番外 夏の休憩
評価、ブクマありがとうございます。
これで番外編の更新は終わりになります。
次章はお休みを頂いて来週月曜から更新を再開する予定ですが、更新時間の変更を考えております。
本日もお楽しみ頂ければ幸いです。
ここ最近続いた厨房通いも一段落したので今日は何もしないと決めた日。
「フォールーカ―!氷ちょうだい。」
「...いきなりどうなさいました?」
居間でフォルカーに氷を出してとお願いすれば警戒をされながら聞かれた。
まだ何もしてないのに警戒しなくてもイイじゃん。
「今日は何もしないって決めたから東屋で足湯をしながらのんびり文字の勉強をしようと思ったの。」
「左様でございますか。お勉強とは殿下は熱心でいらっしゃいますね。」
そこまで熱心だとは思わないけど...本読めないってつまらないからね。
「そんな事はないと思うけど...とにかく今日は暑いから氷水を作りたいの手伝って。」
「そういう事でしたら喜んでお手伝いいたします。」
東屋の足湯には水と火の魔石が組み込まれているけど、私は魔石の使い方を知らないからついでに教えてもらおう。
「ねぇ。フォルカー。魔石は私にも使えるんでしょ?
使い方を教えてよ。」
「殿下が使用なさることはないとは思いますが...
そうですね。知っておいた方がよろしいでしょう。
魔石にはそれぞれの属性の魔力が蓄えられている事はお話したと思いますが、それをそのまま使用することは出来ません。魔道具の様に複雑な魔術陣が必要になります。
この足湯の場合はここ二か所に感知する場所が付いておりますので手をかざせば火や水が出るます。
一度使用してみますか?」
「うん。やってみる。」
言われた通り水が出る方に手をかざせば水が勢いよく出てきた。
「これ止める時はどうするの?」
「同じです。手をかざしてください。
居室の明かりも同じようにすれば付きますのであとで感知の場所をお教えいたします。」
「分かった。ありがとう。
で、お願いなんだけど...これに氷を少し浮かべてくれない?」
「はい。かしこまりました。」
そう言ってフォルカーが手を向けると手から大人の握りこぶし位の氷がいくつも出てボチャボチャと水の中に落ちていった。
本当に夏には最適の魔法だね。
「ありがとう。
私はしばらくここにいるからね。」
「かしこまりました。それでは下がらせて頂きます。」
しばらくは大人しく絵本を読もうとしていたが。
「あーきーたー。」
そのまま仰向けで横になれば心地よい風が吹き抜けた。
気持ちいー。暖かいし、風が気持ちいいし、足は冷やっこいし。最高。
眠たくなってきたかも...
「あれ?殿下お一人ですか?」
「ん?リカだぁー。そうだよ。お一人だよ。」
少しだけ体を起こして確認すれば長袖のスーツを着たリカがこちらにきた。
いつも皆、長袖なんだよね。夏用のスーツでも暑いだろうな。
「リカも入るー?」
「入るって何に出すか?」
「足湯―。」
スカートを膝までたくし上げて氷水に入れていた足を少しだけ上げて水から出せば焦ったようなリカの声が届いた。
「殿下!何をなさっているのですか!!足を出すなどやめてください。」
えー。ここ私の部屋の庭―。
そういえばアピスが言ってたね。足は出しちゃいけないって。
「だって足湯だよ?濡れちゃうじゃん。」
「何ですか足湯って。」
「これ。入れば気持ち良さが分かるよ。」
それ以上の説明をする気力は今はない。
「...アピスとフォルカーさんは?」
周りを窺いながらリカが少し声を落とし聞いてきた。
「どっか行ったー。暑いでしょ?入れば?」
「...じゃあ少しだけ。」
そう言って革靴を脱ぎスーツの裾をまくったリカが反対側に腰かけゆっくりと足を入れてきた。
それなりに広いからねー。もう二人位足入れてもきっと余裕だよ。
「冷たいですね。あー。これ冷たくて気持ちいいや。」
「フォルカーに氷出して貰ったの。本来はお湯なんだけど暑いじゃん。」
「そうですね。もうすぐ暑さも和らぐとは思うんですけどね。
はぁ。俺もちょっと休憩。」
上着を脱ぎシャツの襟もとをくつろげたリカが私と同じように反対側で寝ころんだ。
心地いい風が吹き抜ける。
目を閉じて聞こえてくるのは葉を揺らす風の音と水が流れる音だけ。
まるでこの場所だけ切り取られた様にゆっくりと時間が進む。
しばらく心地よく微睡んでいるとリカの寝息が聞こえてきて私もつられるように意識を手放した。
お昼寝から目覚めた私とリカに待っていたのはアピスとフォルカーからの長いお説教だった。




