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さて本日の料理はアポロ兄様からのリクエストでお酒のおつまみだけど私は揚げ物が食べたいので揚げ物に決定!!なんの揚げ物にしようかなー?
「はっ!アポロ兄様!!肩車で厨房は危ないです。降ろしてください!」
「あいよ。じゃあ出来たら呼んでくれや。」
厨房前の廊下で肩から降ろされアポロ兄様は来た道を引き返そうと歩き出した。
「えー!!アポロ兄様行っちゃうのー?
午後は一緒に遊ぶって言ったのに。」
最後の一言が効いたのか戻ってきて話をする体勢になってくれた。
「厨房に入ったって何にも出来ねーよ。」
「出来ることならありますよ。私の抱っこ係です。」
私はアポロ兄様に手を伸ばして急かした。
「抱っこしてください。はやーく。」
アポロ兄様は受け入れてくれるって分かるから我儘を言いやすいんだよね。
「わーったわーった。」
「アポロ殿下その...よろしいのですか?」
私を軽々と持ち上げて厨房に入ろうとするアポロ兄様にずっと後ろで付いて来ていたアピスが小さく声を掛けた。そういえばアポロ兄様の側仕えって見たことがない気がする。...見た事ないよね?
「かわまねーよ。午後は遊ぶって約束したしな。」
「おじゃましまーす。デュークいるー?」
「邪魔するぞー。」
「「「「「なっ!!アポロ殿下!!!」」」」」
...最近。厨房に来過ぎなのかな?もう料理人さん達は私に誰も驚いてくれなくなっちゃた。...ちょつとさみしい。
アポロ兄様に一斉に頭を下げる料理人達の間を縫うようにデュークが奥から出てきた。
「ようこそいらっしゃいました。アポロ王子殿下。リリアナ殿下。
本日は何をお作りになられるのですか?」
...デュークもさらっと返すようになったよね。
「今日は俺がリリアナを抱えてるだけだから俺の事は気にするな。」
「アポロ兄様のご要望にお答えしてお酒のおつまみです。揚げ物を作る予定ですが先に食材庫を見させてもらいますね。
アポロ兄様あっちー。」
デュークに言いたいことだけ告げてアポロ兄様に食材庫まで連れて行ってもらう。
「さーて、なににしようかな?あっ!ジャガイモ発見!!」
食材庫に入ると大量のイモ類が入口に置いてあった。
「肉はどうだ?」
アポロ兄様が指差したのは私より大きな肉の塊。旨そうなお肉。
「いいですねー。でもそれ、何肉ですか?」
「しらん。」
「そちらはジャイアントドドードーのモモ肉です。」
付いて来たデュークが教えてくれた。
...ジャイアントドドードー?
初めて聞く名前に首を傾げていたら解説を始めてくれた。
「農業の国。オルタ国で飼育されている巨大な鳥です。味は鶏肉なので淡白な味わいをしております。
ジャイアント。その名に恥じない大きさで一羽で飢饉に苦しむ町を救った。とまで言われております。」
鶏肉だったらやっぱり唐揚げだよね。...醤油ないから塩味だね。
他にも何か作る?...おっ!レンコン発見。
「デューク。そしたら鶏肉とジャガイモとレンコンを持って来てもらっていいですか?」
「おっ!決まったのか?何作るんだ?」
「唐揚げとポテトとレンコンでペペロンチーノ風にします。」
「旨いのか?」
半信半疑。そんな言葉がよく似合いそうな顔で覗き込まれた。
「旨いですよ。何より冷やした麦酒が合います。」
「よし!ワリーが麦酒を冷やしておいてくれ。」
アポロ兄様。まだ昼間。
...お休みだしいいか。
いつも通り口頭で伝えるだけで手早く調理をしてくれる料理人さん達はマジパネェっす!!
そんなに時間もかからずに出てきた料理を持って談話室へ。
いざ!実食!!
私よりも早くアポロ兄様が大口を開けて唐揚げにかぶりついた。
アポロ兄様って第二王子なのに毒見とかしないんだね。いいのかな?
...まぁいいか。それよりも熱いうちに食べないともったいないからね。
久々の揚げ物だよ。カロリーの塊だよ。美味そう!!
私の拳位のサイズにカットされ美味しく揚がった唐揚げをフォークで刺して口元に運ぶ。
ガブッとね。
あつっ!あっ!...あっふい。
外側は二度揚げカリカリ。中はしっとり柔らかジューシー。噛むと口の中で溢れる熱い肉汁がたまんない。...最後につい胡椒も追加しちゃったからピリリと引き締まってうんまい。これこそ大人の味だね。
料理人さんに塩レモンの作り方を教えたから今度は塩レモンかな?
はぁ。旨い!あっつい!美味い!幸せー!!!もう一個たーべよ。
「プッハ!うめーなー。麦酒おかわり。」
ポテトもカリカリとホクホク二種類ともいい塩味ですね。
小さく細く切ったポテトはよく揚がってカリカリと太めに熱く切ったポテトは柔らかくホクホクと。どっちも好きだ!惜しむのは塩味オンリーという事だね。とりあえず、好きだよ。ジャガイモ。
さてさて最後のペペロン・レンコンさんは?
うん。レンコンのサクッサクッとした歯ごたえにニンニクと鷹の爪が効いてて美味い。オリーブオイル多めで作ってもらったからパンに浸けてもいいね。
今度アヒージョ作ってもらおう。秋だからキノコがいいかな?
「これも旨いな。で?さっきコッソリ料理人と何を話してたんだ?」
見てたの?バレてないと思ってたのに...
「簡単なおつまみの作り方を教えたんですよ。そろそろ来るんじゃないですか?」
「追加のつまみか。マズイな。酒が足りない。」
「...もうすぐ夕食ですよ。ほどほどにしてくださいね。」
「ヘイヘイ。...?
誰か来たな。」
アポロ兄様が扉に目を向けると同時に扉が開かれレオナルドお兄様と...
知らない人二人が付き従って入って来た。
「アポロにリリアナ?二人でどうしたんだ?」
「アポロお兄様がお休みなので遊んでいました。」
「遊んでた?そういう割にはアポロは酒を飲んでいるようだが?」
ジトリ。そんな効果音がつきそうな目付きでアポロ兄様を問いただし始めたレオナルドお兄様は放っておいて一緒に入って来た二人に目を向ける。
一人は黒髪でセミロングの儚げな雰囲気をもつ麗しい男性?で、もう一人は水色の髪を一つにまとめたアポロ兄様と同じ制服を着た目が鋭く筋肉質の青年。
えーっと。談話室に入れるって事王族の誰かから許可書をもらっている人達って事だから挨拶した方がいいよね。
「どうした?」
「そうか!リリアナは二人に初めて会うのか。」
レオナルドお兄様正解!でも、私まだ何も言ってないよ。
「そうだったか?」
「そうです。」
お兄様達に投げやりに返事をしながら挨拶をするために席から立ち上がる。
「初めまして。私はリリアナです。いつも兄達がお世話になっております。」
...王族の挨拶って分かんないからフツーにしちゃった。変だったかな?
変でも子供だから許してね。
私が挨拶するとはじかれた様に二人は膝をつき腰を折った。
えっ?えぇー?
「突然の不作法を失礼いたしました。
私はレオナルド第一王子殿下の補佐官を務めさせて戴いておりますノア・クルスと申します。我らが国の為、尊きお方々の為に誠心誠意尽くす所存であります。」
先に歌うように滑らかに口を開いたのは黒髪の麗しい方。
「お初にお目にかかります!
私はアポロ第二王子殿下の補佐官を務めさせて戴いておりますカイト・ムーアと申します。軍属の身ではございますが剣を国に奉げておりますので如何様にもお使いください。」
次に大きな声でハッキリとした言い方で話し出したのは筋肉質な軍人さん。
どっどうしよう!?
軽く挨拶をって思ったらガチのやつが返って来たー!!
返答に困って慌てているとお兄様達から助け舟が...
「兄貴も食うか?うまいぞ。」
「もらおうか。麦酒か?珍しいの飲んでるな。」
「リリアナのおすすめだ。おっ!追加のつまみも来たな。」
来なかった。困った妹より酒と食い物か...少し遠い目をしてお兄様達を見ればさっきまでの焦りが消えていった。
「ご丁寧にありがとうございます。もしよろしければお二人も召し上がりますか?」
どうぞどうぞ。お兄様達の分のお酒は飲んでください。
「えっ?いえ、私共は...」
「ほら、席開いてるぞ。」
断るノアさんに対してレオナルドお兄様(上司)が席を進め出した隣でアポロ兄様(上官)はお酒とお皿を用意し始めた。
「カイトはいつも通り麦酒でいいか?」
「レオナルド王子殿下。流石にここでは...」
...あれ?レオナルドお兄様がなんでアポロ兄様の補佐官の好み知っているの?
「ナニかしこまってるんだよ。ノアも気にしなくていいぞ。ここにいるのはリリアナとその側仕えだけだからな。」
「「気にします。」」
へー。お兄様達と補佐官さん達は仲良いんだ。
その後もお兄様達と座る座らないの押し問答を始めたので提案をしてみた。
「ノア。カイト。アピス達も座れば問題ないですよね?お兄様。3人追加でお願いします!」
秘技!! 皆で騒げば怖くない!
まぁ、実際は背中に感じるリカのキラキラした目線に負けただけなんだけどね。
「「了解!!」」
私の提案に二人揃っていい笑顔で了承の言葉が返って来た。
ですよねー。
騒ぐの大好きなうちの兄達がこんな騒げるおいしい展開を見逃すわけないじゃん。
「ちょっ。困りますって。
ここ後宮ですよ。しかも幼いリリアナ殿下の前で酒宴など。」
「「「...あぁ。」」」
思わずなに言ってるんだろうって思っちゃった。
「カイト、ノア気にしなくていいぞ。リリアナは酒好きの前世持ちだからな。」
「へぇ。そうだったのか。じゃあ今日のこの料理は?」
「リリアナ作だな。」
「作って言われるほど作ってないから違和感しかないですね。
アピス達も座りなよ。...あれ?リカは?」
食べたいんじゃなかったの?
「追加の酒と料理を頼みに厨房に行っています。」
...なんというかさすがだね。
「おう。ワリーな。で、お前らは何呑む?」
アポロ兄様のこの言葉でノアとカイトは諦めたらしく大人しく席に着いた。
それにしても残念なのは私の飲み物が紅茶という事だよね。
このバカ騒ぎは最終的に王族全員と側仕え達まで巻き込まれ夜中まで続いた。
後で知ったことだけど、王族にはお酒が強い人が多いらしく巻き込まれた側仕え達の為に客室は常に用意されているんだって。
つまり酒宴は出来るって事。次はいつやろうかな?




