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109話 竜王、再会

「行くのか?」


「ええ、俺には竜王に会って確かめたいことがある。

その内容によっては、竜王に戦いを挑むことになります。

今まで、ありがとうございました」


頭を下げる俺にギルトールは、1本の剣を差し出してきた。

見覚えのある剣、これはアルクの形見の剣だ。

しかし、よく見ると剣の形状が少し違っていた。


剣の柄や鍔に小さな魔石が埋め込まれ、刀身も少し太くなったように感じる。

しかし、重さは前とさほど変わらない。


俺はゆっくりと鞘から剣を抜き放った。

その刃は直刀の両刃仕様、刃は良く研がれている。

よく見ると、アルクの剣をベースにその周りを別の素材でコーティングしたような感じだ。


「お前は知らないだろうが、レインジーク家はもともと剣士としては名家だ。

今まで何人もの剣豪、剣聖を輩出している。

お前が形見として託された剣は、秘剣・風流、レインジーク家の秘蔵の剣だ。

アルクって小僧がなぜ、そんなもんを持っていたかは知らねえがな」


そんな剣をなぜアルクが……。

いや、でもアルクのことだ、家にあった高価な剣を無断で持ち出すことくらいはするかもしれない。


「なんにせよ、その秘剣をベースにして、もう1本の剣でコーティングして鍛え直した。

秘剣・風流は切れ味と軽量化に特化した剣だ、どうしても強度が足りねえからな。

それに加え、倉庫にあった魔石を何個か埋め込んでやった。

その魔石はお前の魔力を増幅し放出する。

いちいち剣から手を放さずとも魔法を使えるというわけだ」


剣を握ったまま魔法を放つことができる、それなら剣術と魔法を両立しやすい。

さすが剣王だ、どういう武器があれば、その流派が活きるかどうかがよく分かっている。


「その剣の名は、法剣・風流。お前はこれから、魔刃流を名乗ることを許す。

それから、フィアーネを連れていけ!」


「えっ!?」


俺と同時にフィアーネも驚きの声を上げ、2人の視線がギルトールに向けられる。


「まあ、見届け人といったところだ……。

こいつとアレウスの戦いの結末がどうなるか、その目に焼き付けてこい。

あとは先日話した通りに動け、いいな?」


「は、はい」


なんだ、先日話した通りに動けとは……。

フィアーネには、何か別の目的があるのか。


「先日話したとは?」


「ああ、お前には関係ねえことだ。

外の世界に出て、いろんな剣士を見て来いっていう親心みてえなもんだ」


なるほど、ギルトールも師匠として思うところがあるということか。

俺の目から見てもフィアーネは、他のどの門下生よりも稽古に励んでいる。

毎日、それを目にしているギルトールも彼女には期待しているのだろう。


「では、行きます。今までお世話になりました」


「10日後、アレウスは中央大陸から魔大陸に移動する。

やつが通るルートは、だいたい見当がついている……毎回、同じルートを通るからな。

お前は先にそこに向かい、やつを迎え撃て。

本気で勝ちたいなら、やつに先手を取らせるな」


それが剣王ギルトールの最後の言葉だった。



そして現在、魔大陸の最南端の海岸に俺たちは来ている。

俺の横にはサーシャ、少し後ろにフィアーネが控えている。


「ねえ、ロックハート。その竜王って、そんなに強いの?」


「そうだな、強いはずだ。

剣王ギルトールと同じ七大強王だが、その中でも竜王アレウスは別格だと言われているらしい。

実際に一度だけ見たが、勝てる気はしなかったな」


俺の返事にサーシャは首をかしげた。


「でも、今なら勝てるんでしょ?ロックハートは強いもんね」


サーシャは俺と旅を始めてから、俺を過大評価している気がする。

本人が竜王を見たことがないというのもあるかもしれないが、正直、今の実力でも勝てるかどうかというところだろう。


しかし、だからと言って、黙っているわけにもいかない。

竜王がジルガを操り、魔道具を集め、魔神復活を企んでいる可能性がある。

可能性がある以上、直接本人に確かめなくてはならない。

それが、あの未来からの冊子に込められた思いのはずだ。


「勝つことは難しいかもしれないけど、全力を尽くすつもりだ。

でももし、俺が勝てないとわかったら、2人だけで逃げるんだ。いいな?」


「イヤよ!」


「私も剣王様より見届けろと命を受けてるのよ?

私だけおめおめと逃げ帰るわけにはいかないわ」


サーシャは頬を膨れさせ、フィアーネは呆れたようにため息をついた。


これから世界最強の男と向かい合うとは思えないほど、和やかな時間。

願わくば、このまま和やかな時間が過ぎ、魔神復活も他の誰かが阻止してくれれば……そんな淡い期待を抱いていると、突然そいつは目の前に現れた。


目線の先、中央大陸から伸びる一本道の上を歩いてくる男が見える。

威風堂々たるその姿は、まさに強者のそれであった。

一度、遭遇したことのある俺はもちろん、初対面のサーシャもフィアーネも彼の放つ威圧感に無意識に反応し、瞬時に戦闘態勢に入る。


周囲を緊張感が包む。

俺は、サーシャとフィアーネを制止し、歩み出た。


「やつに先手を取らせるな」


ギルトールの言葉が脳裏をよぎる。

この距離、竜王はまだこちらを確認していない。

今仕掛ければ、もしかしたら俺の攻撃を直撃させることができるかもしれない。


俺は静かに右手に魔力を集中させた。

彼の姿を確認してから、彼に話を聞いてからという考えは頭から消えていた。

先にヤらなければ、確実にヤられるという予感が、俺に奇襲という選択をさせた。


使う魔法はライトニングバースト。

奇襲として使えば確実に相手を仕留めることができるだろう。


「空間魔法展開……」


その瞬間、竜王の視線が俺を射抜いた。

気づかれた……いや、すでに奇襲自体が見抜かれているかもしれない。

俺は集中させていた魔力を拡散させた。


ゆっくりと竜王が近づいてくる。

自分の心臓が早鐘を打っているのが分かる、やけに心臓の音も大きく感じる。


すぐそこまで近づいてきたとき、意外にも彼の方から口を開いた。


「きさま……あのときの、魔王殺しか。それとお前は、憑き子だな。オーガの力を宿しているのか。

それにお前は……その風貌、剣……そうか、剣王のところの。ふん、余計なことを。

それで、俺になんの用だ?」


俺のことを覚えているのか。

そればかりか、力を完全にコントロールしたサーシャの力を見抜いた。

やつも魔眼のようなものを持っているのか。

それと、フィアーネに対する反応、何か引っかかる。

だが、そんなものは後回しだ。


「あなたに1つ確認したいことがある。ある筋からの情報だが……」


俺は心を静めるように、覚悟を決めるように、そこで大きく息を吸い込んだ。


「あなたが、元勇者ジルガ・トランジェッタを操り、魔道具を集めさせ、魔神復活を企んでいるという情報がある。……それは本当か?」


竜王は顔色一つ変えずに聞き返してきた。


「その情報……どこで手に入れた情報だ?」


見知らぬ男に渡された、未来の俺が記したであろう冊子……といっても、信じてもらえないだろう。

現物が手元にない以上、証拠がない。

俺が、妄想で言いがかりをつけたと言われれば、それまでだ。


「……情報の入手先は言えない」


俺の返事に竜王は、いぶかしげな表情を向けてきた。

そして少しの間の後、ゆっくりと口を開いた。


「きさま……まさか、声が聞こえているのか?」


「声?前に会った時も言っていたが、声とはなんのことだ?

確かに以前、頭の中に声が流れ込んできたことがあったが、今は聞こえな……」


ズガーン!

数多くある小説の中から、この小説をお読みいただきありがとうございます。


これより最終章に入ります。

お付き合いいただいている読者の皆様、もうしばらくお付き合いいただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。

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