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2話 役立たずのたいまつ君

「リアム・ロックハートをこのパーティーから追放する!」


ジルガの追放宣言はギルド内に響き渡り、目の前のメンバーだけでなく、ギルド内のすべての視線が俺に集まる。

こうなってしまっては、さすがにもう追放宣言を受け入れるしかない。

悔しさがこみあげてくるが、こぶしを握り締め耐えることしかできなかった。


「わかった、今まで世話になった」


悔しさを押し殺し、やっとの思いで、それだけ伝えた。


「おい、待てよ、リアム!その剣と防具一式は置いて行けよ!それは、俺さまたちが苦労してクリアしたクエストの報酬で揃えたものだ、返してもらうぜ!」


まさか、これほどまでの仕打ちを受けようとは。俺はジルガの言う通り補助役に徹したというのに、戦闘にしたって前線での戦闘の指示さえあれば期待以上の仕事はできるのに。

しかし、今となっては、それを伝えたところで負け惜しみにしか聞こえないだろう。


「そうか、すまない」


「ま、せいぜい達者でな、たいまつ君」

「バイバーイ」


メンバーそれぞれが思い思いのセリフを投げかけてくるが、俺の耳には、もはや入ってこなかった。

悔しさに震えながらギルドを出ようとすると、一人の男が道をふさいだ。


「ここのギルド長のバルスだ、悪いが話は聞かせてもらった。たいまつ君、きみは勇者パーティーを追放された時点で、ただのCランク冒険者だ。王都にはBランク以上の冒険者しか立ち入ることが許されていない、きみが冒険者を諦め、商人や使用人にでもならない以上、王都からも出て行ってもらうことになる」


使用人だって!?冗談じゃない!俺は魔王の討伐を誓ったんだ、こんなところで終わるわけにはいかない。かといって、冒険者のまま居座れば国王命令違反で重罪か…くそ!


「わかっている、そこをどいてくれないか!」


「みじめだねぇ」

「パーティー追放どころか、王都追放なんて初めて見たぜ」

「頑張れよ、たいまつ野郎!」


出口に向かうまでのほんの数十秒間に何人から罵声を浴びせられただろう。そんなもの数えていないし、耳にも入らなかったからわからない。

ただひとつ、はっきり覚えているのは、全身が熱くなり、呼吸ができなくなるほど胸が締め付けられるような強い怒りのみだった。


俺は強い怒りと悔しさを胸にギルド、そして王都を出ていくのだった。




一方、リアムを見事追放することができた勇者パーティーのメンバーは、明日の準備をするでもなく、いまだにギルド内で飲み明かしていた。


「あのリアムの顔を見たかよ?悔しさのあまり真っ赤になっちまって、おかしいったらなかったぜ。なぁ、みんな!」


「ジルガに何も言い返せなかったもんね、超みじめじゃん。それにイゴールのたいまつ君はサイコーだったわ」


俺さま、勇者様であるジルガの言葉にリリアがすかさず応じる。


イゴールは腕組みをしたまま、うなずいている。

リリアの言葉に寡黙なはずのイゴールも少し口角が上がっているように見える。

イゴールもリアムが何も言えずに追い出されるのが愉快だったに違いない。


「そんなわけだからよ、よろしく頼むぜ、ダスティン」


新入りのダスティンにも話を振ってみる。


「まあ、彼よりは役に立つとは思いますよ。ところで、なんでそんな役立たずと一緒に旅を?」


まあ、当然の質問だろう。

俺さまやリリア、イゴールに比べてリアムの役立たずぶりは目に余るものがあったからな。


「リアムと俺たちは故郷が同じで、ラズエルっていう村の出身なんだが、俺とリリア、イゴールがクエストで村を出てる間に魔物に襲われたらしくてな。村は壊滅、俺さまたちも故郷を離れることにしたんだが、そこでたまたま生き残っていたリアムを見つけて、荷物持ちとして拾ってやったってわけだ」


「もう少し役に立つと思ってたのよね、でも結局は、たいまつ君だもんね、イゴール」


「ああ、もう少し役に立てば俺たちのクエストの効率も上がっていただろう」


「それにしても、ジルガもやることが酷いよね~。明日からSランクに向けて頑張るぞのタイミングで辞めさせるなんて。私なら二度と立ち直れないかもしれな~い」


リリアとイゴールも俺さまの話に続く。

こいつらも少なからずリアムに不満を抱いてたってわけか。

本当はやつの家系は剣術と魔法の両方に優れている血筋だって親父に聞いたことがあった。

戦争などの際は、うちの家系は代々やつの家系を支える使命があるらしいが、廃れた風習だ。

単純に俺さまはあいつが気に入らねえ。この俺さまが、やつを支えるなどあってたまるか。


幸い、やつ自身もリリアやイゴールもそのことを知らなかったからな、荷物持ち役として調教しといてよかったぜ。

あいつには、道具への魔法の流し方しか教えてねえ。

リリアのマネで魔法を使おうとしてるみたいだが、そもそも魔力の制御の仕方を理解してねえとできねえからな。

今から、あいつを拾ってくれるパーティーなんかいねえだろう、ざまあみやがれ。


それに引き換え、今や俺さまは勇者様だ。

いずれはパーティーの奴らだけでなく、この王国の奴らすべてに俺様の正しさを証明してやる。そしてついには姫様を我が物にし、国王にまでなり上がってやる!


その輝かしい未来はもうすぐそこまで来ている。

Sランクに昇格できれば、今まで入ることが許されなかったダンジョンに入ることができる。

そうすれば、貴重なアイテムや高価な宝を手に入れることができ、魔王討伐もすぐに可能になる、なんたって俺さまたちは150年ぶりの超エリートだからな。


俺さまは、気分が良くなっていた。

邪魔者を追い出し、パーティーの奴らは俺さまを称賛している、輝かしい未来も目の前だ、気分が悪いはずがない。

明日の昇格クエストだって難なくクリアできるだろう。


だが、俺さまは優秀な勇者様だ、油断はない。明日の準備を始めなければ。


「ダスティン、アイテムの管理と補充はきっちりやっておけよ!あとギルド長にダンジョンの地図をもらって読みこんでおけ!あと、俺さまたちの武器の手入れも忘れるなよ!」


「え、ええ、わかっていますよ」


ん?一瞬、ダスティンの表情が曇った気がしたが気のせいか?

この勇者パーティーのメンバーに加えてやったんだ、万に一つも不満はないだろう。

そんなことはリアムですら数時間とかからずにこなしていたのだからな。


「あの、アイテムを補充するための金貨とリストをもらえませんかねぇ。2万ギールもあれば十分だと思うんですが」


ダスティンは頭をかき、笑いながらもう片方の手を差し出してきた。


「金は自分の手持ちで間に合わせろ、クエストをクリアできたら十分な取り分をやる。アイテムのリストは自分で考えて用意すんだよ!そんなことリアムでもできてたぞ!」


「そ…そうですよね、すいません。じゃあ、用意してきますので」


ダスティンは慌ててギルドを出ていった。

まったく、ダスティンの奴も頼りねえな。

このクエスト次第では、あいつも用済みになるかもしれねえな。


はじめてのSランクのクエストだ、それなりに苦労するかもしれないが、俺さまたちは優秀な勇者パーティーだから、難なくクリアできるだろう。

そう、今までがそうだったように。

そんなことを考えながら、俺さまは明日のクエストを終えた後の、周囲からの羨望のまなざしと称賛の嵐を想像しながら宿に向かうのだった。


明日のクエストがSランククエストということ以上に、ほかの意味でも過酷なものになるとは、この時は俺さまも含め、リリアもイゴールも、新規加入したダスティンですら、誰も想像していなかったのであった。

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