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波打ちぎわ

作者: 雨世界

 波打ちぎわ


 プロローグ


 君は私の初恋の人でした。


 本編


 私たち、絶対に幸せになろうね。

 

 その日私は、波打ちぎわに立っていた。


 君から不思議な切符をもらった私は、その切符を使って、真っ白な駅から、真っ白な電車に乗って、その切符の目的地である、君の住んでいるところまで行ってみることにした。

 そこは美しいまちだった。緑色の草原と青色の空と優しい風と、優しい人たちがゆっくりとした時間の中を暮らしている、永遠と広がっている透明な海の見える場所にある、そんなとても美しいまちだった。


「やあ、こんにちは」と大きな真っ白なトランクを引いて、そんなまちにやってきた私を見て、君は言った。

「うん。こんにちは」と私は笑顔で君にそういった。


「すごくいいところだね。こんなところに住んでいるんだ」とても素敵な美しいまちを見て私は言った。

「どうもありがとう」と君はまるで自分のことのように喜んでそういった。


「まちを案内するよ。ついてきて」と言って君は私の手をとって歩き出した。

 私は「うん。よろしく」と言って、旅行に必要な荷物をいっぱい詰め込んできた真っ白なトランクを転がしながら君のあとについて歩き出した。


 それから君は私に美しいまちの中を案内してくれた。

 それはまるで二人だけで遠い異国のまちに長い休暇をとって旅行にでも来たような、そんなとても楽しい経験だった。

 真っ白な君の住んでいる小さな家に荷物をおいて、美しいまちの案内のあとで二人で料理をして、コーヒーを淹れて、大好きな音楽を聞いて、簡単な食事をしてから、私たちは海岸線にまで歩いて移動をした。


 太陽が落ちかけている、まるでさっき見た半熟の卵の黄身のような、溶けているようにも見える、そんなオレンジ色に染まった透明な海と真っ白な海岸のある世界が広がっている。

 ざー、ざー、と言う静かな波音。

 それはとても美しい光景だった。

 私は君と一緒にそんな海岸線の波打ちぎわに立って、君と手をつないで、そんな美しい風景をじっとただ、なにをするわけでもなく見つめていた。


「ずっと、ここにいてもいいんだよ」と優しい声で君がいった。

「うん。ずっとこうしていたい」と私はいった。

「……でも」

 と私はいって君の顔を見つめた。

 そこには君がちゃんといた。

 消えることなく、いつものように、ちゃんと私のそばにいてくれた。

「帰るの?」と君はいった。

「うん。……帰る。本当はここにいたいけど、帰るよ」とにっこりと笑って私はいった。

「そうか。わかった。じゃあ、今夜だけ僕の家に泊まって、明日の朝、君を駅まで送るよ」と君はいった。

「うん。ありがとう」と涙を我慢しながら、私はいった。


 ざー、ざー、と言う波音が聞こえた。

 私はこの日の記念に真っ白な海岸の上に落ちていた真っ白な巻貝を拾って、うちに持ち帰ることにした。


 君は約束の通り、とても静かで、とても優しい透明な夜を二人だけで過ごしたあとで、安心して、二人で一緒のベットの中に入って、ぐっすりと眠ったあとで、朝、私を真っ白な駅まで送ってくれた。


「じゃあね」と私はいった。

「うん。ばいばい」と笑顔で君はそういった。


 ひとりぼっちになった帰りの真っ白な電車の中で、私はずっと我慢していた涙を流して、いっぱい、いっぱい一人で泣いた。(乗客は私一人だけだったから、遠慮することはなにもなかった)


 私の手の中には小さな白い巻貝があった。……それは確かに、私の手の中にあった。


 波打ちぎわ 終わり

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