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101話 問題発生

「目が覚めたのね、良かった」


目の前には、心配そうに俺の顔を覗き込むサーシャの顔があった。

首を巡らし周囲を確認すると、どうやら俺はベッドの上にいるらしい。


「いててて」


身体を起こそうとして、全身に痛みが走った。

いまいち状況が把握できない、どうなっているんだ。

なんとかサーシャの手を借り、身体を起こしたところで、部屋の隅にいる女性に気づいた。

彼女はたしか、フィアーネと呼ばれていた剣聖。


そこで俺は状況を把握した。

俺は剣王と立ち合いをして負けた。

意識のない俺を彼女ら門下生が、ここに運び手当てをしてくれたというわけか。


「フィアーネ……さん、ありがとう。

どうやら俺は気を失っていたようだな」


「私のことはフィアーネでいいわ。

今の状況はなんとなく分かる?」


俺は剣王との立ち合いに負け、意識を失い、ここで救護を受けたであろうということを彼女に話した。


俺の話を聞いて彼女は、ため息をひとつ。

そのため息にサーシャは、やや居心地の悪そうな顔をしている。

なんだろう、俺の寝ている間に何かあったのだろうか。


「だいたいは、そんなところね。問題は剣王様との立ち合いの後のことよ」


見る間にサーシャの顔色が悪くなる。

うつむき、肩をすくめ、背中を丸め……身体を縮こまらせて、しゅんとしている。

サーシャの様子を見れば、さすがに何があったかは俺でも察しがつく。

というか、この状況なら、誰でも予想できそうなもんだ。


「サーシャが何か?」


名前を出した瞬間、彼女はビクリと肩を震わせた。


「そうよ、そこにいる子がね、暴れだしたの。

憑き子だということは見ればわかるけど、まさか力の制御ができないなんてね。

連れて歩くなら、力の制御くらいは身に着けさせるべきよ」


力の制御、俺もそれについては考えなかったわけじゃない。

だが、それは長い時間をかけた訓練が必要だと思ったし、旅の中で身に着けられると思っていた。

しかし、そうか。まずは、それを彼女に伝えるべきだったか。


「その件については、すまなかった。俺が甘く考えていたようだ」


そしてフィアーネは、またため息をひとつ。


「彼女が暴れたせいで何人かは戦線離脱、長期療養が必要になったわ。

死人が出なかったのは奇跡というほかないわね。

剣王様がいなかったら、誰も彼女を止められなかったかもしれない」


そうか、死人は出なかったか。

それは俺がサーシャに人を殺すなと教えていたからだろうか。

だとするなら、暴走状態でも理性を保てるようになるまで、そう遠くないかもしれない。


「そうか、サーシャ。暴走状態でも人を殺さなかったのは偉かったぞ」


そう言って頭をなでてやると、彼女は顔を上げ、少しだけ表情を明るくした。


「私だって、やればできるんだから」


彼女はそう言うと誇らしげに胸を張った。

しかし、その後のフィアーネの言葉で、またすぐに下を向いてしまった。


「はあ。あのね、そういう問題じゃないでしょ。

憑き子を力の制御ができない状態で連れ歩いた結果、突然暴走し町民に被害が出る。

そうして、憑き子に対する偏見が生まれたのよ。

分かってるの?」


たしかに言われてみればそうだ。

サーシャがつらい経験をした原因である憑き子という偏見、それは俺たちのような保護者にも責任があるのだ。


「ああ、悪かった。今後はサーシャが力の制御が身に着けられるように、俺も努力していこうと思う」


「その必要はないわ。剣王様からの伝言よ。

リアム・ロックハート、あなたは回復次第、すぐに剣術の稽古に入るわ。

それとサーシャ、あなたは剣術の稽古と並行して、力の制御についての特訓よ」


「ちょっと待ってくれ。サーシャも剣術の稽古をするというのか?」


俺の問いにフィアーネはいぶかしげに首をかしげ、ため息交じりに答えた。


「そうよ、もともとそのつもりで彼女を連れてきたんでしょう?」


俺にそのつもりはなかったんだがな。

ただ、アルセイフの望み通り、ともに旅をすることが彼女を連れだした目的だ。

ここでの修行中は、自由に過ごしてもらうつもりでいたが、力の制御の訓練をしてくれるというなら、願ってもないことかもしれない。


「さっきも言ったけど、彼女は剣王様でなければ止められないほどの潜在能力を秘めているわ。

その力を制御し使いこなせたとき、もしかしたら剣王様も超える力を身に着けるかもしれない。

だから、彼女にも剣術を教え込む。それが剣王様のお考えよ」


なるほど、剣術の稽古は強くなるためでもあり、自分をコントロールする術を身に着けるためのものでもあるというわけか。


「それで、稽古はいつから?」


「今からよ」


そう言うとフィアーネは俺とサーシャを剣王の間まで案内してくれた。


剣王の間には数多くの剣が所狭しと置かれていた。

その奥、横たわるようにしてこちらに視線を送っている者がいる、剣王のギルトール。

彼は俺たちを確認すると身体を起こした。


「やっと来たか。手加減してやったってのに2日も寝込みやがって、この貧弱野郎が。

まあいい、今日から剣術の稽古をつけてやる。

といっても、いきなり俺が稽古をつけると死んじまうだろうから、まずはフィアーネから基礎を学べ。

その後は、残りの剣聖から極意を学びつつ、俺のいる位置まで上がってこい」


残りの剣聖……剣聖はフィアーネ以外にもいるということか。


「じゃあ、そういうことだ、フィアーネ。あとはお前に任せる。

俺は例の件の始末をつけに行ってくる」


「例の件とは?」


とっさに声が出てしまった。

俺の問いに剣王は険しい表情のまま鋭い視線を向けてきた。

しまった、失言だったか。


「ここに保管してあった魔道具が盗まれた。

その件で七大強王全員に招集がかかっている」


そう言うと、剣王は静かにその場をあとにした。

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