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100話 大賢者と剣王の差

剣客島、大練武場。

そこに、1人の剣王とその門下生たち、そしてリアムとサーシャの姿があった。


剣王ギルトールは、リアムと門下生ドグルに立ち合いを指示した。


まずはお手並み拝見といこうか。

もし、本当に剣錬街道を通って、ここまで来たというなら、すでにその力は剣豪クラス。

いや、大賢者というだけあって魔法も多用したんだろう。

となると、せいぜい師範クラスといったところか。


まあ、ドグルは鋭刃流の上級剣士だ。

その程度の相手に苦戦するようなら、俺が剣を教えるまでもなく、ここにいるやつらに島を追い出されて終わりだろうな。


と、ギルトールは考えていた。


2人は正面で向かい合い、互いに木剣を構えた。


「ルールは特にねえ!自分の剣術で相手を黙らせろ!

それじゃいくぜ、はじめ!」


ギルトールの掛け声とともに両者が動き、そして決着は一瞬だった。

木剣を振り上げたドグルに対し、リアムは最小限の動きで横薙ぎに一閃。

急所を打ち抜かれたドグルは卒倒した。


さすがに相手にならねえか、まあ、それもそうだろう。

仕方ねえ、俺が直々に相手を……っと。


そんなことを考えながらギルトールが、立ち上がろうとした瞬間、1人の女が中央へと歩み出る。


「剣王様、次は私にやらせてください。彼には個人的に聞きたいこともありますので」


「フィアーネか、まあいいだろう。

おい、大賢者様!次の相手は剣聖だ、本気でやらねえとケガするぜ!

そんじゃ、いくぜ!はじめ!」


掛け声とともに構えて制止する両者、しかし、ふと、フィアーネが口を開いた。


「ひとつ聞かせて。あなたの持っている剣、2本ともあなたの物?」


「ああ、どちらも貰い物だがな。2本とも俺の大事な剣だ」


「そう、元の持ち主は元気?アルクは立派な剣士になりたいと言っていたから、彼がその剣を人に譲るとは思えないのだけど……」


フィアーネの言葉にリアムは表情を曇らせた。

そして小さくつぶやくように答えた。


「この剣は、彼の形見だ……」


「そう、それは残念ね」


フィアーネから殺気が放たれる。

と同時に、一瞬だけ彼女の姿が視界から消えた。


これは瞬息の太刀、鋭刃流の剣豪クラス以上の実力者であれば誰でも使うことができる奥義の1つ。

通常の剣士では避けることはおろか、受けることもできない技だ。

この勝負、終わったな。


ここにいる多くの者たちが、そう思うなか、そうは思っていない者が数名いた。

剣王ギルトール、瞬息の太刀を放った剣聖フィアーネ、瞬息の太刀を受けることができたリアム、そしてなぜか自慢げにこの立ち合いを眺めているサーシャだ。


そう、リアムは剣聖フィアーネの放つ瞬息の太刀を受けることができたのだ。

これにはフィアーネはもちろん、ギルトールですら目を見開いた。


瞬息の太刀は、相手の視界から一瞬、自分の姿が消えるほどの速度で放たれる技。

剣聖ともなれば、予備動作など皆無。

それはつまり、予測や反射神経などでは、ほぼ防ぐことができないということ。

防ぐことができるとすれば、それは、実力が上であるということに他ならない。


「チィ」


フィアーネが再度、木剣を構えたところで、ギルトールが動いた。


「終わりだ、フィアーネ。

瞬息の太刀を止められた時点で、結果は見えてる。

まだまだ修行が足りねえな」


「しかし、私にはまだ……」


「終わりだ、下がれ」


ギルトールの視線と言葉にフィアーネは顔を伏せた。

そして一礼をすると、門下生たちの中に消えていった。


「お前の力を見くびっていたようだ、剣錬街道を通ってっていうのも、あながち嘘じゃねえらしい。

それと、お前、瞬息の太刀を見るのは初めてじゃねえな?師は誰だ?」


「師匠といえるかは分からないが、瞬息の太刀を教えてもらったのはアルクという青年だ。

アルク・レインジーク、俺の友であり、そして恩人だった男だ」


「ほう、アルク・レインジーク……ね。

たしか、フィアーネと同郷だった天才剣士だったか。

まあいい、ここからは俺が相手をしてやる」


剣王ギルトールは2本の木剣を手に構えた。

それを見て、リアムも木剣を握る手に力を込めた。


両者同時に動いた。

そして轟音とともに大練武場の壁が破壊された。


その場にいる者たちの目には、中央で隙だらけに立っている剣王ギルトールの姿しか映っていない。

呆気にとられる者、あざ笑うような笑みを浮かべる者、目を見開き息をのむ者、それらすべての者の視線が、破壊された壁に向けられた時、その青年はゆっくりと姿を現した。


つい今しがた、剣王様と対峙していた青年は、口から血を流し、ほこりまみれになりながらも、根元からボッキリと折れた木剣を手に大練武場に帰還した。



《リアムside》


まだ、目の前が揺れている。かろうじて大練武場に戻っては来たが、ダメージも大きい。

俺はいったい何をされたんだ?全く見えなかった。


あの時、俺は瞬息の太刀を放った。

やつも同様に動き、一撃目を相殺。その後の二撃目を瞬息の太刀の歩法で躱し、やつの背後を取った。


目の前のあいつは、二撃目を振り終えたばかりで迎撃態勢は取れていない。

ガラ空きの背中、そこに俺の一撃が入るはずだった。

だが、木剣を振った瞬間、やつの鋭い目がこちらを向いた。

そして気づいたら、この様だ。


おそらくは、やつのカウンターを食らったんだろう、それはわかる。

だが、どこからの攻撃かまでは見えなかった……クソッ、どうする。


「驚いたな、瞬息の太刀を使えるどころか、天脚まで使えるとはよ。

それもアルク・レインジークに教わったものか?

だとしたら、お前たちは本物の天才だったってわけだ」


あざ笑うようなギルトールの声が、頭の中で反響している。

まだ、回復しない、それほどの一撃だった。


「瞬息の太刀はアルクに教わったものだ。しかし、天脚というのは聞いたことがないが?」


自分に回復魔法を唱え、なんとか大練武場の中央に戻ってきた。

そんな俺を見てか、周囲の門下生たちがざわめきだした。


「天脚は瞬息の太刀の歩法を応用した移動術だ。知らないってことは我流か。

なるほど、フィアーネが勝てねえわけだ」


そう言いながら高笑いをするギルトール。

周囲の者はまだ、ざわついている。

なるほど、この歩法は高等技術だったというわけか。

まあ、足に負担がかかりすぎて、相手の背後を取るくらいしかできないんだがな。


「フィアーネ、2本だ!よこせ!」


ギルトールの言葉で木剣が2本、中央に投げ込まれる。

彼はそれを受け取り、1本を俺に放り投げてきた。


「もう一度だ、今度は俺も少し本気を出してやる。

お前も本気で来い、死にたくなけれりゃあな」


明らかに先ほどよりも威圧感が増している。

俺も全神経を集中する。


瞬息の太刀は見てからでは反応できない。

なら、先手だ。

俺の瞬息の太刀は通用しない、だが、剣術でやつにダメージを与えることができるとしたら、やはり瞬息の太刀しかない。


最大威力を、最小限の動きで、最速で。


俺は渾身の瞬息の太刀を剣王ギルトールへ向けて放った。

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