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98話 困難な旅路

もう何時間、歩いているのだろう。

見渡す限りの砂、砂、砂、砂丘、そして砂丘を越えるとまた広がる砂。

終わりの見えない砂漠地帯、あまりの気温に目の前が揺れている。

いったい、いつ終わるんだ……この砂漠。



洞窟を抜けた俺たちが見たものは、辺り一面の海だった。

その前方に島が見えるが橋がない、移動する手段がなかったのだ。

ひとまず俺たちは、周囲に警戒しつつ、食事と休息を取った。


わずかばかりの休息。極限まで消耗した身体には気休め程度の時間しか休めなかったが、それだけでもありがたかった。

俺はともかく、サーシャの消耗が激しい。

洞窟を出てからもガタガタと体を震わせている彼女を抱き寄せ、火を起こし、食事を与える。


そうして、数時間が経過して、彼女も落ち着きを取り戻した頃、目の前の海が割れた。

突如として前方の島への道ができたのだ。


そうか、干潮の時間になると道ができるのか。

つまり、今渡らなければ、半日いや最悪1日はこの場に留まらなければならなくなる。

しかし、サーシャをこのまま連れて行っても大丈夫なのか。

たとえ、1日足止めを食らったとしても、彼女の回復を待つべきではないか。


迷っていると、彼女と目が合う。

身体は弱っているが、彼女の瞳にはまだ光が宿り、力強い視線を俺に送ってきている。


「あたしなら大丈夫よ、さっさと行きましょう。また道が無くなっちゃうわよ」


「それもそうだが、体調の方は大丈夫なのか?」


「平気よ。それにあたしに何かあれば、助けてくれるのよね?」


「それは、もちろんそのつもりだが……」


「それなら問題ないわ、行きましょう」


彼女は立ち上がり、荷物をまとめ歩き出した。


そしてたどり着いた島は、灼熱の砂漠地帯だった。

極寒地帯から見えた緑の木々は、蜃気楼によるもので、実際は砂しかない。

見渡す限りの砂、振り返るとすでに蜃気楼で、先ほどの豪雪地帯の山々も目視できない。


俺たちは、その砂漠をまっすぐに歩き続けた。

そして現在に至るのだ。


幸いにも、俺は魔法で水を生成することはできる。水さえあれば脱水症状は回避できる。

しかし、終わりが見えないことによる精神的疲労は計り知れない。


問題はそれだけじゃない、方角も問題だ。

歩き始めて数時間、太陽の向きが変わっているようには見えない。

これでは正確な方角が分からない。

やみくもに歩き回っても体力を消耗するだけだ、どうする……。


俺たちは一度足を止め、土魔法でドーム状の日陰を作り、そこで休憩を取ることにした。

サーシャに水分を取らせ、少し横になるように促す。

そして、気休めかもしれないが彼女にケアリングを唱える。

少し顔色が良くなったようにも感じるが、根本的な解決にはならない。


とにかくまずは、この砂漠地帯を抜けることが最優先だ。

せめて、方角と終わりが見えれば……。

俺はそこでひらめいた。


彼女を残しドームを出る、イメージはエアーロードの応用だ。

自分の周囲の空気の流れを魔法で制御、自分の体を天高く持ち上げる。

できた、俺は上空から島の全貌を確認することができた。


それによると方角は問題ない、距離も残り半分といったところだ。

残る問題はサーシャの体力が持つかどうか、いや、それも魔法でどうにかできるかもしれない。


俺は横になって休んでいるサーシャにそれを伝え、氷魔法と風魔法を組み合わせ、彼女の周りに冷気の風を発生させた。

その後は、順調に歩き進め、無事に島の出口にたどり着く。


島の出口は先ほどと同じく、一面が海だった。

先ほどの豪雪地帯を抜けるときもそうだったが、島の出口の気候は安定しており、身体を休めるにはちょうどいい。


俺はそこで、ある判断をする。


「サーシャ、ここで1日野営をして、明日、体力が十分回復してから次の島に渡ることにする」


俺の意見に彼女は不満そうな視線を向けてきた。

自分なら大丈夫だ、心配いらない、そう言いたげな視線だ。

彼女としても、自分のせいで思うように旅が進んでいないということに申し訳ない気持ちもあるのだろう。

だが、俺にしてみれば旅の工程よりも彼女の体調を優先したい。


「私なら大丈夫よ」


「そうか、だが俺も少し疲れてしまったんだ。俺のためにも今日はここで野営をしよう」


その申し出に彼女はうつむいたまま、静かにうなずくのみで、文句を言うことはしなかった。


翌日、干潮の時間に次の島に渡った。

1日休息を取ることで、俺はもちろんサーシャも、だいぶ回復したように見える。

ひとまず安心だな。


砂漠地帯の次の島は、密林地帯といった感じの森と湿地帯が続いていた。

今までの島と違うことといえば、それは魔物の数だろう。

島に入った瞬間から、幾度となく魔物との戦闘を繰り返している。

しかも、強力な魔物が多く、ギルドでいうところのAランク以上の魔物しかいない。


普段であれば問題ない相手なのだが、この森はどうやら魔力を吸収するらしい。

魔法を使おうとすると、魔力が乱され、それでも無理に使うと通常では考えられないほどの魔力を消費する。


しかし、ここで力を発揮したのはサーシャだった。

彼女は、率先して魔物に戦いを挑み、その数を減らしてくれている。

俺も魔物を倒すことはできるのだが、やはり単純な剣技だけでいえば頼りないと言わざるを得ない。


「ありがとう、サーシャ。助かるよ」


俺の言葉に彼女は、満面の笑みで胸を張った。

まるで、今までの不甲斐ない自分を挽回するかのように。

その後も、昼夜問わず襲い掛かってくる魔物を退けつつ、俺たちは密林地帯を突き進む。


そしてようやくたどり着いた。

カルテリオを出発してから1か月ほどだろうか。

目の前に広がる海の向こう、大きな門の先に見える街並み。


あれが世界の剣士が目指す場所であり、剣術の生まれた地とされる剣客島である。

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