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111話 魔神復活の最後の1ピース

サーシャが目を開けたとき、周りには砂浜が広がっていた。

自分が置かれている状況が分からない、彼女はゆっくり整理するように考える。


自分は草原で竜王と向かい合っていたはずだ。

力は解放して、全力の魔力波をぶつけた。それなのに、あいつは立っていた。

それから、もう一度攻撃をしようとして……そこでようやく彼女は思い出した。


ハッとして、すぐに立ち上がり、海岸の先にある草原へと走っていく。

海岸を抜け、草原に到着したサーシャの目に映ったのは、荒野と化したかつての草原だった。

状況が飲みこめない、注意深く周囲を見回す。


すぐ近くに1人の女性が座り込んでいる、フィアーネだ。

彼女は呆然と目の前の光景を眺めていた。

剣士としてのキリッとしたいつもの様子はなく、ただ恐怖しているだけの姿に危機感を覚え、視線を奥へと移す。


その奥、初めて見たときと、かなり風貌が変わっているが見覚えのある男、竜王。

衣服はボロボロになり、全身から出血している。

サーシャと向かい合った時の余裕のある表情も消えていた。


ロックハートが優勢だ、彼は世界最強とだって対等に渡り合えるんだ。

サーシャは心躍らせた。

自分の慕っている者が世界最強の男に善戦し力を示している、そのことが誇らしかった。


しかし、リアムの姿を見てサーシャは言葉を失った。

悪魔……。

その言葉だけがサーシャの頭に思い浮かんだ。


憑き子であり、周囲の人間から疎まれていたサーシャを、優しく包み込んでくれたリアムはもうそこにはいなかった。

赤茶色の髪は白く染まり、幼さを残す優しそうな顔は狂気に満ちていた。

背中からは黒いコウモリのような翼、長く伸びた角と牙は魔物のそれである。


「やはりお前が魔神復活のための最後のピースだったか」


竜王が小さくつぶやいた。

しかし、リアムからの反応はない。

彼は本当に人間ではなくなってしまったのだろうか。


「お前を殺して魔神復活を阻止する。悪く思うな」


竜王の傷が癒えていく、彼を取り巻くオーラもより一層強く感じる。

やつは本気だ、助けなくてはロックハートは殺される。

サーシャが助けに行こうとした次の瞬間、リアム・ロックハートは背後から心臓を貫かれていた。



《リアムside》


気づくと俺は草原で寝ていたようだ。

頭の下に柔らかくも温かい感触、腹の上には熱く重い感覚を覚えて、俺は目を開けた。


「やっと気がついたわね、大丈夫?」


「ロックハート!」


同時に頭上と腹部の方から声がした。


頭上ではフィアーネが心配そうな視線を向けている。

この頭の下の柔らかい感触、どうやらフィアーネに膝枕をしてもらっているようだ。

鍛え抜かれて筋肉質だと思っていたが、ほどよく柔らかくて心地良い。


腹の方へと視線を向けると、涙でグシャグシャの顔をしたサーシャの顔。

普段は強気で反抗的な彼女が、涙を流しているのを見るのはアルセイフと別れて以来か。

俺のために泣いてくれるということは、アルセイフと同じくらいには、彼女に想ってもらえているのだろうか。


そんなことを考える余裕があるくらいには落ち着いている。

こんなことを考えていることが2人に知れたら、また静かな眠りにつくことになるだろうな。


さて、どうしてこうなったかはなんとなく分かる。

身体の自由が利かなかったが、意識はうっすら残っていた。

俺はサーシャを助けるために、頭の中に流れ込んでくる声の主の話に乗った。

力を開放し、暴走したのだ。


その力は強大で、世界最強の男である竜王相手に優勢だった。

しかし、問題はその後だった。

突然、背後から胸を貫かれ、気づいたらこの状況なのだ。

意識を失う直前に聞き覚えのある声を聞いたような気もしたのだが……。


「フィアーネ、サーシャ、お前らは無事か?」


「え、ええ、私は大丈夫よ」


「はぁ!?私たちのことより自分のことでしょ!?本当に死んじゃうかと思ったんだから」


戸惑いながらに答えるフィアーネと、怒りを露わにしながら答えるサーシャ。

たしかに、まずは自分のことを優先するべきだろうが、なんせ途中から記憶がないから危機感がないのだ。


「俺はどうなった?途中までは記憶があるんだが……誰にやられた?どうして傷がない?」


「それは俺が話してやる」


そう言うと、どこからともなくそいつは現れた。いや、ずっとそこにいたのだろうが。

俺はフィアーネに支えられ、サーシャの手を取りつつ、上半身を起こした。

その目の前には仁王立ちの竜王アレウス。

相変わらずの鋭い眼光を放っているが、先ほどまでの殺気は消えている。

どうやら、敵意はないらしい。


「お前の心臓を貫いたのは、元勇者ジルガ・トランジェッタだ」


やはりか、俺を背後から襲う相手に心当たりがあるとすればジルガしかいない。

しかし、ジルガ以外の別の誰か、聞き覚えのある声の主が分からない。

あの声は、ダスティンやイゴールではなかったと思うのだが。


「やつは完全に魔道具に魅入られていた。

どうやら、やつが本当の魔王の使途だったようだな。

手引きをしたのは別の者のようだったが」


そう言うと竜王アレウスは憎しみのこもった表情で俺を睨みつけた。


「その男の名はザイドリッツ、お前に俺と潰し合いをするように仕向けた張本人だ」


俺と竜王が戦うように仕向けた……ということは、もしかして、あの未来からの冊子というのは、そいつが俺をハメるために仕掛けた罠だったというのか……。


「やつは言っていた……少し計算違いでしたが、まあいいでしょう。彼は十分役に立ちました、ジルガさん、彼のえぐり取った心臓は持ち帰りますよ。それが魔神復活の最後のピースですからね……とな。

そしてお前は、ジルガ・トランジェッタに心臓を抜き取られ死んだ。

いや、死ぬ寸前だったというべきか」


なるほど、俺はまんまと、そのザイドリッツという男の手のひらの上で踊らされていたということか。

初めは罠かもしれないと警戒していたが、いつしか冊子の内容を鵜吞みにするようになっていたのか。


「いや、待ってくれ!心臓を抜き取られた!?それならなぜ俺は生きている?

失った臓器は回復魔法では元には戻らないはず。

方法があるとすれば、それは再生魔術だけだろう」


その問いに竜王はそっと視線を動かした。

その視線の先には、2人の美女と美少女がいる。

まさか……。


「俺が再生魔術を使った。代償は、その2人の寿命だ。

俺の魔力は強大だから、そこまでの代償は必要としてはいないがな」


俺は2人を見た。

当然だろうと胸を張るサーシャ、視線をそらし申し訳なさそうにしているフィアーネ。

2人の態度は全く違うものだった、きっと何かあるのだろう。

今はいい、落ち着いたら2人には話を聞かなくては。


「サーシャ、フィアーネ、ありがとう」


「当然じゃない!あんたは私の家族なんだから!」


「ええ、お礼を言われるほどのことではないわ」


どうにもフィアーネの様子がおかしい。

自分の寿命を犠牲にし、大したことないわけがないだろうに。


「こいつらに懇願されて、俺はお前を助けることにした。

その分は、しっかり役目を果たしてもらうつもりだ。

来い、お前を協議の場、忘れられた地へ連れていく」

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