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「お兄様―。」
「リリアナ―。」
晩餐室に行けばお兄様達はすでに待っていらした。
急ぎ足でお兄様に駆け寄り手を取り合って恋人のごとく見つめ合う私達。
そんな私達をお兄様達が呆れた目で見ていた。
「なぁ。なにやってのアイツら。」
「アポロ兄様、気にしないでください。仲良しらしいです。」
「最近、昼食の時は毎回やっているよね。」
上からアポロ兄様、ユリウスお兄様、グレイシアお兄様だ。
いいの!お兄様と私は仲良しなんだから!!
「ところで、なんでアポロ兄様がいるんですか?まさか...!」
「いちゃワリーのかよ。それにまさか...って何だよ。
俺はただの休みだよ。」
「お休みですか。
...あれ?朝食の席にはいらっしゃいませんでしたよね。遊んでください。」
「最後におかしいのが付いてるぞ。寝坊だよ。さっき起きたんだよ。
午後はー。ヒマだからいいぞ。」
「「「ええー!!」」」
「リリアナだけずるい!!」
アポロ兄様大人気。
「そう言ったってお前ら勉強だろう。今度な今度。
ったくそれより食事にしようぜ。腹減った。」
アポロ兄様はどこまでもアポロ兄様だよね。だから皆に好かれるんだろうけど。
「あっ!そうだ!!リリアナ。
明日、僕お休みなんです。それで僕のお部屋に遊びに来ませんか?」
食事が終わって別れようとした時にお兄様が思い出したように言いだした。
...行く?私が?天使の部屋に?それって天に召されるって事?
んなわけないか。
「お邪魔してもよろしいのでしょうか?」
「もちろんです。ユリウスお兄様もよろしいですよね?」
「別に構わないが...確か明日はユーノお父様もお休みではなかったか?」
「そうでしたっけ?」
「あぁ。まぁいいか。どうせ部屋から出てこないだろうしな。」
いいんだ。
「では、リリアナ明日は僕のお部屋で一緒に遊びましょうね。」
「分かりました。お邪魔させていただきます。」
お兄様と明日のお約束を満面の笑みでかわしてからお兄様達はお勉強部屋に向かって行った。
「さて、何して遊びましょうか?アポロ兄様。」
アポロ兄様を見上げて聞けばしゃがんでお話をしてくれた。
「ん?何でもいいぞ。
なぁ...少し前に夜に出歩いて何がしたかったんだ?」
夜に出歩く?...あぁ。この間の。
「後宮探検隊です!」
「...はぁ?」
「後宮を探検しながら幽霊を探してました。
私、厨房と晩餐室と談話室しか行ったことがなかったので。」
「...んじゃ、今からやるか?幽霊はいないが案内してやるよ。」
「アポロ兄様が?」
「おぅ!ほら。行くぞ!!」
アポロ兄様に両手で持ち上げられて私の足でアポロ兄様の頭を挟むように肩の上に乗せられた。
これは!...肩車!?うっひょー。たかーい!面白ーい!!
「怖くねーか?」
「怖くないです。わぁ!!アピスより高い!!」
「そりゃよかった。歩くから気を付けろよー。」
「はーい!」
手でアポロ兄様の派手な赤い髪を掴めば意外と細く柔らかかった。
将来ハゲそうとか思ったことは内緒にしておこう。
「まず一階から回るぞー。」
「はーい!」
そう言って普段通らない廊下の方に歩き出した。
「っても一階は晩餐室に会議室と応接室くらいだがな。」
「なんで後宮に会議室があるのですか?」
「軽い打ち合わせ用。それにこの建物より先は立ち入り禁止だからな。後宮だって2階に入れるのは許可書を持った奴だけだぞ。」
「そうなんですか!?」
「あぁ。だから要所と階段に近衛騎士が必ずいるんだよ。許可書を保持してないと即座に捕縛対象になるからな。」
「へぇー。あっ!あれは?応接室の隣の小部屋は何ですか?」
「あれは待合室だよ。そこで待たせておくんだ。」
「へぇー。呼び出したのに待たせるんですね。」
意味分かんないよね。用事があるなら早く済ませればいいのにね。
「だよな。さっさと会えばすぐ終わるのにな。王族のめんどくせー所だな。」
...アポロ兄様本音すぎない?確かに面倒そうだけど。
「一階は面白い部屋はないから先進むぞー。」
「はい!はーい!」
「二階は談話室に勉強部屋、図書室、音楽室、他はテラスくらいか?」
「図書室!?」
「意外なところに喰いついたな。行ってみるか?」
「行きたいです!」
ヒャッホー!絵本以外が読めるかも!?
「ここだ。」
アポロ兄様が止まったのは二階の角部屋。重そうな両開きの扉をアピスとフォルカーが開けると少しインクの匂いが漂ってきた。室内は薄暗く窓を遮る様に天井まで届くほどの本棚にぎっしりと本が並べられていた。
天井が高い!!これ吹き抜けにして本棚入れたの?すっげー!!あっ!絵本にありそうな木の梯子が掛かってる!あれで上の本を取るんだ!
「これはこれは。アポロ殿下。図書室に足を運ばれる事など一体いつぶりでございましょう?ようこそおいでくださいました。」
アポロ兄様に話し掛けてきたのはヨレヨレの服を着てボサボサの白髪で髭を生やした背の低い...中年?の男の人だった。
「よぅ!リリアナを案内してんだよ。」
「あぁ。ですよね。まさかアポロ殿下が本を読むわけないですよね。
初めましてリリアナ王女殿下。叔父のヤグルと申します。」
「初めましてリリアナです。叔父様?」
「あぁ。親父の二番目の弟で降籍してるから大公になる。」
お父様の兄弟かぁ。あんまり似てない気がするけど...私のお兄様達も似てないからそんなものなのかな?
「普段はここ。図書室で図書室長をやっているよ。
リリアナ殿下はもう絵本が読めるそうだね。何か読みたい本はあるかい?」
「あの私でも読める冒険譚か戦記とか歴史書はありますか?」
「ふむ。...そうだ!!あれなら...」
そう言いながら図書室の奥に何かを探しに向かってしまった叔父様。
「あれ?どっか行っちゃた。」
「探しに行ったんだろ。つか、お前マジで読むのか?」
「アポロ兄様は読まないんですか?」
「本を開くと眠くなるからな。それに外で動いている方が好きだしな。」
...叔父様があそこまで言う訳だ。
あっ!叔父様もう戻ってきた。早い!!
「お待たせいたしました。
こちらは子供向けに書かれている冒険譚で森の妖精王の城に行った冒険者のお話です。」
「森の妖精王のお城って母なる大樹の事ですか?」
「ご存じでしたか!はい。そこにたどり着くまでの冒険ですね。」
...そこ行った事あるけど。これにしてみようかな?オススメだし。
「ではそれを貸してください。」
「すぐにお手続きをいたしますので少々お待ちください。」
「...お前そこに行ったことなかったか?」
「行きましたね。楽しかったですよ。」
「...そーかよ。」
図書室から出て廊下を徘徊する私達。
「さて、次はどこ行くかな?」
「ん?あのお部屋は何ですか?」
私が指を指した方では召使い達が木箱を何箱も談話室の隣の小部屋にしまっていた。
「酒。」
「...?酒?」
「談話室で飲む酒の補充だな。見てみるか?」
「はいはいはーい。」
召使い達の作業はすぐに終わったらしくそれから部屋を覗けば六畳程の落ち着く広さの空間にこれでもかとお酒が置かれていた。
ん?ここなんか少し寒い?
肌寒く感じ腕を少し擦っているとアポロお兄様が説明してくれた。
「ここはユーノの親父の魔法陣で室温が一定に保たれているんだよ。その方が酒が美味いとかって言っててな。」
「ワインクーラー!?この部屋全部!?えっ?これお父様達だけで飲むの!?」
「おう!!うちの家族は酒が強いの揃ってるからな。
グラッドの親父なんて一人で十本以上飲んで翌日、ケロッとしてるしな。」
「...はい!?そんなに!?平気なの!?」
完全にワクだよ。...お父様達お酒は程々にね。
「ところでよ。お前、前世は酒好きだっただろう?」
「なぜそれを!?どこからバレたの!?」
「いや。カン。
でだ、リリアナ。美味い酒のツマミ作ってくれよ。なっ!頼むよ。」
「...分かりました。何か作ればいいんでしょう。でも料理人さんが忙しかったらダメですからね!!
ではアポロお兄様!厨房へ発進!!」
「了解!!」
ふざけて髪をコントローラーの様に引っ張れば数本抜けちゃった。




