113話 分かっていました
こちらを見て、目を丸くしている美女たち。
薄水色のハイエルフの美女と短く切り揃えられた金髪の美女、ソフィリアとルーナだ。
その2人を見たとき、俺は、心が穏やかになるのを感じた。
そんな俺を見て、2人の表情も優しい笑顔へと変化する。
「おかえり、リアム。待ちくたびれちゃったよ」
そう言って、はにかんで笑うルーナ。
「おかえりなさい、ご無事で何よりです。旅の間、お怪我などはなかったですか?」
そう言いながら、優しく微笑みかけてくるソフィリア。
2人の笑顔を見たときに、ようやく帰ってきたんだという実感が、俺の胸を支配する。
懐かしくもあり、温かい感情が一気に押し寄せてくる。
やっと俺は帰ってきたんだ……いや、感傷に浸っている場合ではない。俺たちの戦いは、まだ終わっていないのだ。
「久しぶりね、リアム」
「お久しぶりです、リアム様」
その場にいるリリアとハティも俺に気づき頭を下げた。
「ああ、遅くなってすまなかった。旅の間にいろいろあったんだ、まずはその説明を……」
「ねえ、ロックハート、この人たちは?」
俺の話を遮るようにサーシャが一歩を踏み出す。
それと同時に一歩後ろに退いていたフィアーネも、一歩前に歩み出る。
美女4人の視線が一斉にこちらに集中する。
「リアム、その人たちは?」
「リアムさん、まずはそちらのお二人にもこちらに入っていただいてから、説明を始めてはいかがですか?」
ルーナとソフィリアの視線が痛い。
2人とも穏やかに話してはいるが、どことなく殺気のようなものを感じる気がする。
リリアとハティは、あーあ、やっちゃったというような視線を向けてきている。
いや、今回、俺は2人に手を出していないのだ、胸を張って説明すればいい。
俺とサーシャ、フィアーネは部屋の中央まで進み、椅子に腰かける。
「この2人は……」
「私はサーシャ、ロックハートとは家族になったわ」
一瞬にして場の空気が凍りつく。
ルーナとソフィリアの笑顔が怖い、笑顔の裏にある殺気が感じ取れそうな雰囲気である。
フィアーネは、サーシャと旅をしているから慣れているのだろう、顔色ひとつ変えることなく飲み物を口に運んでいる。
「違うんだ、家族といっても別に何も……」
「私はフィアーネと申します。リアムとは、剣客島で長い間、共に稽古をした仲です。
今は剣王様の門下を破門となり、生涯リアムに仕えるべく、一緒に行動しています」
えっ、ちょっ、フィアーネまで何言ってるんだ?
思わず、俺は彼女の方へ視線を移した。
しかし、彼女は依然として涼しい顔で、飲み物の入ったグラスを傾けている。
サーシャだけならまだしも、何を考えているんだ、こいつは。
気づけば、リリアとハティは部屋から姿を消していた。
なぜ、俺はこんなに重苦しい空気の中にいるんだ。
そうだ、俺は何もしていないはずだ。
この空気の悪さは、単にサーシャとフィアーネの言い方に問題があっただけだ。
ちゃんと説明すれば、きっとルーナとソフィリアなら分かってくれる。
俺が意を決して口を開こうとしたその時、ルーナとソフィリアは大きなため息をついた。
「別にいいですよ、リアム。私たちはなんとなく察していましたから」
えっ……。
「そうですね。リアムさんは旅に出ると必ず女性を連れて帰ってきますからね。
ある程度、仕方ないことだとは思っています」
ええっ!
「やはりそうでしたか。もともと美女を引き連れた大賢者と噂されていましたし、そうではないかと思ってはいたのですが」
フィアーネまで!?
「ロックハートは女好きなんだね」
サーシャにまで……。
「いや、だから……お前たちの誤解だって……」
「私が言うのもなんですが、お二人とも苦労なさってきたことでしょう」
「そうなんですよ、分かってもらえますか、フィアーネさん」
「私はリアムさんに助けてもらった恩もあるので、苦労ということはありませんが、フィアーネさんたちもご苦労をおかけしました」
「いえ、私は旅も楽しかったですし、苦労なんてとんでもない。
ほら、サーシャ。お二人とも優しい方々で良かったですね」
俺の言葉を無視し、話を弾ませる女性陣。
まあ、これはこれでいいのかもしれない。みんな思ったよりも仲良くなれそうだ。
そう安堵したのも、つかの間。
「で、ロックハートは誰を一番に選ぶの?」
このサーシャの一言が、再び場を凍り付かせたことは言うまでもない。
その後、誰を一番にするかという話の決着はつかず、その夜、俺はベッド上で4人に蹂躙されることとなる。
数日後、俺たちは竜王アレウスとの約束の地に向け、旅をしていた。
アステラから魔大陸へ渡り、南東の海岸沿いを歩く。
魔大陸といっても、ここら辺は魔物が少ない。それどころか、魔族の気配すらない。
ソフィリアは転移事件の苦い記憶があるようだが、今のところは大丈夫そうである。
ルーナとソフィリアをここに連れてくるか迷っていたのだが、今回の件を話すと、2人はついて行くと言ってきかなかった。
俺の身を案じてのことのようだが、フィアーネとサーシャの件も影響しているのかもしれない。
本当はもう1人、エルジェイドも連れてきたかったのだが、彼の情報は掴めなかった。
きっと彼のことだ、ギルドに出した書き置きを見て、すぐにこちらに合流するだろう。
「来たか」
「ええ、俺の仲間を連れてきました。
本来であればもう1人、魔族の戦士がいるのですが、彼には連絡が取れませんでした」
「そうか、ついてこい。今後の戦いに向けて、話し合いと準備をする」




