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10話 コカトリス討伐

「グギャアアアア」


下の階層からコカトリスと思われる大型の魔物の鳴き声が聞こえる。

俺たちはゴーレムとガーゴイルを倒し、コカトリスの待つ最下層へ向かう階段を降りていく。


生臭いにおいがあたりに充満する、思わず鼻を手で覆う。

階段の踊り場から様子を見ると、いた!

鳥の頭と足、ドラゴンの体、蛇のしっぽ…コカトリスだ。

どうやら食事中のようだ。


「あれは、ビッグワームか。コカトリスが食事に夢中ならば、先手を打って一気に決めるぞ」


俺とルーナは、物陰から攻撃のタイミングを見計らう。

意を決して飛び出そうとした瞬間、俺は反射的にルーナを物陰に押し戻した。

横から、もう一体のコカトリスが姿を現したのだ。


そんなことがあり得るのか。コカトリスが2体だと!?

コカトリスほどの強力な大型の魔物が群れを成すなど聞いたことがない。

しかも、なんだか様子がおかしい。


「グガアアアアア」「ギギャアアアア」

ドガーン、ドゴーン


2頭のコカトリスは、互いの存在に気づくなり、互いに攻撃をし始めた。

まるで、縄張り争いをするかのように。

だが、おかしい。

縄張り争いにしたって、ここは洞窟の中だぞ!?

そもそも、こんな閉鎖的なところにコカトリスが2体も自然発生するとは…。


「ゴガアアアア」

ズズーン


どうやら勝負あったようだ、よし!俺たちでもう1体を倒して帰還する。

…ん?おいおい、共食いだと。

コカトリスが2体も自然発生し、決闘の末に共食いなんて、聞いたこともない。


「ルーナ、どう思う?」


ルーナも目を丸くして、その光景を眺めていた。

そして首をかしげる。


「リアム様がわからないことは、私にもわかりません。ですが、たしかに異常です。見てください。コカトリスの傷が、みるみるうちに回復していきます。通常コカトリスに自己再生能力はありません、回復するにしても何日もかかるはず。それが、こんな一瞬で」


ルーナの言うとおりだ、見たことがないことばかり起きる。

ゴーレムやガーゴイルといい、こいつらの異常性といい、常軌を逸している。

どうなっているんだ、わからない。


「ルーナ、鑑定眼を使ってみてくれ。やつになにか異常はないか」


「……そんな…魔力がどんどん強くなっています、それに体も大きく」


たしかに先ほどよりも体がひとまわり大きくなっている。

これは、捕食によるものか。あるいは…。

俺はあごに手をやり考え込んでいたが、コカトリスの放つ異臭にルーナは鼻を押さえ後ずさりする。


カツン、カランコロン


「あっ、石が!すみません」


「ゴアアアアア!!!!!」


ルーナの立てた音にコカトリスが反応し、雄たけびをあげる。

当然だ、部外者に食事を邪魔されたら、誰でも怒る、無理はない。


「ルーナ、そこにいろ。空間魔法展開、エアリアルウォール!」


俺は物陰から飛び出すと同時にルーナの周囲に防御魔法を張る。


「空間魔法展開、ダイヤモンドダスト!エアースラッシュ!」


コカトリスの周囲に氷の結晶を出現させ、氷漬けにすると同時に大気の刃がコカトリスを切り刻む。


「グエエエエ」


コカトリスは強引に自らの体を凍り付かせている氷を振り払う。

大気の刃も深手を負うほどのダメージはなさそうだ。

なるほど、この程度の魔法は耐えられるというわけか。


バシュッ、ジュウウウ


コカトリスは自らの口から毒液をまき散らす。

毒液の触れた岩は音を立てて溶けていく。

そのときに生じる蒸気が、洞窟内に充満する。

この煙はマズイ、遅延性の毒のように徐々に体の自由を奪われる。


「空間魔法展開、ライトニングメテオ!」


俺の雷魔法が雷の隕石となりコカトリスに降り注ぐ。


俺は剣を支援魔法により強化する。

同時に雷の隕石により動きを封じられてるコカトリスとの距離を一気に詰め、必殺の一撃を放った。


ズバン!!


俺の必殺の剣がコカトリスの首を天高くまではねあげた。


ズズーン、ドサッ


コカトリスは力なく倒れた、切り離された首も地面に転がっていく。


「よし、ルーナ。ひとまず帰還しよう」


「リアム様、あれ!」


俺はわが目を疑った、あまりの状況にさすがに自分の頭が混乱している。

それもそのはず、切り離されたはずのコカトリスの胴体と首が再生しようとしている。


グジュグジュル


切り離された断面から、触手のようなものが伸び、互いに結び付こうとしていたのだ。


「グ…グゲゲ……グガガガ」


互いの触手が結び付き始めた瞬間、倒したはずのコカトリスが息を吹き返す。


俺はとどめを刺すべく、コカトリスに剣での連撃を加え、たたみかけるように。

「空間魔法展開…エクスプロージョン!!」


巨大な爆発とともに切り刻まれたコカトリスの体は消滅した。

キラキラ

と、コカトリスの体があったはずの場所から光るものが見える。

あれは、なんだ?宝石?

俺は光に歩み寄り、その宝石らしきものに手を伸ばす。


パッキィン

手を触れた瞬間、乾いた音とともに粉々に砕け散った。

なんだ?宝石とは違うような、なにか魔力を帯びたようなものにも見えたが。

まあ、なくなってしまったものを気にしても仕方がない。


ふと俺は視線を横に移した。

これは…。

俺は、そこに転がる指輪を手に取った。

強い魔力を感じる指輪、きっとコカトリスが名のある冒険者から奪ったものだろう。


「ルーナ、鑑定してくれ」


「それは、封魔の指輪です。アイテムとしてのランクはAランク、さまざまな魔法効果や状態異常から身を守るとされている指輪です」


なるほど、コカトリスの魔法耐性の高さは、こいつを体内に取り込んでいたからか。

しかし、それだけでは説明ができないことも…。


「リアム様?」


「ああ、すまない。ルーナ、この指輪はきみが身に着けるといい。俺が援護できなくても、ある程度は身を守れるはずだ」


俺の差し出した指輪を前に、ルーナは両手で口元をおおい、顔を赤らめている。

その様子は見ていて可愛いのだが、俺には意味が理解できなかった。


「どうした、必要ないか?」


「あっ、いえ、その…嬉しくて。あの…リアム様から私の指に、指輪をはめてくれませんか?」


ルーナはそう言いながら、右手を差し出してきた。

俺はゆっくりと指輪をはめる。

薬指にしか入らないが、まあ問題はないだろう。


「ありがとうございます、リアム様。これは…その、そういうことですよね?」


そういうとルーナは顔を真っ赤にし両手を内股に挟みながら、もじもじとしている。


「ん?ああ、身を守るためだ。クエスト中はつけていてほしい」


どこかルーナの様子に違和感を覚えつつ、俺たちは帰還する。

その後もルーナは様子がおかしかった。

なにかに照れるようにもじもじし続けていた。

その様子を見ていて可愛いとは思うのだが、俺には何がそうさせるのか理解できない。

そのまま俺たちは洞窟から戻り、ギルドを目指すのだった。



日も傾いてきた頃、サンレイクに帰還した俺たちは、報告のためギルドに来ていた。

不慣れなルーナに合わせた探索だったこともあり、帰還するまでに想定よりも多くの時間がかかってしまった。

しかし、討伐に出発してから2日、明日の早朝に町を出れば、護衛依頼には十分間に合うだろう。

ルーナもケガをしていないし、初回としては上々だ。


「ギルド長のゼラードを頼む」


奥から出てきた屈強な男は、俺の姿を見るなり感嘆の声を上げる。

そしてそのままカウンター越しに俺の肩をバシバシと叩いた。

正直痛いからやめてほしい。


「お前!?無事だったか、クエストを途中で帰還したのか?」


「いや、依頼通りコカトリスを討伐してきた、これが証拠のコカトリスのトサカだ」


差し出されたトサカを見て、ゼラードは腕組みをしながら、大きくうなづいた。


「うむ、間違いない、コカトリスのトサカだ。お前はいったい何者なんだ!?Fランク冒険者がコカトリスを討伐するなんて聞いたことがない。たいしたやつだな」


その瞬間、ギルド内がざわめきだす。


「おいおい、コカトリスが討伐されたってよ」

「マジか!?この前、王都から来た冒険者でも倒せなかったんだぞ?」

「でも、あのトサカ。間違いねえ」

「たった2人でか、なんてやつらだ」


ギルド内から驚きの声が上がる。

無理もない、実際に戦った感じだけでいえば、Aランクを超えていてもおかしくないクエストだ。

ガーゴイルがいたことを考えると、俺の前の冒険者はコカトリスまでたどり着けなかったんだろう。


しかし、俺は周囲のまなざしと称賛の声を無視し話をつづけた。


「それは、どうも。で、Bランクの護衛クエストについてだが?」


「ああ、お前の実力なら問題ない。依頼の受注を許可しよう。それと、今回の特別クエストは王都からの依頼だ。よって、この結果は私から国王へ報告しよう。また後でギルドに寄ってくれ、護衛クエストの後で構わん」


「わかった、では」


俺はゼラードに一礼しギルドをあとにした。


「リアム様、よかったのですか?コカトリスについての詳細な報告はなにひとつしていませんでしたが」


ルーナは不思議そうな顔で俺を見た。

俺のほうが身長が高いからか、並んで歩いているとルーナの俺を見る目線が、やや上目遣いになる。

やはり、ルーナは可愛い。


「構わない、Fランク冒険者の俺がコカトリスの異変を伝えたところで誰も信じないさ。それに…」


「それに、なんですか?」


「いや、なんでもない」


複数のコカトリスの生息・ガーゴイルが防御装置としてコカトリスを守護していたこと、砕け散った宝石…これは偶然ではないかもしれない。

しかし、このことについて俺からルーナに伝えられることはなかった。

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