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18話 シーティア防衛戦《前哨戦》

「魔物どもを押し返せ!」

「諦めるな、この町は俺たちが守るんだ!」


騎士団や冒険者は、突如として聞こえてきた声に刺激され、士気を高め魔物に立ち向かっていく。

健闘はしている。

しかし、戦力差は埋まらない。

やはり魔巣を先に叩かねば、こちらが消耗する一方か。


「ジェイド、あの島はこの町にとって重要なものか?」


ジェイドは俺の問いに首をかしげ、質問の意図を理解できていなかった。


「いや、あの島には森があり、木材の確保を目的に橋がかけられたと聞いている。それがどうした?」


「あそこに魔巣がある限り、戦況は不利のまま変わらない。ならば、まずはあの魔巣からだと思ってな。森は消失することになるが、いいか?」


ジェイドは、はじめこそ驚きの表情を見せたが、戦場を見渡し、覚悟を決めたような顔で俺に向き直る。


「そんなことできるのか…いや、なにか考えがあるのだろう。森のことは気にするな、人々が生きてさえいれば木は植えられる」


「よし、それなら遠慮はいらないな。アイラ!俺が魔巣を攻撃したら、橋の上にいる魔物どもをせん滅するんだ!」


「ふむ、了解じゃ」


アイラは自分の鼻を指でかきながら、得意げな顔で答える。


「ルーナ、ここから小さな集落ほどの範囲に空間魔法で回復空間を作る。ケガ人の救助を頼みたい、できるか?」


「はい、任せてください!」


ルーナも初めて戦闘での役割を与えられ、いつになく真剣な表情だ。


「ジェイド、回復空間は作るが、俺は正直回復魔法が使えない。回復魔法が使える魔導士をここに集めろ!そいつらの回復魔法を俺が広範囲化する」


ジェイドは慌てて、近くにいる回復魔導士に招集をかけた。

俺の周囲には10人ほどの回復魔導士が集まった。

いずれもみなBランク相当の魔導士だ。


「じゃあいくぞ、一斉に回復魔法をかけてくれ。空間魔法展開、エリアヒール!」


「おお、なんだ!?傷が治っていく」

「傷だけじゃない、疲れも消えていく感じだ」

「でも誰が、どこから回復魔法を?」


範囲内の者の傷がみるみるうちに回復していく。どこから回復してくれているかはわからなくても、回復していくうちに士気も高まっていく。


だが、まだ足りない。

もっと強力な一手でこの高まった士気を爆発させるきっかけを作ることができれば、戦況はひっくり返る。


俺はその一手の準備に取りかかる。

「空間魔法展開、エクスプロージョン!ライトニングメテオ!」


ゴゴゴゴッドッガァーン!!!!!

「ええぇぇぇーーーーーー!?」


その光景を見たものは、みな驚きの声をあげた。

遠くに見える魔巣のある島に突如として大爆発が起こり、上空から巨大な雷の塊が降ってきて、一瞬で魔巣を消滅させたのだ。

かろうじて、島の原型をとどめていることが奇跡と言えるほどの爆発だった。


「アイラ!今だ、橋の上の魔物をせん滅しろ!」


「了解、なのじゃ!」


アイラは2本のダガーを逆手に持ち、目にもとまらぬ速さで魔物の間を駆け抜けていく。

アイラの駆け抜けた道にいた魔物は倒れ、一本の道ができていた。


味方の傷は回復し、魔巣も消滅、魔物の大群に風穴を開けた。

味方の高まった士気を爆発させるには十分だ。


「みな、アイラに続け、敵をせん滅するぞ!」


「おおぉぉぉーーーーーーーーーーー!!!」


アイラは銀髪をなびかせ、軽やかに舞を踊るように魔物をすごい勢いで減らしていく。

遠くて表情ははっきり確認できないが、生き生きしているようにも見える。


ルーナが言っていた、ガルムは非常に凶暴で気性が荒く、戦いの中でこそ生きる意味を見出すのだと。

まさに今のアイラがそうだ、まるで自分の居場所はここだと言わんばかりに躍動している。


アイラの奮闘もあり、騎士団と冒険者たちも善戦、徐々にではあるが魔物をせん滅していく。

傷ついた者は回復エリアへ避難し、回復した者と交代することで味方の総数減少は抑えられ、戦況は拮抗し始めていた。


いける!誰もがそう思った、そのときだ、港の両端に巨大な魔物が姿を現す。

左翼には巨大なイカの姿をしたクラーケンが、右翼には9つの頭を持つ大蛇ヒュドラだ。


クラーケンの触手は多くの味方を海に引きずり込み、ヒュドラの毒気にやられた味方は倒れていく。拮抗し始めた戦況は、再び不利な状況へかたむき始めた。


「左翼よりクラーケンが進軍してきます、止まりません、中央より援軍を!」

「右翼、ヒュドラにより壊滅状態、防衛ライン突破されます!」

「伝令!中央の橋より巨大な蟹の化け物が…カルキノスと思われます!」


矢継ぎ早に凶報が飛び込んでくる。

ジェイドの表情があっという間に青ざめていく。

このままでは町が魔物に飲みこまれる。


「ジェイド、指揮は任せる。俺も前線に出よう」


そう言うと俺は丘を下り、前線の中央で指揮をとる王都のギルド長バルスのもとへ向かう。


バルスは、自分の巨大な戦斧を振り回し、魔物を駆逐していく。

しかし、善戦しているバルスのもとにも救援要請の伝令がきていた。


「バルス殿、左翼にクラーケンが出現。増援を!」

「右翼より、ヒュドラの進軍を抑えきれません!」


「くそ!正面は嬢ちゃんと俺たちの小隊に任せろ!残りの部隊で剣士は左翼のクラーケンを迎撃、なるべく海面から距離をとって戦うんだ!」


バルスは次々と指示を出す、意外にもその指示は、丘の上にいる騎士団長ジェイドよりも的確だった。


「魔導士は、右翼のヒュドラを抑えろ!首は切り落とすなよ、切ったそばから倍の数の首が生えるぞ!なるべく魔法で消耗させて動きを止めろ!」


バルスの指示で正面部隊が左右に分かれていく。

前線で死闘を繰り広げているわりには、ずいぶん冷静じゃないか。

さすがは王都のギルドでギルド長をしているといったところか。

まぁ、感心している余裕はなさそうだな。


「意外に冷静なんだな。指示も理にかなっている、さすがだな、ギルド長のバルス」


バルスは突然現れた若造に、にらみをきかせたが、俺の顔を思い出したようだ。

驚きを隠せない様子で問いかけてきた。


「お前は勇者パーティーを追放された、たいまつ君か?」


この期に及んで失礼な奴だな。

一瞬、怒りを覚えたが、今はそれどころではない。


「リアム・ロックハートだ。さっきの指示は的確だったが、あの指示では足止めはできても討伐は無理だ」


俺の言葉にバルスは顔を真っ赤にして反論する。


「そんなことはわかってんだよ!でも、どうしようもねえんだ。クラーケンもヒュドラもAランクの冒険者が相手にできるレベル。Bランク以下のやつらが相手をするなら、それなりの準備が必要だが、今の状況じゃ無理だ。Aランクのやつらの予備戦力なんかもねえんだ。俺たちにできることは、王都からの増援がくるまで時間を稼ぐことだけなんだよ!」


「そうか、だが増援はしばらく来ないぞ。このままでは全滅する」


「そんなことわかって…この声、さっき聞こえてきた…」


バルスは不思議そうな顔でこっちを見ている。

なにか言いたげだが、それ以上の言葉は出てこない。

先ほどの声の主が俺かもしれないと頭では思いつつも、内心では信じられないでいるのだろう。


無理もない、バルスは俺が追放された瞬間を目撃している。

そんなやつが、こんな地獄ともいえる戦場で落ち着いて指揮がとれるわけがないと考えるのは当然だ。


「さて、このまま魔物どもの思い通りにさせるわけにもいかないな。そろそろ反撃開始と行くか」


俺は小声でつぶやくと、自然と足が戦場の最前線へと向かっていく。

楽しいわけでも嬉しいわけでもない、ただ無意識に俺の口角は上がっていた。


シーティア防衛戦、第二幕の始まりである。

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