表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/134

92話 帰還報告

俺たちはキーウッドをあとにし、王都アステラに戻ってきた。

目的は1つ、今後の行き先や方針についてを決定するためだ。


海底迷宮から帰還した際に立ち寄ったときには、俺の精神状態も不安定だったし、そういったことは一切考えていなかった。

だから、まずは情報収集からだ。


俺たちは国王と謁見した。

国王は言った。


「魔道具の所在は、すべて把握できた。

もう、魔道具を捜索する必要はない」


正直驚いた。

魔道具を探し出せと言われてから、まだそれほど時間は経っていない。


たとえ、複数の魔道具がジルガの手元にあると言っても、世界に散らばる残りの魔道具をこうもあっさり見つけ出すとは。

さすが、世界の最高権力である七大強王というべきか。


「では、もう俺たちに取り急ぎの任務はないということで、よろしいですか?」


国王はあごに手をやり考える。

少しして、苦い顔のまま話し始める。


「いや、どうもこのままこの問題が解決するようにも思えんのだ」


「と、言いますと?」


「うむ、実は七大強王の1人、蛇王が襲撃を受けた。

大事には至っていないが、その際、所持していた魔道具を奪われたらしいのだ」


七大強王は世界最高権力を有する七人、そのうち蛇王は戦力的に上位3位に数えられる者。

その者から魔道具を奪うとなると、相当の実力者ということになる。

いったい誰が…。


「襲撃をかけた者は、元勇者ジルガ・トランジェッタだそうだ」


俺は耳を疑った。

襲撃の犯人がジルガだと…つい先日、刃を交えたときには、まだ俺の方が実力は上のように感じた。

そのジルガが、七大強王の一角、蛇王から魔道具を奪い去るとは。


このたった数か月のうちに、やつはそこまで力をつけていたのか。

いや、あの時…俺と刃を交えたあの時に奪い去った魔道具による力の上昇か。

だとするならば、これ以上やつの手に魔道具が渡るのは危険だ。

あと1つでも、やつが魔道具の力を得れば、俺はおろか七大強王でも不覚を取りかねない。


しかし、竜王ならという思いもある。

七大強王の中でも特に別格の強さを持つ最強の存在。

彼ならあるいはジルガを止めることができるかもしれない。


俺はそこまで考えて、あることを思い返した。

昔、謎の男から渡され、ジルガとの戦闘により無くしてしまった物。

それには、こう記述されていた。


[どうやらジルガは、竜王に操られていたらしい。いつしか、竜王が俺の憎しみの対象になっていた。]


つまり、ジルガの行動は竜王の指示である可能性が高い。

何らかの術を使用し、ジルガに力を与えつつ、魔道具を集めさせ、自分は陰で目的のために動いているということか。

となると、竜王を倒すことで、もしかしたらジルガも元に戻るかもしれない。


しかし、倒せるのか…七大強王の中の最強の男に、今の俺が。


俺が黙り込んでいると国王は重たい口を開いた。


「今のところ、おぬしに急ぎの依頼はない。

しかし、この事態だ。ここもいつ襲撃を受けるかわからん。

おぬしには、いつでも動けるように準備だけはしていてほしい」


「わかりました。私としても思うところがありますので、少し時間をいただきたい。

今後の予定が決まり次第、また報告に来ます」


俺たちは王宮をあとにし、リリアのもとを訪ねた。

そこで、帰還報告を済ませた後、ルーナとソフィリアには待機してもらい、俺は1人町に出た。

王都に来たならば、会わなければならない男がいる。


俺は冒険者ギルドに入り、その男の名を受付の女性に伝えた。


ガンッ


俺と男の座るテーブルに注文した酒が運ばれてくる。

ここは冒険者ギルドから少し離れた商業区にある酒場、俺と男は向かい合うように座っている。

男は、運ばれてきたばかりの酒を一口で半分ほど飲み干して、満足気な表情で豪快に笑った。


「まさか、こうしてお前と酒を酌み交わす日が来るとは思わなかったぜ。

なあ、たいまつ君」


王都アステラに存在するギルドの長、バルス。

こいつは、今でも俺のことをたいまつ君と呼ぶ、数少ない人間。

本来なら不快感を覚えるところだし、ルーナがいれば殺気を放つだろうが、俺はこいつが親しみを込めて、その名を口にしていることを知っている。

だから、そこまでの不快感は感じない、むしろ友人と冗談を言い合っているような感覚だ。


「その名を呼ぶ人間も、もうほとんどいなくなったんだがな」


そう言いながら、杯を傾ける。


「ガハハハッ、冗談だよ、リアム。

それで今日は、どうした?わざわざ酒の席まで用意してくれてよ。

やっと俺の偉大さに気づいたってわけか?」


バルスはいつになく上機嫌だ。

こいつ、まさか酒乱…いや、単に笑い上戸なだけか。


「まあ、そんなところだ。

それと、海底迷宮から帰還した報告と、その礼がまだだったなと思ってな」


「なるほどな、律儀なやつだ。

だが、あのバッカスってやつのことは気にする必要はねえぞ。

あいつら、魔大陸で盗賊まがいな真似をして物資を手に入れてたらしくてな、魔大陸を縄張りとする冒険者たちに狩られちまったよ…こっちにあった拠点ごとな」


つまりは、バッカスに支払う分の報酬は必要なくなったというわけか。

やつには借りがあるが、まあ、仕方がないことだな。


「そうか、それならこれはあんたに渡しておこう」


俺はそう言うと、小さな麻袋をテーブルの上に置いた。

バルスは、その袋の中を見て目を見開いた。


「おいおい、スゲーなこりゃ。こんな質の良い魔石、見たことねえぞ。

これ、俺にくれるのか?売れば、しばらくは遊んで暮らせる分の金にはなりそうだが」


「ああ、バッカスとの渡りをつけたときの礼だ。

海底迷宮は魔力濃度が濃いのに、俺たちの魔力消費量が多かった。

きっと、周囲の魔石が俺たちの魔力を吸収していたんだろう。

おかげで質の良い魔石が多く手に入った。

俺たちの分は、ちゃんとあるから、遠慮しないで受け取ってくれ」


「おおー、お前は何て良いやつなんだ。

ありがとう、たいまつ君、ありがとう、ありがとう」


バルスは俺の手を握り、ブンブンと上下にその手を降りながら涙を流して喜んでいる。

今度は、泣き上戸か。正直、少し面倒くささを感じる

バルスと酒を飲むのは、今後は控えることにしよう。


そんなことを考えていた時、急にバルスが真剣な顔に戻った。


「それで、話はそれだけじゃねえんだろう?」


その切り替えの早さに呆気にとられること数秒。

俺はハッと我に返り、静かに話し始めた。


「バルス、あんたに聞きたいことがある。

七大強王と魔道具についてだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ