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...まだ夜なのに起きてしまった。
きっとあれだ。変にお昼寝したからだ。
しっかりと目がさめてしまったからすぐに眠れそうにないし...
寝室は暗く窓に打ち付ける雨音は激しい。風も強いみたいだしこれは嵐だね。後宮の建物はしっかりしているから恐怖を感じる程の事ではないけど...少し煩いかな?
...そういえば、昼間グレイシアお兄様が後宮には幽霊がいるって言ってたよね。本当にいるのかな?後宮内を一人で出歩いたことないから...
...
......
.........
後宮探検隊!隊員リリアナ。出発します!!
この格好じゃ少し寒いからノアに作ってもらった黒猫さんのフード付きタオルガウンを羽織って...よし、準備完了!
抜き足差し足。
よし!襖の隙間から見た限りじゃ居間には誰もいない。
ラグが敷いてあるから足音が響かなくていいね。
居間を通ってそーっと廊下の扉に近づき耳を当てれば...
よく聞こえないけど誰かの話声が聞こえる?
このままフラフラしてたらすぐに見つかってゲームオーバーだね。
...!!あっ!そうだ!!
音を立てないように寝室に戻りゆっくりと化粧部屋を通りお風呂場へ。
スイキン。いるー?
「リリアナ?こんな夜更けにどうしたのですか?」
しーっ。今、探検してるの。私一人じゃすぐに見つかるから手伝って。
ー...はぁ。仕方ありませんね。体はもう大丈夫ですか?ー
体?あぁ!湯あたりしただけだから大丈夫だよ。心配かけてごめんね。
ー人の子は自分が思っているより脆いものです。十分に気を付けてくださいね。ー
はーい。ごめんなさい。...でも楽しかったね。
ー私も楽しかったですよ。どうすればいいのですか?ー
前みたく姿を消してくれない?
ー分かりました。ー
スイキンを抱っこして魔法を使ってもらい今度はお風呂場の使用人用の出入口から音を立てないように慎重に少しだけ扉を開けて廊下を覗いた。見える限り廊下には誰もいない。
よし。進めるね。
廊下を中程まで進むとまた話声が聞こえてきたので周りを窺いながら慎重に先に進む。
階段までたどり着き周りを見渡すと階段の先。奥の側仕え用の休憩室の扉が少し開いていた。
話声はここからだ。
...この部屋は誰の部屋なんだろ?
今まで以上に慎重に音を立てないように扉の横に張り付けば扉の隙間から会話が聞こえた。
「ほら、アピスも飲もうぜ!」
「リカ。俺はお前に昼間、酒を飲み過ぎるなと注意したはずだが?」
「まだ、一杯だけだろ?ほら、フォルカーさんも飲んでるしさ。親睦を深めるためとでも思ってさ。」
「フォルカー。お前まで一緒になって...」
「すみません。ラナンキュラス様。どうしても断り切れずに...」
「いいじゃんかよ。少しくらい。殿下の側仕えを外れるまで禁酒とか無理だし。」
「はぁー。...外で羽目を外されるよりはマシか。
俺にも寄こせ。
フォルカー。お前もいい加減に俺を家名で呼ぶな。リカのいい加減さを少しは見習え。」
「いい加減ってなんだよ。あっ!氷とけてる。フォルカーさんよろしく。」
「ラナンキュラス様!?よろしいのですか?
...リカ。魔法は本来そういうモノではないだが...」
ガラガラガラガラ
夜の暗闇に何かに固い物を入れる音が響いた。
ーおや。あの者、雪魔法の扱いが上手いですね。ー
分かるの?
ーはい。小さな氷の塊を出すという事は人の身では難しい事でしょう。ほとんどの者が氷の中に閉じ込めてしまうと思いますよ。ー
へ―。かき氷食べ放題出来そうだよね。最近暑くなってきたからいいかも。
ーかき氷とはなんですか?ー
今度作ってあげるよ。フォルカーに手伝わせてかき氷かアイスクリーム作ろう。お兄様達も喜ぶでしょ。
「...このワインどこのだ?中々だな。」
「これ?これは...オルタ国のワイン。」
「へぇ。あの国のワインか。」
「聞いた話ではオルタ国では我が国では出回らない食材もあるとか。」
「フォルカー。それ、殿下には言うなよ。」
「そうだよ。殿下ってば、お姫様なのに厨房に入るとか言い出したお人だよ。
今度はオルタ国に行くとか言い出すに決まってるよ。それに前に旅したいってツヴァイ様達に話していたじゃん。」
「あの話し合いか。」
「そう。俺あの時マジでビビったからね。森の妖精王様に妖精様達って伝説だよ!?」
「凄かったですよね。最近は妖精様達が俺達にも気安くお声がけされるようになって。森の妖精様を肩に乗せた時は心臓が止まるかと思いました。」
「ふっ。そういえばそんな事もあったな。
...俺は森の妖精王様がこの空中庭園を御造りになられた時が一番驚いたがな。
いや。殿下の手を治療されるのに惜しげもなく秘薬と不老不死の果実を頂いた時かな?」
「「あー。」」
「やはりラナ...あれはやはりアピスさんも驚かれていたんですね。」
「お前、俺を何だと思っているんだ?」
「いつも愛想笑いだからじゃね?
そういえばさ、殿下がアピスの笑顔の見分け方を覚えたみたいでたまにビビってるよな。後ろからでもヤバイ!!って書いてあるから面白れぇけど。」
「殿下は思われている事が素直にでますよね。初めて厨房に立った日なんて特に。
それに俺はあの日、リカと殿下を二人きりにしない方がいいという事がよく分かりました。」
「そうだな。この二人が揃って何かを始めたら止めたうえで、すぐに知らせろ。」
「待てよ。何で?むしろ俺、殿下の事止めてるよ?」
「「二人でいると何をしでかすか分からん。/分かりません。」」
ここにいると明日、立ち直れなくなりそうだし、話が長そうだから先に進もう。
...これ見つかったらお説教コースだろうなー。
夜は長いからね。頑張れリカ。
階段下を覗いたら近衛騎士が四人もいた。
多いね。夜勤ご苦労様です。
本当に外は嵐で煩くて、床が絨毯で足音が消えるから探検隊には最高の日だね。
ゆっくりとぶつからないように近衛騎士達の隙間を通り抜ければ...
「ん?誰かいるのか?」
「どうした?...なにかいるな。」
なぜバレる??気配とか動物的な何かなの?
「見えない。だが...いるな。お前達二人はそこから決して動くなよ。
行くぞ。」
「「「はっ。」」」
そう言った班長さん?がゆっくりと止まった私に近づいてくる。
えっ?まずいどうしよう!!走る?音出るよ。それに私の足じゃすぐに捕まる。
...一か八か走るか!!
ーリリアナ。ゆっくりと離れてください。転ばないように気を付けて。ー
スイキンせんせぇ!!わっわかった!!ゆっくりね。...ゆっくり。
チュウ!
ゆっくりと階段から離れる私の足元にいきなり灰色のネズミが出現した。
「ネズミ?こんなところに?
...ったく。召使い達は何やってんだ。殿下の居室のすぐ側だぞ。
おい。問題ない。ネズミだ。今から捕らえる。」
ネズミを発見した班長さん?は後ろの人達に声を掛けてからおもむろにネズミに手を伸ばした。が、あっさりとその手を躱してどこかへ逃げていった。
...スイキンあのネズミ。
ーおや。やはりリリアナには分かりましたか。そうですよ。あれは水の妖精です。ー
やっぱり。いきなり足元に現れたし、逃げたというより消えた様に見えたからね。
ーふふっ。ちょっと手伝ってもらいました。ー
ありがとう。助かったよ。あのネズミさんにもありがとうって伝えてくれる?
-分かりました。伝えておきましょう。-
さて、どこに行こうかな?あっちが騒がしいみたいだから行ってみようか。




