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93話 勇敢と無謀

「七大強王と魔道具についてだと?」


バルスは小さく眉を動かした。


「そうだ。

魔道具を捜索してほしいと言われて、その依頼は受けたが、正直、魔道具という物がどういう物かが、まだ把握できていないんだ。

それと七大強王についても、俺には分からないことが多い」


バルスは杯に残った酒は、一気に飲み干した。

そして大きく息を吐いてから、まっすぐにこちらを見た。


「七大強王というのは、この世界の秩序を保つための存在。

力の象徴ともいえる7人のことだ。

普段は何もしないが、有事の際には協力し、世界の安定に努めるんだ」


なるほど、世界の均衡を保つための存在か。

…いや、それはおかしくないか。七大強王の中には魔王も含まれているはずだ。

やつは人間を亡ぼすために、戦争を起こそうとしていた。

均衡を保つこととは真逆のことをしようとしているのではないか。


「待ってくれ、バルス。

世界の秩序を守ると言ったが、魔王は人間を滅ぼそうとしていたぞ?

魔王も七大強王に名を連ねる者だ、だとしたら、人間を亡ぼすことが世界の秩序を保つことにつながるというのか?」


「いや、それは違う。

魔王は本来、竜王・狼王・蛇王と協力し、魔族や魔獣族を統治するはずの存在だ。

それが、どういうわけか、裏切り、反乱を起こしたんだ」


「……」


「本来なら、竜王や狼王、蛇王などの協力も得られるはずだったんだが、そちらにも魔王の手の者が何か仕掛けていたようだ」


「…では、魔道具については?」


「魔道具については俺も詳しくはないが、魔道具を手にすることで邪悪な力を得ることができ、時には人知を超える力をも手に入れることができると言われている。

あとは、そうだな。これは本当のことなのか、単に噂としての話かはわからんが、魔道具を集めることで、魔王を復活させられると言われている。

その際の所持している魔道具の数に応じて、復活する魔王の力が決まるのだとか」


「……」


「魔道具については研究が進められていたこともあり、我々がその所在を把握していたものも少なくない。

ただ、魔道具の研究についてはナイルトンが主導で行っていた…」


バルスは、そこで言葉を切り、新たに運ばれてきた酒を胃に流し込む。

ここまで彼の話を聞いて、俺の疑問が解消されることはなかった。

そもそも、俺の望むような情報は何もないのだ。

何も知らない冒険者であれば、有益な情報かもしれないが、バルスの話は特に目新しい情報ではない。


どうする、ここで冊子の内容を話して、情報を聞き出すか。

いや、だが、その冊子も今では手元にはないし、内容によっては俺がバルスに疑われる可能性すらある。


ここは慎重に探りを入れてみるか。


「仮にだが、七大強王の中の誰かが魔王と手を組んでいた…ということはないか?」


その言葉にバルスは手にしていた杯をテーブルに置き、いぶかしげな視線を送ってきた。


「…なぜ、そう思う?」


バルスの声色が低くなった気がした。

表情を見るに何か知っているというわけではなさそうだが、やはり疑われてしまったか。


「今の話だが、魔王がこちらに攻め込んできた際、七大強王がほとんど動きを見せていないというのは、おかしくないか?

俺の聞いた話では、竜王は七大強王の中でも別格。

やつが動いてくれてさえいれば、もっと楽に魔王を倒せたはずだ」


「まあ、お前の言おうとしていることは分からんでもない。

だが、やつらとて何も考えてないわけではないはずだ。

さっきも言ったが、魔王が配下を差し向け、妨害していた可能性もある」


何も考えていないわけではない…ということは、何か意図があって手を出さなかったという可能性もあるのか。

それがつまりは、魔王と手を組んでいたということにもつながりそうなもんだが。


「それと気になるのは、蛇王が襲撃されたという話だ。

その犯人はジルガだという話だが、俺は、やつと少し前に刃を交えている。

そのときの印象としては、とても七大強王と渡り合えるとは思えない。

何者かが裏で糸を引いている可能性はないだろうか?」


バルスは腕を組み、難しい顔のまましばらく考え込む仕草をした。


「それは分からん。そもそも、なぜジルガが魔道具を集めているのかも分からんしな。

しかし、何者かが裏で暗躍している可能性か…可能性としてはあり得るな。

しかも、蛇王を襲撃できるほどの力を持っているジルガをコントロールするような相手だ、相当の手練れと考えておいた方がいいだろう」


となると、やはり裏で糸を引いているのは竜王か…。


「俺はそいつに勝てるだろうか?」


俺の言葉にバルスは目を見開いた。

そして、ふっと小さく笑ってから杯を傾ける。


「シーティアのときのお前は自信の塊にしか見えなかったが、お前ほどの力を持っていても、やはりナーバスになるんだな」


「ああ、たしかに以前より力はつけたつもりだ。

昔とは比べ物にならないくらいの強さにはなっていると思う。

だが、それでも俺は海底迷宮で仲間の1人を失ってしまった…そんな俺が七大強王と同程度の強さの者を倒せるのか…」


「……」


バルスは静かに杯を傾けながら、話を聞いていた。


「いや、すまない。

倒せるかどうかではないな、倒さなければならないんだ。

俺は王国指名冒険者で、魔王殺しの大賢者だからな」


そう言って、顔を上げたとき、バルスは俺の予想もしない反応を返してきた。


「良いかリアム、勇敢と無謀は違う。

勝てる見込みのない相手に立ち向かうことを俺は勇敢とは思わん、それはただの無謀だ。

ギルド長をしているとな、そういうやつが死んでいくところを何度も見る、何度もだ」


「……」


「だがな、リアム、勝てる見込みがないのなら、勝てるだけの力をつければいいんだ。

お前にはそれができる、俺はそう思っているぞ」


…勝てるだけの力をつけろ、か。

たしかに、俺にもう少し剣の腕があれば、魔法を使えない状況下で戦う術を持っていれば、アルクを失わずに済んだのかもしれない。


……ならば力をつけよう、もう誰も失わないように。

そのためには修行だ、しかし、どうする。自分だけでは限界がある、何かいい案は…。

そのとき、ふと、昔の記憶が呼び起こされる。

魔王に殺されかけたときに見た夢の中で聞いた父の言葉を。


「剣術の修行で行き詰まったら、東の国ライラックに行きアルセイフを探せ。俺の名前を出せば、イヤな顔はするだろうが力は貸してくれるはずだ」

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