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116話 援軍到着

俺は地面に伏しているエルジェイドを小さな結界で覆った。

その結界内を俺の魔力で満たす。


操られているものを解放する方法が術者以外の魔力を流し込むことであるなら、体外から魔力を吸収することも有効かもしれない。

無駄なことかもしれないが、少しでも可能性があるなら試したい。

エルジェイドは仲間であり、友なのだ。こんなところで失いたくなかった。


アイラが離れていったときも、アルクを失い挫折していた時も、エルジェイドは俺を救ってくれた。

今度は、俺が彼を救う番だ。


エルジェイド、すぐに目が覚めなくても構わない。

もし、すぐに意識が戻らないようなら、その間にジルガとザイドリッツを倒し、平和な世界の中で、俺はお前が目覚めるのを待つことにする。


心の中で、そうエルジェイドに声をかけ、俺は周囲を見渡す。


近くで戦闘が起こっているのは、3か所。

元勇者ジルガと交戦中の蛇王ナーガラス、魔王の右腕ザイドリッツと竜王アレウス、そして魔物の大軍勢とルーナとソフィリア、サーシャ、フィアーネだ。


ジルガたちの方は遠目にみると互角なように見える。

竜王アレウスはザイドリッツを圧倒していた。


まあ、そこは当然と言ったところだろう。

もし、竜王アレウスがザイドリッツをすぐに倒すことができるのなら、蛇王ナーガラスの加勢に行くだろう。

とすると、やはり俺が加勢すべきはルーナたちのほうか。


しかし、そのとき遠方で大きな爆発音が響いた。

爆発の方を見ると、ジルガが蛇王ナーガラスを圧倒していた。

竜王アレウスも圧倒してはいるが決め手に欠ける様子で、仕留めるまでには至っていない。


どうする、蛇王ナーガラスに加勢に行くか。

しかし……と、ルーナたちのほうに視線を移す。

彼女たちも善戦してはいるが、次々と召喚される魔物に対し疲弊し、ジリ貧になってきている。

このままでは、ルーナたちが魔物に倒されるのも時間の問題のように思えた。


悩む俺を見てか、サーシャが声を上げた。


「ねえ、この魔物たちを一番多く倒した人が、1日だけロックハートを独り占めするっていうのは、どうかしら?」


「あら、面白いわね。でもいいの?それだと、結果を見るまでもなく、私がリアムを貰うことになるけど?」


「ふふふ、そういうことでしたら私も前線に立ちましょう。私もリアムさんからの寵愛は受けたいですしね」


「ちょっ、ソフィリア、ズルい!私だって、少しは戦えるようになったんだから、負けないよ!」


サーシャの提案にフィアーネ、ソフィリア、ルーナが次々と答える。


やる気を出してくれるのはいいんだが、俺の意思は無視なのか。

こんな状況で頼もしいかぎりだが、それでも状況は変わらない。

ジリ貧な状況で、なんとか自分たちを鼓舞したに過ぎない。


やはりここは俺が一度加勢して。


そう考えていた時、突然、魔物の大群の中心あたりに赤い稲妻が落ちた。

いや、赤い稲妻など存在しないはずなのだが、そう思えるほど高速な赤い何かが天から降ってきたのだ。

その赤い何かが落ちた先、土煙がもうもうと立ち込める中、聞き覚えのある声が響いてきた。


「小娘、面白いことを言うのう。一番多く倒したら、主さまを一日好きにしていいとな?

その勝負、我も参加しようではないか」


聞き覚えのあるその声に俺の心臓は早鐘を打った。

やや幼く聞こえる澄んだ声色、真紅の髪、なにより俺を主さまと呼ぶものは1人しかいない。


「アイラ!」


思わず叫んでいた。

俺の呼びかけに土煙の中にいる少女は振り返る。


「おお、主さまではないか。元気にしておったか?

この娘たちは我に任せろ。おぬしは自分のなすべきことを考えろ!」


アイラだ、目の前にいるのは紛れもなくアイラ本人だった。

俺は胸の奥底からわき上がるものを感じて言葉を失った。

喜び、感動、後悔、それらいろいろな感情が一気に押し寄せてきて言葉にならない。


アイラはというと、再会の挨拶もそこそこに周囲の魔物をせん滅していく。

やはり、戦闘力が桁違いだ。

あれほどいた魔物の数が、あっという間に減っていく。

これなら、あちらはアイラに任せておいても大丈夫だろう。


俺は自分の欠点をよく理解している。

今までそれで多くの失敗をしてきた、だから次は同じような失敗をしないように気を付けているつもりだ。

しかし、それはつもりなだけだった。


救援に行かなければと思った矢先の援軍、俺はそれを見て安堵した。

さらに援軍に来たのが、アイラだったこともあり、戦闘中にも関わらず安心してしまった。

だから、足元のエルジェイドの変化に気づくことができなかった。


俺の結界の中のエルジェイドは、いつの間にか、その視線を俺に向けていた。

そして、俺が安堵し、気を抜いた瞬間を見逃さなかった。

俺は詰めが甘く、油断する、それが欠点だ。

今回も同じ過ちを繰り返したのだ。


エルジェイドは立ち上がり、俺が気を抜いた瞬間を狙い、己の槍で刺突を放った。

油断していた俺は、その攻撃への反応が遅れた。

エルジェイドの槍が俺の眼前に迫る。


ダメだ、この攻撃は避けられない。

せめてもの抵抗で、両手に魔力を集中する。魔法による衝撃で、エルジェイドの攻撃を反らそうと考えたのだ。

しかし、間に合わない。俺は覚悟を決め、目を閉じた。


ガキィィィィン


しかし、エルジェイドの槍は俺を貫くことなく、乾いた金属音が周囲にこだました。

その後、聞こえてくる声に俺は再び言葉を失うことになる。


「お久しぶりですね、リアムさん。

詰めが甘いところは相変わらずみたいですね。

安心したというかなんというか、ちょっと複雑な気持ちですよ」


目を開けた俺の前には、綺麗な金髪をなびかせた男。

男のわりには少し高めの声色をした、軽薄そうな男がそこにはいた。


「お前……まさか、アルク…………なのか?」

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