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嵐の夜。ヒタヒタと姿を消して歩き回る幼女が一人。
後宮探検隊!隊員リリアナです!
廊下って真っ暗ではないんだね。間隔を置いて明かりがついてる。
これも部屋の明かりと同じく魔法なのかな?魔法の使い方、誰か教えてくれないかな?
さて、遠くにいても分かるこの騒がしい部屋は...談話室?かな。
じゃあ騒がしいのは、あっ。やっぱり。王族の大人組だ。
声だけだから誰がいるのかわかんないね。さすがに中に入ったら見つかるだろうし...
「リリアナの作った料理は上手かったな。」
「そうですね。まさかあれ程美味いとは思いませんでした。」
「甘すぎない菓子というモノもあるのですね。」
「おい。クロノ。それもう食ってんのか?」
「はい。美味しいですよ。この草のクッキーもなかなかいいですね。」
「酒のつまみ...にはならなそうな味だな。」
「ツヴァイ。貴方は少し酒量を減らしたらどうですか?」
「...売れそうな味だな。」
「森の妖精王様への贈り物ですので売り出すのはどうかと思いますが?」
「あっ!ねぇ父上。王家から森の妖精王様の御礼はしなくていいのですか?」
「そのことか...」
「リリアナの魂の救済。この前の両手の治療。そしてあの空中庭園の創造。リリアナの誘拐事件の主犯という事を差し引いても大恩がありますが、王家としては御礼はいたしません。」
「えっ!?なぜですか!?」
「森の妖精王様に御礼品はいらぬと言われたのだよ。
これはおじい様から伺った話だが。『人に物を望む事などない。...だが礼というならばリリアナの元に遊びに来るときに騒ぐな。俺は友人に会いに来ているだけだ。』との事だ。なので、森の妖精王様に対して今のところ王家で何かをする事はない。」
「さようですか...それが森の妖精王様のお言葉ならば。
あっ、少し変わりますが、リリアナから我々に森の妖精王様から頂いた果物が届いておりますが、それは好きにしてもよろしいですか?」
「それはリリアナへの贈り物だからな。リリアナが良いなら構わんだろう。」
「ありがとうございます。では皆で感謝の祈りを捧げながら頂くことにしましょう。」
「あっ。忘れてた。父上。デザイナーと服飾ギルド長の調査結果が出ましたよ。デザイナーの方が非合法の薬の売人みたいですね。服飾ギルド長もいろいろやってますね。挿げ替えますか?」
「服飾ギルドか。...確かこの間、変わったばかりだったろう?」
「えぇ。その前任者の降格もこのギルト長が暗躍してたみたいですよ。どうします?」
「どうもしない。
あれらが我が国の第一王位継承者を軽視して王宮からつまみ出されたんだ。貴族としては終わりだろう。その服飾ギルド長がどれほど椅子にしがみ付いても貴族社会で終わった者がギルドの長に居座り続けることなど不可能だ。
...だが、デザイナーはすぐに捕らえろ。薬の売買は重罪だ。」
...王族怖い。
悪い人達だったんだろうけどお酒飲みながら自分の行く末を決められちゃたまんないよね。自業自得だろうけどさ。
ここいると幽霊より寒くなりそうだから他の所に行こう。
「ん?」
「アポロ。まだだ。」
「気づいていたのかよ。親父。」
「当たり前だ。もう少し経ったら行くぞ。いたずら好きを捕まえにな。」
「夜更かしくらい許してやれよ。」
「ダメだ。ここ二日続けて起きれてないからな。」
「...ルークは起きてた事なんて一度もないぞ。」
「ユーノ。ルークの事なんだが...」
さてさて、適当に歩いてきたけど幽霊は見つからないね。
ー幽霊を探していたのですか?そんなもの今この場所にはいませんよ。ー
なんで言い切れるの?
ー森の妖精王が空中庭園を造るのと同時に悪しき者は祓ってましたから。ー
何ですと!?森の妖精王ってお祓いまで出来るの?
ー出来ますよ。
それにリリアナの居室は森の妖精王が造った結界に護られてますから悪しき者はもちろんリリアナに対して悪意のある者も入れませんよ。ー
ナニソレ...聞いてないよ。
ー聞いていないのではなく、森の妖精王に話す気がなかったという事でしょう。
知らない振りをしてればいいんです。長く生きているせいで心配性なんですよ。ー
...うん。分かった。
...お礼、手作りお菓子とかじゃなくて他の物にすればよかったかな?
ーふっふっふ。大丈夫ですよ。
それでも気になるなら今度遊びに来た時にたくさんありがとうと伝えればいいんです。
妖精は物より気持ちの方が嬉しいものですから。ー
うん。...分かった!今度いつ遊びに来るのかな?それか私がまた遊びに行くっていう手もあるよね。
ー今度、森の妖精王の城へ行くときは私も連れて行ってくださいね。ー
うん!スイキンも一緒に遊ぼうね!
あれ?ここで行き止まりだ。
扉は...あっ。空いてる。入ってみようか。
...何も見えない。何か明かりないかな?
あれ?ついた。
ーつけましたよ。ー
スイキン。魔法が使えていいなー。私も早く使いたい。
ーリリアナ。魔法を決して使おうとしてはいけませんよ。ー
何で?
ー幼いうちは魔力の制御が出来ないので暴発の危険があるのです。
もしリリアナが使おうとしたら...―
暴発?使おうとしたら?
ー......頭が吹き飛びます。ー
絶対使わない!やだ!!死にたくない!!!
ー7歳まで使わなければいいのです。分かりましたね。ー
うん。絶対に使わない。使おうともしない。
ー本当にお願いしますよ。もし本当にそうなると私や森の妖精王でも治療は不可能ですからね。ー
あっ!うん。分かった。絶対ね。約束する。
ーはい。約束です。
ここは誰かの部屋みたいですが...どなたでしょう?ー
「多分、お父様だよ。この赤に金の派手マント見覚えあるもん。
執務室ってやつかな?」
室内は落ち着いた?...渋い?これと言って特徴のない部屋に大きな机に書類が積まれていてソファとローテーブルと本棚がいくつか置かれているだけのシンプルな部屋だった。
あれ?本棚の一番下の戸棚少し開いてる。
「あっ。ワイン発見。」
「ワイン?この赤い水の事ですか?」
「うん。ブドウを発酵させたお酒だよ。大人にならないと飲めないの。」
「美味しいのですか?」
「人による。...でも、ここに隠してあるって事は美味しいんじゃないの?」
「飲んでみましょうか?」
「えっ?私まだ飲めないよ。」
「では、あとで飲みましょう。」
そういってスイキンが鼻で赤ワインに触れると赤ワインが消えた。
あー!昼間のうっきー君と同じ手だ。
「あっ。ちょっスイキン。まっ...」
...戸棚のワイン全部消しちゃったよ。どうしよう。お父様になんて言おう。
考えながらソファに座ればローテーブルの上にデキャンタで水が置いてあったことに気が付いた。
...ちょっと休憩。疲れた。お水もらおう。
うぅぅ。それにしても赤ワインどうしよう。
この水、変な味?...あれ?...世界が周る?!
ドサッ!!
「リリアナ!?どうしました?」
「おい!リリアナどうした!?」
「海の妖精様!何があったのですか?」
「あっ!貴方方は!!リリアナがその水を飲んでいきなり倒れたんです。」
「これですか?...これは白ワイン。」
「目...ま.わ...る」
「酔っぱらってんなこりゃ。
あー。親父。リリアナは上に連れてくぞ。
っと海の妖精様大丈夫。リリアナは酒飲んで酔っ払っただけだ。寝れば治る。」
「本当ですか?
あぁ。リリアナ良かった。ワタクシが付いていながら...」
「なんでローテーブルの上にワインが出てんだ?
はぁ...ツヴァイに禁酒でもさせるか。」




