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123話 それぞれの戦い 魔神ザイドリッツ 対 竜王アレウス・魔王殺しリアム

「ふふふ、どうしたのですか?その程度の攻撃では私は倒せませんよ?」



ザイドリッツは、笑みを浮かべながらそう言った。

竜王アレウスと俺の2人を相手にして、この余裕である。



魔王と戦ったことのある俺だからわかることだが、やつに魔法の類は有効ではない。

やつに向けて放つ魔法の多くは、やつに当たる瞬間に霧散してしまう。

そのため、竜王主体の攻撃を仕掛けているのだが、どうやら魔王以上に再生能力が高いらしく、ダメージを与えることも難しい。



「お前にひとつ聞く。エルジェイドはどこだ?」



俺の問いにザイドリッツは眉をひそめた。



「おや、おかしなことを聞きますね。ずっと目の前にいるではないですか」



目の前にいる、ザイドリッツの言葉に俺は周囲を見渡した。

周囲に人影はない、アレウスとザイドリッツの2人だけ。



遠くで聞こえていた戦闘音も、今では静かになっている。

一瞬、ルーナやソフィリア達のことが頭をよぎるが、今はそれどころではない。

俺はあいつらを信じている、無事に戻ってきてくれるはずだ。



それよりも今はエルジェイドのことだ。

俺が魔法で城を破壊したときには、エルジェイドの気配はなかった。

それとザイドリッツの言葉が本当だとすれば、もしかしたら、エルジェイドは魔神復活のための生贄にされてしまったというのか。



「まさか、エルジェイドを生贄に?」



俺の言葉にザイドリッツはあざ笑うかのような笑みを浮かべた。

まるで、まだ気づいていないのかとでも言いたげな笑みだ。

まったく不快な笑みを浮かべてくれるものだ。



「生贄になどしませんよ。生贄はジルガさんだけで十分、彼は短絡的で実に扱いやすかったですよ。彼を生かしておいたことは正解だったと言えるでしょう。

それはあなたにも言えることではありますがね。

しかし、あなたはジルガさんよりも警戒心が強くて大変でしたよ。

そういう意味ではエルジェイドはよくやったと褒めるべきでしょうか」



こいつは何を言っているんだ……。

ジルガを生かしておいたことは正解だった?エルジェイドはよくやった?

俺が困惑していると、ザイドリッツは楽しげに語り始めた。



「どこから話しましょうか……そうですね、まずは……エルジェイドは私です。

いや、正確に言えば、私の魔力を使い生み出した分身体と言えばいいでしょうか。

そもそも、彼の一族を全滅させたのは私なのですよ。

そのときの外見や能力、記憶をもとに作り出したのがエルジェイドです。

今はもちろん、私の魔力なので私の体の中に吸収してしまいましたがね」



エルジェイドがザイドリッツの分身体だと!?

そんなことがあり得るのか、姿かたちも違うし、何より彼には意思があった。

彼の言葉に救われたことだってあった。

それがこいつの分身体だなどと信じられるはずもない。



第一、ザイドリッツの分身体というなら、俺の仲間に手を貸すはずがない。

いや、よく考えれば、エルジェイドは俺に助言をすることはすれども、目立った手助けはしていないのかもしれない。

現に魔道具捜索にしても連絡はおろか、消息すら掴めなかった。



しかし、それでも俺は彼の言葉に救われたのだ、その彼の言葉が魔神の言葉であるとは信じたくない。



「バカな!エルジェイドは自分で考え行動していた。

魔力で生み出した分身が、そこまでの自我を持つなど聞いたこともない!」



俺の反論にザイドリッツは一瞬目を丸くした。

しかし、また笑みを浮かべて話し始める。



「そこは私も失敗しましたよ。分身体に移す魔力量の調整が難しいもので、予想以上に自分勝手な行動をしてしまいまして、少々計画とはズレが生じました。

しかし、まあ結果としては良いでしょう。結果的に私は魔神になることができましたしね」



混乱している俺に、やつはたたみかけるように続けた。



「ちなみに、あなたの故郷……たしか、ラズエルとかいう村でしたかね。

その村を壊滅させたのも、私なんですよ」



ドクン、と心臓が強く鼓動するのを感じた。

俺の村を襲ったのは、こいつだった。

俺はてっきり、前魔王ザウスガートだと思っていた。しかし、やつが真犯人だったのか。



自分の心臓が早鐘を打つのが分かる。

胸の奥底から、どす黒く重苦しい何かが全身を支配していく感覚。

怒り、そんな生易しいものではない、これは殺意、それも今まで感じたことのないほどの。



「もちろん、私の独断ではなく、ザウスガート様の指示ですがね。

あの村は、戦闘能力の高い戦士や魔法使いが多かったですから、我々としても邪魔だったのですよ。

まあ、そこであなたとジルガさんたちを見かけて、使えそうだと判断しましたので、殺さずに生かしたまま利用させてもらったというわけです」



うるさい。



「不思議に思いませんでしたか?優秀な戦士や魔導師がいる村が、瞬時に壊滅したことが。

誰にも気づかれることなく、魔物の軍勢が村を襲撃したことが。

そうです、全部、私の計画だったのですよ!!!

王都の近くに不自然に生じた魔巣も、貴族の娘を連れた奴隷商も、森に封印されたガルムも、転移の遺跡に取り残された冒険者も、憑き子の親が死んだのも、全ては私の計画!!」



黙れ。



「あとは裏でジルガさんを操りながら、あなたを竜王アレウスと戦うように仕向ければそれでいいんですよ。

もう少し善戦してくれるかと思っていたんですが、さすが竜王といったところでしょうね」



「きさま……殺してやる」



剣に手をかけ、斬りかかろうとする俺の肩を掴む者がいた、まるで俺の暴走を制止するかのように優しく添えられたその手の主は、竜王アレウスであった。



「落ち着け。今突っ込めば、お前はもちろん、俺もお前の仲間も全滅する。抑えろ」



落ち着けだと!?あんたに俺の何が分かる。

家族を、故郷を、仲間を奪われた俺の何が分かるって言うんだ!



「失ったものばかりに目を向けるな。お前は多くを失ったが、その分多くを手に入れてきたはずだ。

お前にはわかるはずだ、ここに近づく者たちの気配が」



俺が手に入れたもの……。

その瞬間、胸の中心に渦巻いていたどす黒く重苦しいつっかえのようなものが、すうっと晴れていくような気がした。



そうだ、俺は失った分、多くの仲間に恵まれてきた。

今だって、そいつらのために戦っている……俺はもう、1人じゃない。



「すまない、アレウス。まだ、大丈夫そうだ」



「ふん、集中しろ。次の攻撃で決めるぞ」

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