気が流れ出ていた。

俺さまは振り返り最後尾を確認する。

ノルケラの姿がない!?バカな!イゴールは気づいていないとでもいうのか!?


「イゴール!ノルケラの野郎はどうした!!?」


俺さまの声に全員が振り返る。

俺さまたちのパーティーは、前衛に案内役のダスティン、戦闘要員で盾役もこなせるレイクレットと俺さま、魔導士リリアとハティ、後衛に援護役のノルケラと盾役のイゴールという隊列である。

つまり、俺さまの声で全員が振り返るということは、前方を注視できたのはイゴールのみということになる。


「ジ…ジルガ……なんだ…あれは…?」


そのイゴールが間抜けな顔で、怯えながら前方を指さす。

俺さまたちは再び前方へ向き直り驚愕した。

目の前には、人間3人分の体高に細長い体と首、魚のような頭からは鋭い牙が生えており、2対の角とヒゲもある。前足は鋭く伸びた爪を備えており、ランランと赤く光る瞳は薄暗い森の中で不気味に漂うゴーストのようである。


「あ…あれは……たしか、ジャバウォック…」


ハティが珍しく自分から発言する。両手で口元をおおい、ガタガタと震えながら。その様子を見るだけで、強敵であるとわかる。


しかし、変じゃねえか。

ここまで接近しないとやつの気配を感じることができなかったってのか?

普通なら、強えやつは遠くからでもその存在がわかるはずじゃねえか。

ましてや、野生児のノルケラが身の危険を察知できねえはずがねえ!


しかし、ノルケラがいなくなったという問題の答えは、敵の接近によりもたらされた。

ジャバウォックと呼ばれた魔物は、皮はただれ、肉は腐り、ところどころ骨が見えている。

内臓のようなものはなく、なぜ動いているかもわからない。


唯一わかったことは、何者かがやつに捕食されたということ。

血まみれで、肉塊と化した人型のなにかが、ジャバウォックの食道であろう空間を滑り落ち、そのまま地面にベチャッという音を立てて落下した。

遠くから食い殺されたものが誰かは確認できないが、ジャバウォックの牙に引っかかった弓で、ノルケラだということがすぐに分かった。


「私の知っているジャバウォックじゃない…あんな…まるでゾンビみたいなのは知りません」


ハティが力なく話す。突然仲間のひとりがやられ、目の前には見たことのない魔物がいる。

俺さまたちはパニックに陥った。

人間は頭で理解できないことに恐怖する。


俺さまの優秀な頭脳は、目の前の魔物の正体と、仲間がどうやって食い殺されたのかという問題の答えを必死に導きだそうとする。

しかし、わからない。


「オエエェェェ」


パニックと腐敗臭にやられ、ハティが嘔吐する。

その瞬間、今まで視線を泳がせていたジャバウォックがこっちを見た。

どうやらやつは動きに反応するらしい。


「全員動くなよ、やつは動きに反応している。やつがいなくなるまでこのまま耐えるぞ!」


全員が俺さまの指示を聞き、動きを止めている。

ジャバウォックも近づいてはくるものの獲物を見失い、攻撃を仕掛けてこない様子。

1分、2分…こんなに時間が長く感じたことはねえ。

いや、待て、全員で一斉に攻撃すりゃ倒すことはできなくても、逃げる隙くらいはできるかもしれねえ。


「おい、みんないいか?このままじっとしててもラチがあかねえ、俺さまの合図でリリアとハティ…!?」


その先の言葉は出てこなかった。目の前のレイクレットが急に姿を消しやがった、いなくなったというよりは襲撃されたように見えたが、どこだ!?

俺さまはなるべく動きを抑えた状態で周りを見回す。


「ジルガ、あれ!」


リリアの声に反応し、リリアの指さすほうを見る。

いた!レイクレットは、シャドーウルフに引きずられている。

そのままレイクレットは、ジャバウォックのほうへと運ばれる。


まさか、とは思ったが、そのまさかな現実が目の前にあった。

シャドーウルフはレイクレットを差し出すかのように、ジャバウォックの目の前にレイクレットを置いた。


「どうなってんだ、違う種類の魔物同士が協力して狩りをしてるってのか!?」


誰も俺さまの問いかけに反応しなかった。

みんな目の前の状況を息をのんで見守っている。


「た、助けて!助けてくれー!!!」


レイクレットの悲痛な叫び声だけが森の中に響き渡った。

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