105話 剣王の実力
「なあ、フィアーネ、エイルというのは?」
俺とフィアーネは剣王に言われ、エイルとリゼ、それとサーシャを呼びに向かっていた。
「百式のエイル、彼は見た技を瞬時に自分のものにする。
私の使う鋭刃流はもちろん、舞刃流も彼は瞬時に自分のものにした。
それとリゼの乱刃流についても同様ね。
だから彼は私たち三剣聖の中で頭一つ抜き出た存在よ」
瞬時に自分のものにする技量、半端ではないな。
自分の技を使ったそばから吸収され強くなってしまう、敵として現れたら厄介な存在だ。
「ちょっと待ってくれ、見た技を一瞬で自分のものにするということは、剣王よりも強いということか?」
「いいえ、彼は自分の能力を大幅に超えた者の技は自分のものにできない。
だから、剣王様の使う奥義だけは使いこなせない。
つまり、彼が私やリゼの技を使うことができて、剣王様の技を使うことができないということは、剣王様には勝てないけど、私やリゼには楽に勝てると言われているようなものね」
そこまで言い終えてから、ギリッと歯ぎしりのような音が聞こえた気がした。
「それと、彼はそこまでの能力を持ちながら、強くなることに興味があまりないわ。
理由は本人に聞けばわかることでしょうけど、私は聞きたくもないわね。
私もリゼもエイルのことは嫌いだから」
今まで稽古を共にしてきて、フィアーネは特に人付き合いが下手な方ではないように感じる。
むしろ社交的で、後輩からは慕われている。リゼのような特異的な人格でもない。
そんな彼女がここまで毛嫌いするエイルという男、相当な曲者なのかもしれない。
「ここよ」
そんなことを話しているうちに、エイルがいるという部屋に到着した。
どうやら、剣聖は稽古用の広間と部屋を個別で与えられているようだ。
剣豪は広間と部屋を数名で共有し、それ以下の門下生に関しては大広間がそのまま部屋として割り当てられている感じだ。
「エイル、剣王の間に集合よ」
フィアーネは扉を開けることなく、そのまま呼びかけた。
少しして、やや高めの男の声で返事が返ってくる。
「ええー、集合?めんどくさいなあ、お腹痛いからパスってわけにはいかないの?」
「剣王様、直々の集合命令よ。それでもイヤなら好きになさい」
「わかったよー、すぐに行くから先に行っててー」
その返事に、フィアーネは舌打ちをしつつ、その場をあとにした。
続いて、リゼとサーシャにも声をかけ、俺たちは先に剣王の間に向かった。
「おう、早かったな。三剣聖が揃うのを見るのは久しぶりだな」
剣王は集合した剣聖たちを睥睨して言った。
「剣王様、我ら三剣聖、ここに参上しました」
フィアーネはそう言うと片膝をつき、頭を下げながらに言った。
「どうしたんですの?例の招集で何か問題でもありましたの?」
「どうでもいいんですけど、用があるなら早く済ませてほしいんですけど」
かしこまるフィアーネに対し、リゼとエイルは棒立ちのまま続けた。
妖艶な雰囲気を醸し出すリゼの隣にいる青年、彼がエイルか。
茶髪のおさげ髪、その顔は幼いようにも見えるが、ふてぶてしささえ感じる。
「おう、今からお前ら全員で俺にかかってこい。
久しぶりに俺が直々に稽古をつけてやる」
「はっ、ありがとうございます」
「稽古ですの?そんなことよりも、もっと気持ちいいことしません?」
「どうせ勝てないし、めんどくさいなあ」
この三人、本当にバラバラなんだな。
真面目なフィアーネ、好色なリゼ、怠慢のエイル、本当に大丈夫なんだろうかと不安になってくる。
「リゼ、俺に勝ったら、1日中、俺のことを好きにしていいぜ。
強い男を虐げるなんて興奮するだろう?
エイル、お前にも俺に勝ったら剣王の座を譲ってやる。
剣王は権力の象徴だ、手に入れることさえできれば、今後の人生やりたい放題だぜ?」
剣王の言葉にその場にいる剣聖の目つきが変わった。
さすが剣王、剣聖たちの扱い方は熟知しているというわけか。
「リアム・ロックハートとサーシャだったか?お前らは見取り稽古だ、俺とこいつらの戦いを目に焼き付けろ」
数分後、目の前には目を疑うような光景が広がっていた。
地面に倒れ込む3人の剣聖、それを見下ろすように仁王立ちの剣王。
剣王の額には汗のひとつもなく、力の差は歴然といったところだろう。
剣王は剣聖たちを睥睨してから、ため息をひとつ。
そして俺へと視線を移した。まるで、わかったかと言わんばかりの表情で。
正直、わかったもなにもあったもんじゃない。
俺にはできない芸当だということは、一目見ればわかる。
七大強王、まさかこれほどとは。
「悲しくなってくるぜ。お前ら、本当に剣聖か?
俺が見てない間、稽古サボってたんじゃねえだろうな。
まあいい、次は5人同時にかかってこい!もちろん真剣で、殺す気でな!」
俺は三剣聖に回復魔法を唱え、準備を整える。そして簡単な作戦会議。
前衛はリゼとサーシャ、稽古を共にしている仲であり、連携も取りやすいだろうということと、乱刃流は超攻撃的な流派。
最前線に配置するのが最適だろう。
中衛はフィアーネとエイル、使える技が多く、状況に応じ攻めにも守りにもなれる。
先陣の2人の攻撃のとどめ役と、ピンチの際の盾役を担うことになる。
後衛は俺が担当することになった。
状況を見つつ、遠距離からの魔法で援護したり、瞬息の太刀でとどめを刺すなどの役割を担うのだ。
「作戦会議は終わったかよ?大変だなあ、小物は。
それじゃ、始めるぜ!」
数分後、俺たちは全員残らず、叩き伏せられた。
ただの一太刀すら剣王に浴びせることもできずに。
薄れゆく意識の中で、剣王が見下ろしながら何かを言っているのが聞こえてきた。
「はあ、期待外れもいいとこだな。
明日から、死ぬほど鍛えてやるから覚悟しろ」
こうして、俺とサーシャは剣王の修行を受けることとなってのである。




