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91話 蛇王VS元勇者

《イゴールside》

俺たちはジルガとザイドリッツが主体となって、魔道具を捜索するため各地を転々と旅している。

現在は、アールステラトーン大陸南部の森を通過している。


今のところ、俺たちの手元には魔道具が3つ。

ザイドリッツの話では、魔大陸と中央大陸の間の海域に存在するという海底迷宮、魔大陸南部の砂漠地帯にある神殿、剣客島の大練武場…この3か所に残りの魔道具があるという。


しかし、情報によると海底迷宮の魔道具はリアムにより回収され、王都アステラに持ち帰られたと言われている。

さらに、剣客島の魔道具は剣王が、魔大陸にあった魔道具は蛇王がそれぞれ所持しているとザイドリッツは話していた。


やつは、パーティーで行動しているにもかかわらず、突然いなくなり、しばらくすると戻ってくる。

そして戻ってきたときには、必要な情報を集めているのだ。


どこからそんな情報を入手しているのかと疑問に思うところではあるが、ジルガとザイドリッツのやり取りに口をはさんで、ジルガの機嫌を損ねでもしたら、斬り殺されかねない。

それならば、何も考えず2人についていけばいい。

俺に利用価値がある限り、殺されることはないのだから。


さて、なぜ今、その3か所から遠く離れたアールステラトーン大陸南部の森を移動しているかというと、ここを魔道具を所持した蛇王が通るという情報を得たからだ。

そのため、俺たちはこの深い森を何時間も徒歩で移動している。


この世界には大森林と呼ばれる場所が3か所ある。

1つは、獣人の国ガルガルのある獣化の森。1つは、中央大陸東部にある深緑の森。

そして最期の1つがここ、黄泉の森だ。


なぜこの場所を蛇王が通るのか、なぜそれをザイドリッツが知っているのか、そのことについてはジルガは気にしない。

やつは魔道具を手に入れ、その力を使い、自分の手でリアムを倒すことしか頭にないのだ。


昔のやつであれば、魔道具なんかに頼ることなく、自分の腕を磨こうとしたかもしれない。

しかし、やつは変わった。勇者と呼ばれていた頃の面影などまるでない。

それもこれも、すべてザイドリッツが現れてからだ……ということは、真に止めるべきはジルガではなく、ザイドリッツの企みなのではないか……。


「ザイドリッツ、あいつか?」


俺の考えはジルガの言葉によって霧散した。

俺たちの歩く先にその男は姿を現した。

その男は、かなり猫背で両手をブラブラとさせ気怠そうに歩いている。

男の深緑色の髪は、この森の色と同化し自然とその体をカモフラージュしているようだった。


ジルガは男の行く手を阻むように立ち止まる。

男もそれに気づき、視線をこちらに向けた。


「おんやー、俺の行く手を阻むとは、いい度胸してんなぁ。

俺になんか用かい?」


「お前が蛇王だな?」


ジルガの問いに男は眉をひそめたが、ジルガの持つ剣を見て、その目つきを変えた。


「そうか、おめえが魔道具を集めてるっていう元勇者様ってわけか。

それで、俺の持つ魔道具を奪おうってんだな?

だがなぁ、そう簡単に渡すわけにもいかねえなぁ」


「なら、殺して奪うまでだ!」


ジルガは魔剣を手に走り出す。

一瞬にして蛇王との距離を詰め、自分の剣の間合いに捉える。

狙いすました一撃が、蛇王の首をめがけて放たれる。


ガキィン


乾いた音が森の中に響き渡った。



《ジルガside》


さすが蛇王というべきか、ここまで俺と剣を交えられるのリアムぐらいだと思っていたんだがな。

要所要所でうまく俺さまの攻撃をいなしやがる。


「どうしたよ、蛇王、そんなもんか!?」


挑発とともに斬撃を放つ。

やつはそれを右手の短剣で受け、同時に左の短剣を振ってくる。

俺さまは強引に剣を振り抜く。


衝撃ではじかれた蛇王へ追撃を仕掛けようとした瞬間、蛇王の口から何かが飛んできた。

とっさに左腕で受けるが、飛んできたものは細く鋭い針だった。

針を抜き取ると同時に目の前が揺れる、これは…毒か!


「ダスティン、解毒薬だ!」


俺さまの声に反応し、ダスティンが俺に向かって解毒薬を投げる。

数種類の薬草に、その薬草を乾燥させた物と煮だした出がらし、これらを団子状に丸めた特製の解毒薬だ。


俺さまは受け取るとすぐに傷口に擦りつけ、少しだけ口に含む。

目の前の揺れは止まり、視界がクリアになる。


「へえ、ずいぶんと良い解毒剤を持ってやがんだなあ。

魔道具に頼ってるだけかと思ってたが、お前を甘く見てたみてぇだ」


蛇王の雰囲気が変わった。

もともと両手の短剣を使用しながらの変則的な攻撃が多かったが、どうやらここからが本番ってところか。


俺さまの剣を握る手にも力が入る。

次の瞬間、蛇王の周りに黒い霧が立ち込める。

その霧に溶け込むように、蛇王の姿が俺さまの視界から消えていく。


チッ、ここにきてふざけたマネしやがる。

俺さまは耳を澄まし、周囲を警戒する。

この濃霧の中、目視で敵を発見するのは困難だ。

それなら、物音や気配でやつの居場所を探ってやる。


上!

瞬時に一歩後退し、迎撃態勢を取る。

しかし、降ってきたのは、もともとやつが持っていた短剣よりもさらに小さい短剣だった。


俺さまはその短剣を中空にて剣ではじいた。

その瞬間、背後に寒気を感じて、転がるように前方に回避行動を取る。


ブウンという音を立て、俺さまがいた場所を何かが通過する。

そこには、剣を振り終えた姿勢の蛇王がいた。

俺さまは、すぐさま体勢を立て直し、やつに向かって剣を突き出す。


しかし、やつは再び霧に溶け込み、俺さまの斬撃は空を切った。


チッ、らちが明かねえ。

そう思った時、頭の中に声が流れ込んでくる。

最近、あまり聞かなくなったあの声だ。


『何を恐れる?やつの仕掛けてくる攻撃など気にせず、やつを斬れ。

覚えておけ、きさまが負ければ、我はきさまの身体を乗っ取ってやるぞ。

それがイヤなら、敵を斬れ、殺せ。

その手でリアムを殺したくば、それまで誰にも負けぬことだ』


チッ、久しぶりに聞こえてきたと思ったら、偉そうに。

俺さまが負けるわけはねえんだよ。

やつの攻撃を気にするなだと、上等じゃねえか、受けてやるよ。


俺さまは構えを解き、剣を持つ手をだらりと下げた。

背後から飛来する短剣を避けることなく、その身に受ける。

次の瞬間、俺さまの正面から蛇王が短剣を振り下ろしてくる。


ギリギリ急所を外し、その攻撃を身体に受ける。

同時にやつの腕をつかむことに成功した。


「なっ、なに!?」


「やっと捕まえたぜ、くそ野郎が」


驚きの声を上げる蛇王に向かい、俺さまは拳を振り抜いた。

腕をつかんでいるこの距離は、剣の間合いではないからだ。

俺さまの拳により後方に吹き飛ぶ蛇王に向け、ザイドリッツが何かの魔法を詠唱する。


次の瞬間、蛇王は中空でその動きを止め、ピクリとも動かなくなった。

それと同時に何かが蛇王の周りを高速で動いた。

俺さまは剣を手に、やつに歩み寄る。

この剣で、やつの首をはねるのだ。


しかし、後方のザイドリッツの判断は早かった。


「ジルガさん、目的は達成しました。いったん退きますよ!」


「なんだと!?あと少しでこいつにとどめをさせ……る…」


ザイドリッツに抗議する俺の背筋を悪寒が駆け上がってくる。

俺の後方、振り返ると、やつは今までにないほど邪悪な顔をして笑っていた。


「久しぶりだぁ、全力を出すのはよぉ。

お前ら、1人も生かして帰さねえから覚悟しとけよぉ」


そう言いながら、蛇王はその姿を変貌させていく。

上半身は巨大に、下半身は大蛇のそれに変貌していく。

なんだ、こいつは…。


「ジルガ、急げ!撤退だ!」


呆気にとられる俺さまの腕をイゴールが強く引いた。

同時に足元から煙のようなものが立ち込める。

次の瞬間、目の前の蛇王は姿を消していた。

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