13話 その頃、ジルガ勇者パーティー御一行様はというと・・・➂
俺さまたちジルガ勇者パーティーはBランククエストの洞窟の探索に来ていた。
「国王のやつ、なんだかんだ俺さまたち勇者パーティーが必要みたいだな。前回の失態の処分が、BランクとAランククエストを1回ずつクリアするだけとはよ」
「やっぱり、あたしたちの力がなきゃ、この国は終わりってことよね!ねー、ジルガ、早くこんな下位のクエスト終わらせて、楽しいことしようよ」
俺さまの言葉にリリアは、腕にしがみつき甘えてくる。
ふん、かわいいやつめ。
そもそもBランククエストなんて、超エリートの俺さまたちには楽勝なんだよ。
この洞窟だって、前回リアムと来たときにほぼ無傷でクリアしているしな。
とっととこんなクエスト終わらせてやるぜ。
「ダスティン、今何階層だ?」
「今は69階層です、今回は順調に進んでいますよ」
「当たり前だ、俺さまたちはエリート勇者パーティーだからな。たしか、この階層のエリアボスはゴーストウッドだったな。はっ、楽勝楽勝」
上機嫌で歩く俺の背中にイゴールが問いかける。
「しかし、ジルガ。前回から感じていたんだが、武器や防具が重くないか?なんというか、以前に比べて動きが鈍く、疲れやすい気がする」
イゴールの不思議そうな顔を鼻で笑いながら、返事を返す。
「なに言ってんだよ、イゴール。ここに来るまで、何体魔物どもを倒したと思ってんだよ?疲れてくるのは当たり前だろ!男が弱音を吐くな、みっともないぞ!」
俺さまたちは、その後も順調にダンジョンを進んでいった。
たしかに疲労感は感じているが、特に大きなトラブルもなく、前回の失態が嘘のように順調だ。
やはり前回はSランククエストだったからな、魔物も普通じゃなかったんだ。
ギルドの連中め、そんなこともわからず俺さまたちを笑いものにしやがって。
「ジルガさん、次のかどを右に曲がるとダンジョンボスの広間です」
ダスティンが曲がり角を指さしながら案内する。
「よし、ここまでは順調だ。しかし、やはり戦闘回数が多いだけあって、体力の消耗が激しいな。とっとと倒して、ゆっくり休もうぜ」
「えー、ダンジョンクリアしたら、あたしと楽しいことする約束でしょー?」
リリアは俺さまの腕に絡みつくように抱きついてきた。
リリアの大きな胸に腕が挟み込まれ、その感触が伝わってくる。
チッ、ダンジョン内でなきゃ、今すぐ抱いてやりてえところだ。
「はっはっは、覚えてるぜ、リリア。宿に戻ったら、たっぷりかわいがってやるからな。たしか、ここのボスはデュラハン、首なしの騎士野郎だ。いつも通り、イゴールの盾で防ぎ、ダスティンが陽動、俺さまの剣とリリアの魔法で仕留める」
優秀なリーダーは、相手が格下でも念入りに作戦を立てるもんだ。
まあ、たかが首なし野郎相手に慎重になりすぎかもしれんがな。
「ジルガさん、いました、デュラハンです」
「よし、作戦通りいくぞ。俺さまに従ってりゃ、なんの問題もねえからな」
俺さまのかけ声で全員がデュラハンへ向かっていく。
ギギィン
デュラハンの剣による攻撃をイゴールの大盾が防ぐ。
同時にダスティンがイゴールの背後から、デュラハンのサイドに展開。
ダスティンにデュラハンの意識が向いた!
今だ!!
「死ね、首なし野郎!!」「ホーリーフレア!」
ドガキィィィン
やったか?
「へっ!?」
全員があっけにとられている。
それもそのはず。
俺さまの渾身の一撃と、リリアの光属性魔法をモロにくらって、消滅するどころか無傷でいやがる。
「リリア、もう一度だ!もっと威力の高い魔法を使え!」
「わかったよ、ジルガ。いくよ、ホーリーレイ!」
ポンッ、ボシュウ
「はっ!?」
再び全員の視線がリリアに向いた。
本来であればリリアの杖から聖なる光線が放たれるはずだった。
しかし、実際には、かわいらしい爆発音と白い煙が立ち上るだけ。
完全にその魔法を使用するには実力不足だった。
「チッ、なにしてんだよ、くそが!使えねえな!イゴール、盾だ!力で押し切るぞ!」
その後、なんとかしてデュラハンを討伐することができ、俺さまたちは王都へ帰還した。
リリアの役立たずぶりには驚いたが、無事にクエストはクリアできた。
さっさとギルドに報告して、このイライラはリリアの体で発散するとしよう。
俺さまたちはギルドで報告を終え、宿に向かっていた。
途中、目の前から見覚えのある、赤みがかった茶髪の中途半端にイケメン顔の男が歩いてきた、あれは…リアムじゃねえか!
なんでこんなとこにいやがる!?
しかも、横にはとびきりの美人を連れてやがるじゃねえか、気に入らねえ!
「よお、リアム!久しぶりだな、こんなとこでなにしてんだよ?お前みたいな底辺冒険者は王都へ入れないんだぜ?」
リアムのやつは、涼しい顔でこっちを見た。
多少驚いた様子だが、それも気に入らねえ。
「ジルガか。久しぶりだな、俺は国王の招集を受けて王宮へ行くところだ。お前たちは、Sランクへ昇格できたのか?」
「Sランクはそんなに甘いもんじゃねえんだよ!何も知らねえくせに偉そうな口をきくな!」
するとリアムは視線を外し、少し笑いながら言った。
「フッ、そうか。では、先を急ぐんでな」
なんなんだ、あの野郎は!
あれがリアムだと!?
昔とは別人みてえな余裕を見せやがって!国王からの招集だと!?
あんな野郎に国王がなんの用だってんだよ!?
「リアムのやつ、だいぶ変わったな」
「そうね、なんて言うか、余裕があるっていうか、なんかカッコイイ」
「国王からの招集って、彼は一体なにをしたんでしょうか」
こいつらまでなんだってんだ!
リアムがなんだ、俺さまのほうが優れてんだよ!
ん?いや、待てよ、そういうことか。
「リアムのやつ、なにかやらかして国王から処罰されるんだな。そうに違いねえ、あんな底辺冒険者にできることといえば、盗みくらいじゃねえか!はっはっは、みじめなもんだ」
俺さまは自分で自分の言葉に納得したように大きくうなずいた。
そうだ、リアムにできることなんて、たかが知れてんだ。
なに動揺してんだ、俺さまは。
「なるほど、そういうことか。正直驚いたぞ」
「そういうことでしたら、あり得ますね」
イゴールとダスティンは、俺さまの言葉に納得しているが、リリアだけは違う。
「でもさ、あたしたちの装備さ、リアムが支援魔法で強化してたわけだよね。そのおかげで楽にクエストをクリアできてたんじゃないかな」
はっ!?こいつはなにを言ってやがる?
リアムがいたから、クエストをクリアできていただと!?
あり得ねえ、リアムの力なんかじゃねえ、俺さまの力だ!
俺さまは、やや動揺を隠しきれずに言った。
「なにバカなこと言ってるんだ、リリア!情けねえこと言うなよ、あんなやつただのたいまつ野郎じゃねえか!」
「でも、イゴールも言ってたじゃん!武器が重くて、動きが鈍いって。あたしもリアムが抜けてから、杖から感じる魔力量が減ってる気がするんだよ!」
そう言いながら、リリアは自分の杖を見た。
それにつられ、イゴールもあごに手をやり、首をかしげていた。
「もういい!お前は今日は俺さまたちの宿に帰ってくるな、目ざわりだ!野宿でもして頭を冷やすんだな!いくぞ、イゴール、ダスティン!!」
俺さまのイライラは最高潮に達していた。
リアムのすました態度といい、リリアがリアムに肩入れしていることといい、我慢できなかった。
今に見てろ、なにかのついでに必ずリアムに現実ってやつを思い知らせてやるからな。
このときはまだ、リアムが王国指名冒険者になっていることを俺さまは知るよしもなかった。




