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「殿下!殿下!!朝ですよ!
本日は第四離宮へ向かわれるのではないですか!?」
「...もぅ朝なの?ねむい...」
あまりの眠さに手で目を擦れば誰かに止められ温かいタオルで目元を温められた。
これキモチいー。
「ですからお早めにお休みくださいと言ったではありませんか。」
この声はアピスだ。目元のタオルをとられると明るい室内が見えてきた。
「おはよ。ございます。zzz」
「おはようございます。寝ないでください。朝食に遅れますよ。
それとも体調不良としてルーク王子殿下の御部屋には行かれませんか?」
「や!行く。...起きます。起きます。」
ねむー。昨日は遅くなったからね。...楽しかった。またやろう。
「さぁ。お召し替えを。」
「その前にもう一度、顔洗わせて...まだねむい。」
「かしこまりました。ではお目覚めになる飲み物もご用意いたします。」
「うん。ありがとうー。」
お兄様のお部屋だけど今日が初めてのお出掛けだ!!(お庭を除く)
いつも通り寝ているお兄様の隣で朝食を食べて、お父様達をお見送りしたら起きたお兄様と手を繋いで後宮の奥に歩いて行く。私達の後ろにはお休みのユーノお父様とユリウスお兄様も一緒だ。
「ユーノお父様。今日はよろしくお願いします。」
「はい。よろしくお願いされました。
行く前に一つ。決して私の研究している物には触らないでくださいね。」
そういえばユーノお父様は魔導団?の研究者って言ってたね。危ない物なのかな?
「はい。分かりました。」
「リリアナ見えてきましたよ。」
後宮の後ろ側の出口には石畳の噴水広場があった。その先の生垣で区切られた右側の大きな御屋敷をお兄様は指差していた。
「あそこが第四離宮ですか。」
離宮っていうより御屋敷なんだけど...あれも大きい建物だよね。
お兄様達とお話しながら近づいて行くとそこは植物の生い茂る洋館だった。
こっこれは!!
嵐の夜に名探偵が事件に巻き込まれそうな...。
今が昼間でよかった。夜だったら絶対に回れ右してたわ。
造られた当時は綺麗だったであろう玄関付近も手入れされていないから草がボーボーだ。
後宮内で草が生えているのに召使い達とか庭師が手入れしないって逆に珍しいね。
「さぁ、どうぞ入ってください。」
「へへっ。いらっしゃい。リリアナ。」
「歓迎するぞ。」
ユーノお父様、お兄様、ユリウスお兄様の順で歓迎してくれたけど...
どうしよう。私。今、物凄く逃げたい。
「おっお邪魔します。」
扉をくぐり玄関に入ればたくさんの本棚が乱立していた。
うぇっ?
なんで?玄関にこんなに本があるの?
本特有のインクの匂いやカビっぽい匂いもしないし室内は整理されているから歩くのは問題ないけど迷路の様に本棚が乱立しているから私の目線からじゃどこに扉があるか分からないよ。
上を見ても右を見ても左を見ても本。よくここまで集めたね。
「私の研究用の資料の一部です。この辺にあるのもは気になれば読んで構いませんよ。」
「...ありがとうございます?」
「リリアナ。僕の部屋はこっちだよ。」
私は焦れたお兄様に手を引かれて...迷路の中に突入した。
お兄様のお部屋は緑を基調とした色合いの森の中を思わせるお部屋だった。
観葉植物が多いな。壁からも生えてるや。...エアプランツかな?
おっ!金のなる木だ。
この木は名前ですぐ覚えたからね。間違えない自信があるよ。
「こっち。この離宮にもお庭があってね。2階の窓から見えるからおいで。」
室内の観葉植物を見ている私をお兄様が奥の階段の上から手招きして呼んだ。
「2階もあるのですか?ここお兄様のお部屋ですよね?」
「一階はリロイの休憩室だよ。僕の部屋は2階だよ。」
...そうだよね。リロイさんお部屋ないと困るよね。
あっ!リロイさんってお兄様の側仕えのエルフさんの事。
2階に上がると観葉植物が少なくなり木の温もりの溢れる場所になっていた。
わぁー。なんかツリーハウスっぽい内装。一階が観葉植物いっぱいだから余計にそう思うのかな?
もうね。雰囲気が森の中なの。
お兄様が指を差す窓は私には少し高かったのでアピスに抱き上げてもらい外を見ると外には雑木林が広がっていた。
「お兄様。これはお庭なのですか?」
「うん。」
...建物から玄関、お庭まで絶対に手入れをしないという気概が伝わってくるね。輝く笑顔で頷かれて返答に困っていると階段から声が聞こえた。
「リリアナが戸惑うのも無理はありませんね。」
あれ?ユーノお父様達も来たんだ。
「森の民は森の恵みに守られそして生かされています。
故に森の妖精王様を深く信仰してるのです。ですが逆に森に仇名す者は決して許すことはありません。もちろん森を傷つけることもいたしません。」
「だからそのままなんですか?下払いや木の間引きもしないのですか?」
「エルフにとって木は神聖なものです。木を傷つける行為はいたしません。」
「へー。エルフの森はどういうところなんですか?」
「ふふふっ。」
「ユーノお父様?」
「いえ。リリアナがエルフに興味を持ってくれて嬉しいのです。
ここで立ち話も何ですからお茶をしながらお話ししましょう。
いいですね?ルーク。」
「...はい。」
少しがっくりした様子のお兄様が渋々返事をした。




