表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

131/134

121話 それぞれの戦い 剣王ギルトール 対 剣聖フィアーネ・無名剣士アルク

「さて、始める前に場所を変えるとするか……」


そう言うと剣王ギルトールは、2本の剣でフィアーネとアルクに斬りかかる。

2人とも即座に反応し、その剣を受け止め、鍔迫り合いの形となった。

鍔迫り合いとはいえ、剣王はそれぞれ片手、フィアーネとアルクは両手で剣を持っているところを見れば、力の差は歴然と言えるだろう。


「剣王様……剣王様ともあろう御人が魔神などに操られているのですか?」


「さあ、どうだろう……な!!」


鍔迫り合いの状態から、強引に剣を振り抜き、フィアーネとアルクは後方にはじかれる。

間髪入れずに剣王ギルトールは襲い掛かり、2人を圧倒しながら、徐々にその場を離れていく。


「ルーナ、2人の援護に向かってくれ。こっちは俺たちでなんとかする!

ソフィリアはアイラたちを頼む!」


その言葉にルーナは剣王たちの方へ走り出す。



***


「この辺りでいいか、さあ、リアム・ロックハートを助けに行きたけりゃあ、俺さまを殺していけ!」


剣王ギルトールは、両手に剣を持ったまま、余裕の笑みを浮かべてそう言った。


駆けつけたルーナが目にしたのは、余裕の笑みを浮かべて立っている剣王ギルトールと、地面に膝をつき、うなだれている剣聖フィアーネとアルクの姿だった。

剣王はたたみかけるように2人に牙をむく。


鎖でつながれた剣で斬りかかり、投擲し、時には鎖を利用し剣を振り回す。

予測不能な、およそ剣士とは呼べないような攻撃を矢継ぎ早に繰り出している。

その変則的な攻撃に、フィアーネとアルクは劣勢を強いられている。

先ほどから全く攻撃することができていない。


しかし、しばらくしてルーナは違和感を覚えた。

確かに2人は劣勢であり、攻撃に転じることはできていないが、剣王の攻撃も当たってはいないのだ。

それはつまり、見た目以上に力の差があるわけではないのではないか?

わざと劣勢を演出しているだけなのではないかとルーナは考えた。


「どうすんの、フィアーネ?これ、いつまでも避け続けるの大変なんだけど」


「もう少し、もう少しだけ待って」


急かすような口調のアルクに、フィアーネは落ち着いて答える。

彼女が見ているのは、剣王ギルトールの動きのみ。

噂には聞いていた。剣王は5本の剣を同時に使いこなし戦うと。

その嵐のような苛烈な攻撃は、相手に反撃の隙すら与えないのだと、そう聞いていた。


フィアーネもその話を聞いて、なにも疑うことはなかった。

剣王ギルトールは、剣術においては最強だ、それは揺るぎない事実だから。


しかし、実際はどうだ。

確かに苛烈な攻撃ではあるが、自分たちには当たらない。

それどころか、舞刃流に適正のある自分なら、切り返し反撃ができるのではないかとすら思う。


とすると、やはり、彼は操られている。

その呪縛を解く方法はきっとあるとフィアーネは考えていたのだ。

すると突然、剣王ギルトールは、その動きを止めた。

剣を持つ手を下ろし、無防備な姿勢でフィアーネを見た。


「お前、何考えてやがる?まさか、俺さま相手に余裕を見せてるつもりか?」


静かな口調だが、どこか怒りをおびたような、そんな声色だった。


「そんなつもりはありません。ただ、剣王様が操られているのなら、その術を解き、解放する方法があるのではないかと思案しておりました」


その答えに剣王ギルトールは、一瞬だけ目を丸くしていたが、すぐにため息をひとつ。


「ふう、なるほど。つまりは、俺さまの攻撃に対処しつつ、術から解放する術を模索していたというわけか……」


そう言って顔を上げた剣王ギルトールの表情は怒りに染まっていた。


「それが舐めてるってんだ!俺さま相手に考え事だと!?ずいぶん偉くなったもんだな、フィアーネ!

いいだろう、教えてやるよ。俺さまは魔神なんて野郎には操られちゃいねえ!

俺さまは自分の意志でここにいる、わかったら全力で殺しに来い!」


そう言うと剣王ギルトールは再び剣を構えた。

彼の話を聞いたフィアーネは戸惑いの表情を浮かべていたが、その顔はすぐに悲しげなものへと変化した。


「アルク、どうやらこれ以上は無意味なようです。彼をこの呪縛から解放してあげましょう。」


「解放って、いったいどうやって……」


彼女を見るアルクの目に映ったのは、覚悟を決めた表情で剣を構えるフィアーネの姿。

その瞬間、アルクも理解し、瞬時に自分も剣を構えた。


「斬ります」


彼女の言葉にアルクは動いた。

高速を越えた神速の剣撃を剣王ギルトールは手に持つ2本の剣で受けた。

いや、受けようとした。

しかし、アルクの剣は剣王ギルトールの剣を折った。


折れた剣を投げ捨て、標的をフィアーネに移し、残った剣で剣王ギルトールが迫る。

対して、フィアーネは冷静に目の前を見据え、剣を握る。

一瞬だった。剣王が斬りかかり、フィアーネが迎撃する。

すれ違いざまの一瞬でフィアーネの舞刃流奥義、舞踏剣界により、剣王ギルトールの2本の剣は折られたのだ。


振り返ることもなく、折られた剣を見つめる剣王ギルトール。

しばらくして、彼は振り返り、うっすらと笑みを浮かべて言った。


「強くなったな、フィアーネ……いや、俺さまが弱くなっただけか。

そういやよ、お前が出てった後にエイルのやつに負けたんだよ。

この俺さまがだぜ、信じられるか?」


嘲笑混じりに彼は続けた。


「いくら真剣じゃなかったとはいえ、俺さまの技を使いこなし、全力の俺さまに勝ったんだ。初めての経験だったぜ、完敗だった。

だが、お前に俺さまは超えられねえ。それを今ここで証明し、俺さまの手でアレウスの野郎をぶった斬る!」


ゆっくりと背中の剣を抜き放ち、身構える剣王ギルトール。

背中の剣、彼が剣王と呼ばれる前から使用している愛刀、なんの変哲もない無名の剣。

しかし、その剣は決して折れず、なにものをも両断する名刀。


「これで、終わりだ」


剣王ギルトールの言葉は彼の放つ殺気により、説得力のあるものであった。

次が最後、そう感じフィアーネとアルクも剣を握る手に力を込めた。


3人が動いたのは、ほぼ同時だった。

そして、勝負は一瞬にして決まった。


アルクの剣により腕は斬り飛ばされ、フィアーネの剣が彼の身体を貫いた。

口から鮮血を吐きながら倒れる剣王ギルトール。


「なんで……」


フィアーネの口から出たのは、その一言だけだった。

彼女の目は捉えていた。

剣が交差する一瞬、剣王ギルトールが使ったのは瞬息の太刀ではなく、舞踏剣界だった。


剣客島にいる者ならば誰でも知っている。

剣王ギルトールの放つ瞬息の太刀は、この世のすべての剣技において最強だと。

彼はその剣技を好み、誰よりも修練を積んできた。

だからこそ彼は、最強の剣士の名を持っているのだと。


もし、彼が舞踏剣界ではなく、瞬息の太刀を使っていたならば、自分かアルクは確実に斬られていただろうとフィアーネは戦慄した。


「ゴボッ、なんで……か……」


口から大量の血を吐き出しながら、うつろな目をして剣王ギルトールは言う。


「なんでだろうな……ここ一番で……瞬息の太刀を、使えなかった。……俺は弱えな」


「あなたが、あそこで瞬息の太刀を使っていたならば、こうして見降ろされていたのは私でした……」


「ははっ、だが……結果はこの様だ。俺はな、誰かを守る剣より……自分のために振るう剣の方が、強いと……思っている」


「……」


「理由は簡単だ。今の俺が……昔の俺より、弱い……からだ。

ゴボッ、ガハッ、ゲホッ。

剣王は俺さま1人だが……流派は3つ、おかしいと思わなかったか?」


「それは、全て剣王様が、自ら編み出した流派だと……」


「ははっ、ちげえよ、バカ。俺が……2人の剣王を殺したんだ。

俺自身が最強であるためにな……だが、俺はエイルに負けた……だから……最強に返り咲くためにアレウスを斬ることにした」


そのためだけに自分たちを裏切り、魔神側についたのかと、フィアーネは少しの憤りを感じた。

同時に、彼がどうしてそこまで最強の剣士にこだわるのか、自分には理解できなかった。


フィアーネは自分が強くなり、最強になるよりも、大切な誰かを守るために強くなりたいと思っている。

いや、彼女自身も初めからそう思っていたわけではない。

彼女も最初は例外なく、最強の剣士を目指す1人の門下生にすぎなかった。

その頃の彼女ならあるいは、剣王ギルトールの気持ちを理解できたかもしれない。


彼女の考えが変化したのは、魔王殺しリアム・ロックハートの影響だろう。

彼は、常に誰かを守るために強くあろうとしていた。

自分の強さを誇示するためではなく、いつも誰かの前に立ち、その身を犠牲にしてきた。

そんな彼を見て、フィアーネは考え方を変えたのだ。


ふと、剣王ギルトールの目がフィアーネを捉えた。

その眼の光はかすみ、力なくこちらを見ている。


「お前は……俺のようになるな。……俺のように、弱くなる……なよ。

ああ、そうだ……金髪の小僧。お前が……今日から……剣王だ」


「えっ!?」


突然の指名に目を丸くし、硬直するアルク。


そんなアルクを無視するように剣王ギルトールは仰向けになりながら、空に向けて手を伸ばす。


「ああ、強く……なりてえなあ……クソッ……誰かを守るか……気づくのが…………遅いんだ……よ」


その言葉とともに剣王ギルトールの目から一筋の涙がこぼれ落ち、天へと伸ばしたその手は、力なく地に落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ