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115話 両軍激突

「エルジェイド!」


俺の叫びにエルジェイドは微動だにしない。

ここからでは判断は難しいが、どうやらイゴールやダスティン同様、ザイドリッツに何かされたのかもしれない。


「操られているな、もうやつはお前の知る者ではない」


俺の横で竜王アレウスがつぶやいた。


操られている?俺の知るエルジェイドじゃない?そんなの関係ない!

エルジェイドはエルジェイドだ。俺の友であり、仲間だ。

例え敵に操られていようと、俺は彼を殺したくない。


「エルジェイドを元に戻す方法はないのか?」


「あるとすりゃあ、あいつの体内にお前の魔力を流し込んで、術者の魔力を消滅させることができれば、たすけられるかもしれねえなぁ」


「ただし、そうなると、やつに長時間触れていなければならない。容易なことではないぞ」


蛇王ナーガラスと竜王アレウスは、俺にそう教えてくれた。


難しくても構わない、エルジェイドを助け出すことができるのならば、危険は覚悟の上だ。


「わかった、エルジェイドの相手は俺たちに任せてほしい」


「いいだろう。ナーガラス、お前は元勇者をやれ!」


「ああ、あいつには借りがあるからなぁ。今度こそ、八つ裂きにしてやる」


突然、上から面白そうにこちらを眺めていた男、ザイドリッツが玉座を飛び降り、地面に手をついた。

そのままの姿勢で、やつは俺たちに向かって語りかけてくる。


「見たところ、あなた方は人間側の最高戦力のようだ。

しかし、いいのですか?ここにばかり戦力を集中すると、他がおろそかになりますよ?

もうすでに、人間の国に魔物が押し寄せているやもしれませんね。

そうなれば、あなたたちの帰る場所は無くなりますよ?

私はいくらでも魔物を召喚することができる、こんな風にね!」


その瞬間、地面が怪しげな光を放ち始めた。

事前に魔法陣が描かれていたのか、単純なやつの魔力によるものかは、ここからでは遠くて判別できない。

次第に光は強くなり、ザイドリッツの後方に魔法陣の模様が浮かび上がった。


一瞬、魔法陣の光が強くなり、それと同時に大量の魔物が光の中からこちらに向かって押し寄せてくる。

ゴブリン、オーク、ゴーレム、ガーゴイルなどの下位の魔物やヒュドラなどの上位の魔物まで、大量に生み出され、一帯を魔物の群れが埋め尽くした。


「俺が魔法で一気に片づける!空間魔法展開、タイダルウェイブ!」


周囲一帯の魔物は大波に飲まれ消滅した。


しかし、あの魔物の量と質……あんなのが同時に人間の住む国に押し寄せたらひとたまりもないだろう。

周辺諸国は無事なのだろうか。


「案ずるな、人王に周辺諸国の警備は任せている。

ルイバリンガ大陸には剣聖や剣豪たち、中央大陸には周辺諸国の冒険者や獣人族、アールステラトーン大陸は拳聖たちが守備についているはずだ。

お前は、目の前の敵に集中しろ!」


俺の心配を察知してか、竜王アレウスは俺にそう教えてくれた。


さすが強王、周辺の警備も万全ということか。

しかし、やつの召喚術による魔物の大群をどうにかしなければ、ジルガたちまでたどり着けそうもない。


「さあ、次です。いきますよ!」


再び、ザイドリッツの背後に魔法陣が浮かび上がり、怪しげな光を放ち始めた。

少ししてから、大量に生み出される魔物たち。

俺も再び魔力を集中する。


そのとき、目の前の魔物の群れに特大の魔力弾が撃ち込まれた。

魔力弾が飛んできた方向に視線を移すと、サーシャが自慢げにその小さな胸を張っている。


「いいわよ、ロックハート。あの魔物たちは私たちで十分。あんたはあっちの相手に集中しなさい」


「そうね、私たちもただついて来たわけではないものね。

あなたとの修行の成果、ここで発揮させてもらうわ」


鋭刃流奥義・飛天の太刀を繰り出しながら、フィアーネもサーシャに続いた。


「私もリリアやハティと一緒に特訓したのよ。もう、守ってもらうだけの足手まといじゃないんだから」


「みんなの援護は私が引き受けます。リアムさんは、エルジェイドさんのこと、よろしくお願いします」


自信ありげなルーナと、優しい笑みを浮かべるソフィリア。


彼女たちも必死に鍛錬したのだろう。この状況で、なんとも頼もしいことだ。

ここは、彼女たちに任せよう。

危険があれば加勢し、俺が彼女たちを守ればいい。エルジェイド相手にそんな余裕があるかはわからないが、やるだけのことはやってみよう。


俺はエルジェイドほうへ向き直る。

表情はなく、目に光がない。もし仮にザイドリッツに操られているとしたら、術者であるザイドリッツを先に倒さなければ、解放することはできないんじゃないか?


蛇王ナーガラスと竜王アレウスの話では、術をかけられた者の体内に魔力を流し続ければ解放できるということだが、はたして俺にそこまでの時間、エルジェイドを拘束しておくことができるのだろうか。


俺はエルジェイドの力をよく理解していた。よく理解していたから、彼を解放することができるかという不安に襲われたのだ。


そんな不安を察知してか、竜王アレウスは俺に声をかけてきた。


「少しの間、俺がやつの動きを止める。その間にやつの体内にありったけの魔力を流し込め。

俺も、そこまで長い時間加勢してやることはできん。勝負は一瞬だ、今だ、行け!」


竜王アレウスの合図と同時に、俺はエルジェイドとの距離を詰める。

エルジェイドは達人だ、うかつに近づけば迎撃される。

そう考えた俺の取った選択は天脚での接近だった。


「竜縛」


俺の背後で竜王アレウスの詠唱が聞こえた瞬間、エルジェイドは身体の自由を奪われた。

エルジェイドが身動きが取れない間に、俺は自分の魔力をできるだけ彼の体に流し込む。


うめき声をあげながら、苦悶の表情を浮かべるエルジェイド。

数秒、そのままの時間が経過し、彼は地面に伏せた。


成功したのか、俺は地面に倒れ込んでいるエルジェイドの様子を伺うべく姿勢を低くした。

ある者は、その行動を油断というだろう。

姿勢を低くした俺の顔面に、エルジェイドの拳が打ち込まれた。


とっさに両腕でガードを固めたが、衝撃で後方に吹き飛ばされた。

失敗か、そう思いエルジェイドを見ると、彼は依然として頭を押さえている。

もう一押しだ、俺は再び彼の体に全力で魔力を流し込んだ。

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