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108話 修行の果てに

「最近、姿を見せねえと思ったら、こんなところに引っ込んでやがったか。

あの怠け癖の強いエイルまで修行に突き合わせるたぁ、たいしたもんだな」


俺たちが道場裏の山中で稽古をしていると、快活に笑いながら剣王ギルトールが姿を現した。

エイルとの決闘より約半月、俺は剣術と魔法の融合型という課題をクリアするため、フィアーネをはじめとする三剣聖やサーシャとともに悪戦苦闘していた。


「三剣聖が集まって稽古してるなんて、何年ぶりの光景だ!?

フィアーネ、リゼ、お前ら、エイルのことを嫌ってたんじゃねえのか?」


「今でも嫌いですよ。でも、そうですね、ちゃんと頭を下げてもらいましたし、彼の頼みでもありますから」


そう言うと、フィアーネはチラッと俺に視線を向けた。


「そうなんですの。あのエイルが、私やフィアーネに頭を下げたんですのよ、夢かと思いましたわ」


リゼは口元を手で覆い、上品に笑った。

上機嫌の2人とは対照的にエイルは、不満そうな表情である。


「僕はこいつに負けたから仕方なく頭を下げたんだ!別にお前たち2人に負けたわけじゃないからな!」


エイルはそう言うと、すぐにハッとなったようにうつむいた。


「へえ、エイルに勝ったのか。ってことは、お前なりの答えを見つけたってことか……」


ギルトールは手にしていた5本の剣全てを腰に携え、鋭い視線を俺に向けてきた。


「お前の答えを見てやる……来い」



------


さすが剣王と言うべきか、三剣聖には勝てても、ギルトールを倒すことはできなかった。

しかし、彼も無傷というわけにはいかなかった。

真剣で全力の摸擬戦、互いに全力を出し合った結果、ギルトールは身体に多くの切り傷を刻むこととなった。


俺はというと、最終的にギルトールに切り伏せられ、意識を失ったのだ。

目が覚めたのは、摸擬戦より3日後のことである。


「目が覚めたか、相変わらず軟弱な野郎だ。

だが、まあ、お前の答えは悪くない。ただ、その答えだと80点ってところか。

魔法で剣を生成し三大流派と組み合わせる、それは悪くねえ。

が、それだと魔法に頼りすぎだ。魔法が使えない状況下では威力半減どころじゃねえ」


確かにその通りだ。

もともと今回の修行は、魔法が使えない環境下での戦闘技術を身に着けるためのもの。

魔法で剣を作り出せればいいが、魔法を封じられれば以前と変わらない。

俺は、いったい何をしていたんだ……。


「いや、でもお前はもともと魔導師だ、それでいいのかもしれねえな。

残りの20点は、俺がお前に授けてやる」


そう言うと彼は、おもむろに俺の持つ2本の剣を手に取った。


「まず10点分は、こいつらだな。

お前に新しい剣を用意してやる、俺が直々に剣を鍛えてやるんだ、ありがたく思え」


それはありがたいが、俺からするとどちらも大事な剣だ。

1本は初めてソフィリアと出会った時に貰った剣。

名もない使い古された鉄の剣だが、俺にはどんな高価な剣よりも価値のあるものだ。

もう片方は、アルクからもらった剣、彼の形見だ。どちらも手放すことなんてできない。


「ありがたい申し出だが、俺にはこの2本の剣は大事なものなんだ。

他の剣を使う気にはなれない」


俺の言葉にギルトールは、上機嫌な笑みを浮かべて言い放った。


「そんなもんはこいつらを見ればわかる。使い古されているのに手入れが行き届いてる。

放っておいても、まだしばらくは使えるだろう。

だから、こいつらは俺が鍛え直して、ひとつの剣に生まれ変わらせてやる」


「いや、しかし……」


「安心しろ、悪いようにはしねえ。この2本に宿った魂は汲んでやる。

それとは別に俺がお前に剣を1本やろう。

俺が認めた剣士には、それが通例となっている。文句は言わせねえ」


分かっていたことだが、彼は人の話をあまり聞かない。

しかし、悪いようにはしないと言っているし、剣王自ら剣を鍛えてくれるなど滅多にないことだろう。

今回は、ありがたく、その申し出を受けよう。


「よろしくお願いします」


「おう!じゃあ、今から剣王の間に来い!フィアーネ、お前もだ!」


その場にいたエイルとリゼには、サーシャとの稽古の続きを命じ、俺とフィアーネはギルトールに連れられ、この場をあとにした。


そういえば、ここに来た初日や稽古のとき、俺はフィアーネと行動を共にすることが多いな。

剣王の指示だからか彼女もイヤそうにしている様子はないが、なんとも思っていないのだろうか。

俺としては、彼女の指導は分かりやすいし助かるが、彼女の成長を妨げているような気もする。


「この中から、1本だけ選べ!その剣をお前にやる」


剣王の間の壁に掲げてある剣を指さし、剣王は言い放った。


その場にあるのは4本の剣。

どれも見た目には、天下一品と言えるような存在感のある剣だ。

俺は、そのひとつひとつに目を向け、そして1本の剣を手に取った。


反りの利いたやや細身の刀身、柄から剣先までが漆黒、しかし刃だけが光の加減で赤黒い光を放っている。


「ほう、黒狼か。なかなか扱いが難しいが、まあ、お前なら使いこなせるだろう」


「黒狼……どんな剣か聞いても?」


「その剣は、獣王が使っていたと言われている剣だ。その剣は使う者に力を与え、あらゆる物を両断する。

魔法を斬れば、その魔力を自分のものとし、敵を斬ればその切れ味は増していく。

魔剣と呼ぶに相応しい剣だ」


そんな剣を俺に使いこなすことができるのだろうか。

身に余る力は、その身を亡ぼすという。

やはり、別の剣にした方が……。


そう思った瞬間、剣の刀身の光が強くなった気がした。


「そういや、獣王も魔法に適性があるやつだったっけな。

案外、お前に最も適している剣なのかもしれねえ。

せいぜい獣王が使っていた剣を使うに恥じねえ実力を身に着けるんだな」


なにか大変なものを手にしたのかもしれない。

今からでも辞退するわけにはいかないだろうか。


「フィアーネ、お前も選べ」


「いえ、私は剣王様より剣を頂くほどの実力は……」


「お前、俺の言うことが聞けねえっていうのか?」


一瞬にして場の空気が張り詰める。

やはり、辞退させてもらうことはできなそうだ。

俺は、この黒狼を扱えるだけの力を身につけなければ。


「チッ、相変わらず頑固な野郎だ。

それなら、お前にはこの剣がいいだろう」


「うわっとっと」


ギルトールはフィアーネに向かって、剣を1本乱暴に投げ渡した。

フィアーネも投げられた剣を取りこぼさないように受け止める。


「それは先代の剣王が使っていた、聖剣・明鏡止水」


「聖剣……明鏡止水……」


フィアーネはゆっくりと鞘から剣を引き抜く。

一直線の細身の刀身、柄から剣先まで純白、刃は透き通るような透明感のある美しい剣。

本当にその剣で人を斬ったことがあるのか、いや、そもそも人を斬ることができるのか疑いたくなるほど綺麗な剣だった。


「そいつを使っていた先代の剣王は、乱刃流に適正がなかった。

そればかりか、鋭刃流も舞刃流も使えた奥義は、それぞれ1つずつ。

それでも、その技を極めることで剣王までたどり着いたんだ。

お前の愚直な姿は、どうもその先代の姿と被る部分がある。

今後はそいつを使って、もっと高みを目指せ」


「はっ、ありがたく頂戴します」


その後、俺とフィアーネはギルトールより、残りの10点分ということで新たな奥義を伝授されることとなった。


奥義の名は飛天の太刀。

簡単に言えば、斬撃を飛ばし離れた相手にダメージを与えるもの。

ギルトールは遠く離れた岩をも切断する実力を見せた。

俺もフィアーネも、まだまだ斬撃を飛ばすまでには至っていないが、俺の剣を鍛え直すまでの間に習得するように命じられた。


俺が編み出した剣術スタイル、獣王の使っていた剣・黒狼、さらに鋭刃流奥義・飛天の太刀、これらを組み合わせることで竜王に対抗できるかもしれない。


俺は逸る気持ちを押さえ、飛天の太刀習得のためにフィアーネとともに剣を振るのだった。

数多くある中から、この小説を読んでいただきありがとうございます。


次話から、最終章となります。


ここまでお付き合いくださった読者の皆様、本当にありがとうございます。

残りもあと少しとなりましたが、最後までお付き合いいただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。

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