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掘り炬燵でフォルカーにプレゼントでもらった絵本を読んでもらうことにした。まだ文字が読めないのでフォルカーの膝の間に座り絵本の文字を目で追っていく。
絵本の内容は勇敢な男の子が悪いドラゴンからお姫様を救い...ZZZ...ZZZ
...寝てた。
いつの間にか寝てた。体を起こすとラグの上でブランケットを掛けて寝てたらしい。ショボショボと目を擦りながら周りを見渡すともう室内は薄暗く雨が降り続く音が聞こえた。
あれ?誰もいない?
...廊下から少しだけ話声が聞こえる。誰だろ?
こっそり。足音を立てないように扉まで歩けば話声が次第に鮮明になり始めた。
「いや。だって...」
「だって、なんだ?
召使い達と賭けをした件か?それともお前専用の休憩室に酒瓶があふれている事か?どちらの言い訳だ?」
「...」
「いいか。お前が業務外で何処で何をしようとも構わないが後宮内ではやめろ。
殿下の醜聞にも繋がる。ただでさえ殿下の行動は理解不能で読めないんだ。お前まで問題を起こすような事はするなよ。」
...今、アピスがリカを怒りながらも私も落とすっていう高等技術を披露しなかった?
私、問題児なの?理解不能って言われるほど何かしたっけ?
...やったのは脱走一回だけだよね?
あっ!やば!!
話が終わってこっちに来る!
急いで寝ていて場所まで戻り寝たふりをした。
そういえばこの部屋の明かりってどうつけるのかな?
入って来たアピスが軽く手を振ると天井に取り付けられていた明かりがついた。
はい?...魔法!?そうなの?明かりって魔法なの!?
「殿下。起きてらっしゃいますね。」
「ひゃ!ひゃい。」
寝たふりに気が付いているし。少し気まずくなりながらも体を起こすといつも通りの業務用のキラキラ笑顔がそこにあった。
「そろそろ夕食会のお時間ですので、一度、御髪を整えさせていただきます。」
もうそんな時間なんだ。よく寝たね。
「分かった。よろしくね。」
晩餐室に行けば本を読むクロノお兄様と輪になって話す年少3人組がもうすでにいた。
「あっ。リリアナ。」
お兄様に呼ばれて年少組にお邪魔した。
「お兄様達お早いですね。」
「あぁ。今日は勉強が早く終わったんだ。」
私の言葉にユリウスお兄様が答えグレイシアお兄様が聞いてきた。
「もう森の妖精王様への贈り物は贈ったの?」
「はい。うっきー君に持って行ってもらいました。」
「森の妖精王様、喜んでくださるといいね。」
「そうですね。お兄様。...」
席に座って本を読んでいたクロノお兄様が立ち上がってアピスに話し掛けているのが視界の端に見えた。すっごい意外な組み合わせ。
「どうしたの?」
「いえ。そのクロノお兄様がアピスと話していて珍しい二人だと思いまして...」
私のその言葉でお兄様達が勢いよくクロノお兄様とアピスを見た。
ちょっ!そんな一気に!バレるから!!
「あぁ。あの二人なら珍しくないよ。」
「えっ?グレイシアお兄様?」
「なんで?リリアナの側仕えとクロノお兄様が?」
「意外だよな。しかも親しそうだし。」
ユリウスお兄様正解。
私が驚いた一番の理由はアピスが業務用の笑顔じゃなくて普通に笑ってる事なんだね。
答えが知りたくてグレイシアお兄様を見上げると頭を撫でられた。
「お前達。知りたいか?」
グレイシアお兄様が二ヤリと笑いながら順に顔を見渡して聞いてきたので揃って即答した。
「「「知りたい!!!」」」
「あの二人はな、実は御学友って奴なんだよ。」
「「ゴガクユウ?」」
「学校で共に勉強をする友達の事ですね。」
「えっ?チッ!リリアナ御学友。知っているんだ。」
グレイシアお兄様。舌打ちしない。...自慢したかったんだね。
「えぇ。ではあの二人は?」
「二人は騎士学校の同期でクロノお兄様はアピスがいたからずっと次席だったらしいよ。けど仲はいいんじゃないかな?休みの日に二人で遊びに行ったことも確かあるしね。」
「へー。そうなんですね。意外な組み合わせですね。」
「リリアナからは意外に見えるのか?」
「グレイシアお兄様!僕も学校に行ったらお友達が出来るのかな?」
「今の家庭教師じゃなくなるのですね。御学友か...」
お兄様は無邪気だね。友達百人できるかなってね。で?ユリウスお兄様はどうしたの?
「ユリウスお兄様?」
「ん?いや。その...なんでもない。」
気のせいかな?
料理人が夕食のメニューとしてキッシュとシフォンケーキを出せば朝のレオナルドお兄様の予想通り全員が召し上がって高評価をもらった。お兄様達は昼食のメニューまで話題に出して話題の尽きないにぎやかな食卓だ。
甘いモノが苦手と言っていたアポロ兄様の為にキッシュを用意したハズなのに一番多くシフォンケーキを召し上がっていた。どうやらこの世界のお菓子が甘すぎてイヤだったらしい。
帰り際にラッピングしたクッキーを一袋ずつ渡せば皆、笑顔で受け取ってくれた。そして私室に戻った私に待っていたのは...
待ってました!!ゆっくり!のんびり!お風呂タイム!!
昨日は王族全員集合でゆっくり入る気力が奪われたからね。今日こそはのんびりするんだ!いつものんびりしてるとか自分で思っても言わないで。
化粧部屋で湯着に着替えたら。
さぁ!
いざ!!
ゆかん!!!
「殿下。走っては危険です。」
早く行こうとする私に冷水を浴びせる言葉と共に片腕で抱き上げられた。
「...まだ走ってないよ。...アピス。なんで私を持ち上げたの?」
「今の殿下では走り出しそうですからね。」
「お風呂、一人で入れるよ。」
「万が一もございますので、御側に侍らせて頂きます。」
「...やだ。」
やだよ。いくら子供の姿だってお風呂場にまでアピスが付いてくるのやだ。
キラキライケメンの完璧王子っぽい腹黒オカンと一緒にお風呂なんてやだ。
「ヤダー!!一人で入る。入れるもん!!」
この際、恥じなんて言ってらんない力の限り暴れちゃる!!
「殿下。...申し訳ございません。聞き分けてください。」
そのままお風呂場へ連行されたのでギャンギャン喚いているとお湯を頭から一気に掛けられた。
「ブっ!!」
...扱い雑じゃね?
抗議をしようとするたびにお湯を掛けられたので、仕方なく大人しくアピスに頭から足まで洗われているとフヨフヨとピンクのゾウが飛んでいたのを見つけた。
「スイキン!?なんでお風呂場にいるの?」
「お風呂場というのですか?ここは水の力が強いのでワタクシには過ごしやすいのです。」
「ねぇ。アピス。スイキンと一緒ならいいでしょ?ダメ?」
可愛くアピスを見上げておねだりすれば許可をくれるはず。
「ダメです。」
即答かよ。
「ちぇー。
...今からお風呂に入るからスイキンも一緒に入ろうよ。」
「...お風呂?」
「暖かい水につかる事だよ。気持ちいいよ。」
「暖かい水に浸かったことはないですが...そうですね。ご一緒しましょう。」
スイキンは私が洗ってから二人でお湯につかり、遊び始めたらもう止まらなかった。
湯あたりするまで遊んだのでアピスにこれからもお風呂に入るときは必ず誰か一人が付くことを約束させられた。
...反省。
あぁ。湯上りの体にはデトックスウォーターが美味しい。
今夜はよく眠れそう。




