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106話 稽古をつけてほしい

「魔法に適性の高いお前だけの剣術のスタイルを確立してやる。

死ぬ気でついてこい!」



剣王にそう言われ、修行に励むこと数週間が経過した。

現在は自分なりの剣術スタイルの確立にはほど遠い段階である。


「お前は全ての流派への適性がある。

全ての流派の良いところを取り入れ、魔法適正の高い、お前だけの要素も取り入れればいいんだ、簡単だろうが!」


というのは、剣王ギルトールの言である。


剣王のように剣術を極めていれば簡単かもしれないが、俺はもともと魔導師寄りだ。

剣術にしたって、ジルガの真似とアルクの指導があったからであって、決して自分の力だけではないんだ。

もっと、ちゃんと指導してくれればいいのに。


そんなことを考えながら、横を見ると、フィアーネも何やら考え込んでいる様子。

なぜかギルトールは、俺とサーシャだけでなく、フィアーネにまで稽古をつけていた。

まあ、彼女の勤勉な態度を見てのことだとは思うが。


反対側に視線を移すと、サーシャとリゼが摸擬戦を行っている。

リゼはギルトールとの稽古については乗り気ではないが、サーシャとの稽古には文句も言わず付き合ってくれていた。

同じ憑き子としての親近感か、サーシャを妹のように感じているのか。

なんにせよ、サーシャが力のコントロールができるようになるのであればありがたい。


問題は、やはり俺自身か。

新しい剣術スタイル、正直全く想像すらできていない。

それぞれの流派の特徴をふまえ、自分の個性を取り入れる……か。

言うのは簡単だが、新しいものを作り出すというのは困難なことだな。


「ねえ、私も考えていたんだけど……」


ふと、フィアーネが口を開いた。


「三大流派の特徴をふまえた戦い方自体は、そんなに難しく考える必要はないんじゃないかと思うの。

だって、それは剣王様も、認めたくないけどエイルだってやっていることよ」


何かを考えこんでいると思ったら、俺のために考えてくれていたのか。

自分の剣術の上達にしか興味がないのかと思っていたが、案外優しいところもあるんだな。


「だから、基本的なスタイルは2人の真似をすればいいわ。

剣王様が稽古をつけてくれないというなら、私も一緒にエイルに頼んでもいい」


実際、ギルトールは稽古をつけてくれていないわけではない。

ただ、格が違いすぎて、俺が何かを学ぶ前に倒されているというだけのこと。

つまり、彼の稽古は、彼に瞬殺されないようになって、初めて学べるものなのだ。

それにしても、俺のために嫌いなエイルに頭を下げてくれようとするとはな。


「ありがたい申し出だが、フィアーネはエイルのことが嫌いなんだろう?

なぜ俺のために嫌いなやつに頭を下げてくれようとする?」


俺の問いに彼女は目を見開き、視線をリゼとサーシャに移した。


「そ、それは、あなたが強くなれば、一緒に稽古をしている私も強くなれるからよ!

それに、あなたが自分の戦い方を見つけたら、私がその戦い方を盗んで、もっと強くなるんだから!

そうよ、そのためよ!」


なにやら、自分に言い聞かせているようにも聞こえたが、エイルに頼んでくれるというのはありがたい。

でもまずは、俺一人で頼みこんでみよう。彼女に頼るのはそれからだ。


「そうか、ありがとう。でもまずは、俺が1人で頼みにいくよ。

それでもダメだったときは、一緒に来てくれ」


「わかったわ。じゃあ、1つだけアドバイスをしておいてあげる。

エイルは剣術については、あまり興味がないわ。

だから、素直に稽古をしてくれるはずがない」


きっぱりと言い切るんだな。

それなら、俺が頼みに言っても無駄と言われているような気もするんだが。


「でも、それでも稽古をつけてもらいたいなら、何か条件を提示しなさい。

自分に稽古をつけてくれたら、何かをあげるとか、何をするとかね。

あいつは損得勘定のみで動くから、稽古をつけるに見合った報酬を提示すれば、きっと乗ってくるはずよ」


フィアーネのアドバイスを受け、エイルのもとを訪ねる。

まずはそのまま頼んでみよう。


「エイルさん、俺に剣術の稽古をつけてほしいのですが、お願いできませんか?」


「きみは、フィアーネと一緒にいた大賢者様だったか?

イヤだよ、僕がきみに稽古をつけてやる義理はないからね」


やはり、頼んだだけでは断られてしまうか。フィアーネの言ったとおりだな。

さて、いったいどんな条件をお望みなのかな。


「どうしても稽古をつけてもらうことはできないですか?」


俺の問いにエイルは、ふむとあごに手をやり考え込む。

しばらくして、ニタッと口角をあげて、こちらに視線を向けてくる。


その表情、なにやらイヤな予感しかしないのだが。


「そうだね、きみが僕の奴隷になるというなら考えなくもないよ」


なるほど、そうきたか。だが、それでは本末転倒だ。

ギルトールとの摸擬戦のときもそうだったが、どうやらこいつは、権力を主張したいタイプのようだな。

フィアーネやリゼが嫌うわけが分かった気がする。


「あとは……そうだね。噂では、きみは、美女をたくさん引き連れていると聞いたよ。

そのうちの1人を僕にくれよ。なんなら、ここに連れてきた憑き子でもいいかな。

まあ、きみに気がありそうなフィアーネでも最悪我慢してあげてもいいよ」


先ほどから、人を物のように言うやつだな。

天才で、ギルトール以外に負けてないから、自然と人を見下す癖がついているのだろう。


多少気分の悪いものだが、さて、これは俺が何かを言ったとしても直らないだろう。

人格というのは生まれ育った環境に起因することも多いし、何年もかけて形成されたものをすぐに変化させるのは難しいことだからな。


「そんなやつのために奴隷になる必要なんてありません!」


突然背後から怒気のこもった声が聞こえてきた。

振り返ると、怒りをおびた表情のフィアーネがこちらに歩いてきている。

どうやら、彼女は様子を見るため、俺のあとをつけていたらしい。


「やあ、フィアーネ。そうだね……彼が奴隷にならないというなら、きみが僕のものになるかい?

僕としてはどちらでもいいんだけどさ」


「そんなのイヤに決まっているじゃない!

こうやって、頭を下げているんだから稽古くらいつけてあげなさいよ!」


その頼み方も強引ではないか、フィアーネ。


「いいだろう、そこまで言うなら稽古をつけてあげるよ。

ただし、きみが僕に勝てたらね。

もし負けたら、きみは僕のものになるんだ」


「そ、それは……」


「いいだろう、その勝負、俺が受けよう。

もし俺が負ければ、俺を好きにするといい」


「ふーん……決まりだね、じゃあ、外に出ようか」


エイルは邪悪な笑みを浮かべて、外に向かって歩き出した。


「なんであんなことを?

エイルは本当に強いわよ、今のあなたで勝てるとはとても……」


不安そうな顔でフィアーネが俺を見上げている。

彼女はエイルの実力を知っている、やはり彼は相当の実力なのだろう。

だが、負けるわけにはいかない。

俺を見下すだけならまだしも、こいつはフィアーネやサーシャ、それにルーナやソフィリアにまで手を出そうとした。それだけは許せない、だから負けちゃいけないんだ。


「大丈夫だ、やつに勝って、無理矢理にでも稽古をつけさせてやるさ。

それと、これはついでだが、やつの性根を叩き直してやろう」

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