1話 追放宣言
俺はリアム・ロックハート、17歳、魔法剣士として冒険者をしている。
そんな俺が所属する勇者パーティーは功績が認められ、アステラという王都に来ている。
アステラは、中央大陸の西部にあるシャリール大国の中央に位置している大規模都市で、一定ランク以上の富裕層の住民や冒険者や騎士団、貴族、権力者のみが立ち入ることを許されている。
そのほか、貴族や権力者に付き従う使用人や奴隷も立ち入りは許可されている。
商人や職人だけは富裕層でなくとも、出自がはっきりとし、品物の流通ルートを明確に提示できる者であれば立ち入ることができる。
他の町の小金持ちが、ここでは普通の住人なのだ。彼らは普通は汚れ仕事はしない。
しかしここでは別だ。
普段汚れ仕事をしたがらない小金持ちたちが不平不満を言わずにその仕事を行う。
それだけ、王都で暮らすこと自体が名誉なことらしい。
門兵や衛兵についても、実績のある冒険者や下級騎士が務めることを許されている。
ギルドの仕事もそうだ、普通ならFランクやEランクの依頼でも、王都であれば最低でもCランク。
Bランク以上の冒険者であれば、Dランク以下の依頼は受けられないからだ。
だから当然、依頼達成も迅速だ。優れた冒険者ほど王都を目指さない理由はない。
それゆえに王都は治安が良く、住めることが名誉なことだと思われているらしい。
それにより、国自体に経済格差がどうのこうのと思うところではあるが、国王も近隣の村や町には物資や金銭援助をしているようだし、国が平和であれば、ど田舎の村で育った俺には関係ない。
そして今、俺たちは冒険者ギルドの一角で、明日から始まるSランク昇格クエストに向けた集会をしているところだった。
「俺さまたちもとうとうSランクか、このままSランクに上がれれば150年ぶりの快挙だとよ」
そう自慢げに話をしているのは、ジルガという俺より4つ年上の男。
実際には、150年の間にSランクへ昇格した冒険者は何人もいる。
しかし、その者たちと比べ、俺たちはここまでたどり着くのが最速なのだ。
それこそ、150年間の間に前例がないほど、順調に依頼を達成してきている。
そのことで周囲からも羨望のまなざしを受けており、ジルガはそれが自慢だった。
ジルガは類まれな剣の実力と冒険者としての依頼達成度を国王に認められ、勇者という称号を名乗ることを許された、このパーティーのリーダーだ。
剣の実力だけでいえば、王都直属の騎士団長と同等といったところだろう。
特に彼の持つ剣は、すべてを断ち切る剣だと言われている。
「そうね、ジルガ、あなたのおかげね。まあ、あたしたちの実力でもあるけど」
ジルガの話に賛同したのは、リリアという女魔導士。
攻撃魔法や支援魔法を豊富に使用することができる。
彼女は、あらゆる魔法を駆使することでほとんどの剣士や魔物に触れられることなく倒すことができる実力を持っている。
彼女の杖は魔力を増大させ、魔法の威力・範囲を高めてくれる奇跡の杖と噂されている。
「ジルガの指揮は正確だからな、リーダーとしての判断は常に正しいということだ」
最後に口を開いたのは、イゴール。2メートルを超えるほどの大男で、パーティーの盾役である。
その強靭な肉体で斬撃・打撃・魔法とあらゆる攻撃に耐えることができる。
なかでも彼の持つ大盾はすべての攻撃を遮断する絶対防御が可能だと信じられている。
また始まったかと俺は、この後の展開に身構える。
いつもジルガへの称賛が終わると、その後に俺への嫌味が始まるからだ。
そもそも、俺は嫌味を言われる筋合いはないんだ。
ダンジョン内では、隊列の先頭に立ちナビゲートしているし、武器や防具の手入れやアイテムの管理も、それに荷物持ちまで俺がやっている。
他にもみんなの補助だって…。ただ、俺はあまり話すことが得意ではなく、ジルガに反論しようものなら、3対1で責められるのが目に見えていた。
「それに引き換え、リアムときたら、故郷が同じってだけでパーティーに入れてあげてるのに、全然役に立ってないじゃん。道具に魔法を流し込んで、たいまつの代わりにする以外に取り柄はないわけ?」
最初に俺への不満を述べたのはリリアだった。
彼女はこちらを見ることなく、呆れ切ったように言い放つ。
「確かに戦闘ではほとんど役に立っていないな、ダンジョン内のナビゲートにしても、地図くらい俺たちでもわかる。剣をたいまつ代わりにしたところで、戦闘では役立たずだ」
リリアとは対照的に俺に鋭い視線を送りながら静かにイゴールも続けた。
はぁと俺は内心ため息をついた。
この展開は想像できていたとはいえ、毎回のこととなると反論する気もなくなる。
魔法を流し込んで、みんなの武器や防具も強化しているだろうと反論したこともあった。
しかし、結果は3人に罵声を浴びせられるという結果に終わった。
だから、こういう場合は、何を言われても言い返さず、耐えていればいい。
「まあまあ、リリアもイゴールも落ち着けよ。こいつはこいつなりに精一杯やっているじゃないか」
ん?おかしい、あのジルガが俺の認めるような発言をした?
俺の感じた違和感は正しかったようで、ほかの2人も俺と同様に。
「えっ!?」
と、驚愕するとともにジルガのほうを振り返る。
ジルガは彼らの視線を気にすることなく続ける。
「リアムなりにやっているのに、あまりキツく責めるべきではないな。俺さまたちのレベルに付いていくのが難しいだけだよな?」
いや、ジルガは俺を認めているわけではない、俺はそう気づき、すぐに反論する。
「いや、そんなことはない。俺はパーティーのために…」
「というわけで、新しくパーティーに加えたいやつがいる」
ジルガが俺の話を遮るように話し出す。
「やあ、みなさん、ダスティン・エバーです。これからよろしく」
ジルガの後ろから、俺と同じ歳くらいの細身の男が歩み出る。
「こいつはハンターとして、このギルドで冒険者をしている。ランクはB、ハンターだけあって探索だけでなく、戦闘も十分こなしてくれるだろう」
俺も含め、リリアもイゴールも話の展開についていけずに困惑している。
「まあ、そういうわけだからよ、リアム、お前はクビだ!」
声高らかにジルガは宣言した。
は!?今、なんて言った?クビ!?俺が?
俺は突然のクビ宣言に頭が追い付かなかったが、リリアとイゴールはクビというキーワードに反応したらしく、ニヤニヤと薄笑いを浮かべながら俺に視線を向けてきた。
「いや、ジルガ、聞き間違いか?俺がクビとは」
「なんだ、言葉までわからなくなったか?お前はクビだ、このパ-ティーにはお前はいらねぇんだよ!」
さっきの妙な違和感はこれか!最初からクビを宣言するつもりだったのか。
そう考えると、だんだん腹が立ってきた。しかし、俺としてもここでパーティーをクビになるわけにはいかない。
「しかし、ジルガ、俺にはクビになるような心当たりがない。それに冒険者を始めたときに誓ったじゃないか、みんなで魔王を倒すんだろう!」
「理由なら、さっきリリアとイゴールが言っていただろうが?お前は役に立たねぇんだよ!道具に魔法を込めて周囲を照らすことしかできない役立たずが!お前のギルドランクを言ってみろ!」
「ギルドランクはⅭだ、でもそれは、補助役に徹していたからだ!そうするように指示したのはジルガじゃないか!」
俺はいつの間にか立ち上がっていた。両手をテーブルについて前傾姿勢になり、ジルガに詰め寄るかたちになっていた。
剣や道具に魔法を流し込み周囲を照らす、これならにおいに敏感な魔物にも気づかれないから、それだけで重要なんだと、俺に教えてくれたのはジルガ、お前じゃないか!
同時に俺は心の中でそう叫んでいた。
「俺の…このジルガ様の勇者パーティーでは、Ⅽランクの冒険者なんていらねぇんだ!Ⅽランクの冒険者のいる勇者パーティーなんて、みっともねぇだろうが!戦闘にしたって、俺やイゴール、リリアのほうが効率がいいんだよ!」
ジルガも最初こそ、椅子にふんぞり返り余裕の笑みを浮かべていたが、俺が反論したことで表情が険しくなる。
よほど俺に反論されるのが気に食わないらしい。
「そうよ、リアム。なんの役にも立たないあんたを故郷が同じってだけで、ここまで一緒に旅をさせてあげたのよ。王都に入れただけでもありがたいと思いなさいよ!」
リリアもいつもの調子を取り戻し、ジルガに肩入れする。
いつものことだ、リリアはジルガに露骨に媚を売っている。ジルガもよく夜中にリリアの部屋を訪れ仲良くやっているようだし、そういう関係なのだろう。
王都に入れる、それだけで名誉なことなのは知っている。
でも俺には理解できない。俺の目的はそんなことじゃない。
「魔王に復讐を果たしたいと言うからパーティーに加えていたが、道具に魔法を流し込み周囲を照らしダンジョン内を案内するくらいなら、たいまつだけあれば十分だ。つまりお前は、しゃべれるたいまつと大差ないというわけだ」
普段は寡黙であまり口を開くことがないイゴールもここぞとばかりに俺に悪態をついてくる。
「しゃべれるたいまつとかウケる、マジたいまつ君じゃん!」
リリアの高笑いがギルド内に響き渡る。
「初めましてで悪いけど、たぶん君よりも僕のほうが優秀だよ。ダンジョンに出て恥をかく前にパーティーを抜けることをオススメするよ」
ダスティンも薄ら笑いを浮かべながら、言い寄ってきた。
恥ならかいた、悔しい気持ちもある。だが、魔王討伐に一番近いのはこのパーティーなんだ。だから、魔王討伐を果たすまではここを離れるわけにはいかない。
しかし、食い下がろうとする俺にリーダーであるジルガは最後通達とばかりに、
「お前はクビだ!リアム・ロックハートをこのパーティーから追放する!」
この追放宣言はリリアの高笑い同様、ギルド内に響き渡るのだった。
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