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14話 王国指名冒険者、初めての特別任務を受ける

俺とルーナは国王からの招集を受け、王都へ来ていた。

久しぶりの王都だ、追放宣言を受けてから、そんなに時間はたっていないはずなのに、ずいぶん昔のような気がする。

俺は懐かしい気持ちで王宮までの道を進んでいたが、隣では明らかに機嫌の悪い美女が1人、そうルーナだ。


「ルーナ、どうした?さっきからなにか怒っているのか?」


「私は怒っています!なんですか、先ほどの無礼な人は!リアム様に向かって底辺冒険者などと!」


そういえば、さっきジルガに会ったな。

俺はやつの嫌味に慣れてしまっていたが、通常はこういう反応になるのか。

ルーナは顔を赤くし口をとがらせている。

相変わらず怒っているというのに可愛い顔だ。


「まあ気にするな、ジルガはああいうやつなんだ。それにSランクへ昇格できていないとなると、そのことで気が立っていたんだろう」


「そんな!?リアム様は優しすぎます!リアム様は、今や国王が認める大賢者。そんなリアム様に向かってあんな…。リアム様は悔しくないのですか?」


ルーナは俺に向き直り、両のこぶしを胸の前で強く握りしめていた。

やはり可愛い。


「もちろん悔しいさ。それこそ、一度は挫折を味わわされた相手だ、悔しくないわけがない。ただ、さっきのやり取りを見て、本当に悔しがっていたのはどちらか、ルーナも分かったんじゃないか?」


「それはたしかに、リアム様よりも、むしろあちらのほうが悔しがっていたような…」


ルーナは少し目線を下げ、難しい顔をした。

俺はうなずきつつ話を続ける。


「つまりはそういうことだ、きっと俺とジルガの立ち位置は逆転した。もちろん、これから見返してやろうとは思っている。それこそ俺が受けた以上の屈辱を味わわせてやりたいとさえ思っているんだ。だが、それは今じゃない。今は国王のもとへ行くことが最優先だ、違うか?」


「そうですね、いずれ必ず見返してやりましょう。二度とリアム様に向かって、生意気な口をきけなくなるほど、徹底的に……ごにょごにょ」


…今後、ルーナを怒らせないほうがよさそうだ、俺は強く心に誓った。


「ルーナ、着いたぞ。ここが王宮の入り口だ」


俺たちは兵士に案内され、国王の待つ広間に連れてこられた。


「よく来た、わしがアストラーテ・ルイゼンバークだ。おぬしが冒険者リアム・ロックハートと、ルーナ・アルシノエだな?今回の招集については、サンレイクのギルド長ゼラードから聞いておるな?」


俺とルーナは片手を胸に、頭を下げつつ答えた。

これが目上の者に対する敬意を表す姿勢なのだ。


「はい」


「では、話が早い。リアム・ロックハートを王国指名冒険者へ任命し、大賢者の称号を与える!異論はないな?」


俺はその言葉を受け、少し考えたのちに顔を上げた。


「ひとつよろしいですか?王国指名冒険者としての任はお受けしますが、大賢者の称号は遠慮させてもらいたいのですが」


「なぜだ?」


国王はいぶかしげに首をかしげ聞き返してくる。


「称号をもらうことで、人目につき行動を制限されるおそれがあります。俺の目的はあくまで魔王の討伐、名誉や名声ではありません。もし称号をいただけるというならば、魔王を討伐してからでも遅くはないはずです」


俺は国王の目を見て、はっきりと答えた。

しばしの沈黙が流れ、国王は両手で膝を叩きながら笑い始めた。


「はっはっは、面白いやつだ。わしに意見するか、よかろう、気に入った!今後は大賢者の称号は伏せるとしよう。では、王国指名冒険者として初めての任を言い渡す!ここより北にある罪深き森の探索を命じる!」



王都から2時間程度のところ、俺たちは王都の北、罪深き森に来ていた。

国王の話によれば、偵察に送り込んだ騎士団は全滅。

その後も数回にわたり騎士団を派遣したが、生還できたものはいないらしい。


「そこまで強大な魔力は感じられないが…ルーナ、なにか感じるか?」


「いえ、これといってなにも感じません。しかし、騎士団が全滅しているということは、相当強力な魔物がいるはずです」


ルーナも表情が固い。

やはり警戒は必要だろう。


「とりあえず、警戒して進もう」


俺たちは最大限の警戒をしつつ、森に入っていった。


俺たちは薄暗い森を進んでいく、不気味なほど何も起こらない。

まさか、派遣された騎士団というのは、ただ森の中で迷っているだけということはないよな?

しかし、異変は突然やってきた。


「ルーナ!」


俺はルーナに視線を向け、叫ぶ。


「はい、囲まれていますね。敵は複数、気配は感じなかったのに…」


ルーナの言う通り、気配は感じなかった。

警戒していなかったわけではない、それでもここまで気配を消せるものなのか?

それにしてもルーナは落ち着いているな。初めての森…というわけではないか。

コカトリスのときに比べると、たしかにそこまでの危機感はないかもしれない。


俺はすぐさまルーナの周辺に風属性の防御魔法エアリアルウォールを張り巡らせた。

敵は警戒しているのか、襲ってこない。


「!!」

ザシュッ


とっさに身をかわした刹那、俺のコートの端が破り捨てられる。

速い、スピードだけでいえばガーゴイル以上だ。

しかも、姿が肉眼では把握できなかった。

それなら…。


「空間魔法展開、サンダーネット!ライトニングプリズン!」


バチン、ビリビリビリッ

「バウ、ガウ」


俺たちの周囲に張り巡らせていた中級魔法の雷の罠で敵の動きが止まる。

こいつはシャドーウルフか。

陰に潜み敵を捕食するAランクの魔物、大きさは野生の狼と同じくらいで、なにより素早い。

攻撃以外では影の中に身を潜めている、どうりで気配がないはずだ。だが、相手がわかれば倒すのは問題ない。


「空間魔法展開、シャイニングフレア!」


あたり全体を聖なる光と炎が包む。

同時に、周囲にあった複数の気配は消えていた。


「さすがです、リアム様!」


すかさず、ルーナが俺に駆け寄ってきた。


「ああ、どうやらここには特殊な魔物が生息しているようだ。騎士団が生還できなくても無理はない、俺から離れるなよ」


シャドーウルフは、草原や街道ではまず遭遇しない。

影が多い特殊な条件下でのみ出現する魔物なのだ。

影が多い環境で、影に潜む魔物、ゆえに身体は小さくてもAランクに位置している。


「はい、もちろんです」


ルーナは嬉しそうに俺の腕にしがみつく。

そういう意味ではなかったんだが…。

その後も、シャドーウルフの襲撃を受けるも、俺たちは問題なく歩を進め、少し開けた場所に出た。


ズーン、ズーン、ズーン


今度は気配を隠すどころか、正面から堂々と魔物が姿を現した。

オオカミの頭にオーガの体、ウルフオーガだ。身体は俺の倍以上の大きさ、こいつは今までの相手よりも強敵だ。

俺は静かにルーナに絡めとられた自身の腕を振りほどく。


ヒュンッ


ウルフオーガは一足飛びに俺との距離を詰め、強力な爪の一撃を繰り出す。


俺がルーナを抱えたまま攻撃を回避したおかげで、俺の後ろにあった大木は深くえぐられ、力なく倒れた。

それだけで攻撃の威力がうかがえる。


「大丈夫か、ルーナ?」


「はい…」


ルーナは顔を赤らめ、上目づかいで俺のことを見ている。

両腕は首の後ろに回され、お姫様抱っこのように抱えられ、ルーナは非常に満足そうである。

いや、まあ…可愛いからいいけど、状況を考えてほしいと俺は一瞬思った。

俺はウルフオーガから離れたところで、抱えていたルーナをおろした。

同時にウルフオーガが襲い掛かってくる。


「ゴアアアアア!」


「少し黙っていろ」


俺は攻撃をかわし、すれ違いざまに目にもとまらぬ剣撃で、ウルフオーガの首をはねる。


そのときだ、今まで感じたことのない存在感の敵がこちらに向かってくるのを感じ取った。

全身がびりびりするほどの圧倒的存在感、まさか魔王か?

俺は剣を握る手に力をこめた。


「きさま、わしの眠りを妨げる気か。わしのかわいい子分たちを葬ってくれおって、その小さき命、ないものと思え!」

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