ボロアパート27
「そんな怖い事言っちゃダメ!」
「コ、ロす。コろス。…」
壊れたレコーダーのように同じ言葉を繰り返す。
「麻世ちゃん!ダメだよ!」
私は一生懸命にやめさせようと話しかける。
次の瞬間。
麻世ちゃんはバッと後ろを振り返り、スゥッと消えてしまった。
「え?…うそ。消えちゃった。」
「なんで…?消えるなんて。」
しばらく呆然と立ち尽くす。
「あの子…なんだったの?」
「すごく怖い事言ってたよ?大丈夫かな?誰のこと言ってたんだろ。」
私は不安になってお母さんを見た。
お母さんも何がなんだかわからないようで困った顔をしていた。
今、目の前で起きた事が何なのかよくわからないけれど、ここでボーッとしていても仕方ないので家へ戻る事にした。
部屋へ入ろうとアパートの前に着いた時、2階の男性の部屋から声が聞こえた。
「お前っ!なんで鍵が壊れてるんだよ!?」
バシッ…ドカッ!と大きな音がする。
「…もしかして暴れてるの?」
お母さんが男性の部屋へ向かおうとすると何かに阻まれて先へ進めない。
「なんで?何か見えない壁みたいな物がある。」
ドンッドンドンッ
叩いてもぶつかってもびくともしない。
「これじゃ部屋へはいけない。」
「これからどうしよう…?」
二人で途方に暮れていると後ろから声がした。
「あんた達、ここで何してんだい?」
聞いた事のある声に振り返る。
そこには大家のお婆さんがいた。
「何してるのかって聞いてんだ。」
「え?い、いや、大家さん私達の事が見えるんですか?」
「見えてるよ。あんた死んだんだね。」
「お婆ちゃんスゴい!私も見える?」
「あんたはずっとここに居た。お母さんを守ってたんだろう?知ってるさ。」
「そうなの!でも、いつも会っても何も言わなかったのに。」
「必要ないからさ。あんたの目的は母親だけだったからね。悪さはしないと思ってほっといたんだよ。」
「そっかぁ。でも、今はなんで…?」
そこまで言いかけて、お婆さんの顔つきが変わった。
「あんた達。アレに会ったね?」
「アレ?…って、麻世ちゃんの事?」
お婆さんは名前を聞いて一瞬驚いた顔をして言った。
「その名前はどこで?」
「さっき会った時にあの子から直接聞きました。」
「でも、すごく怖い事言ってて止めようとしたけど、急に消えちゃったんだよ!」
「…そうかい。何もなくて良かった。あんた達はもうここにいちゃいけない。行かないといけないんだよ。」
そう言ってお婆さんは空を指差した。
「え?空に…?」