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昨日はあれから大変だった。
水琴窟に案内したらお父様は地面にへばりついて音を聞きだすし...アザリーお父様とアポロ兄様は鍛錬し始めるし...グラッドお父様は何故か室内の査定を始めているし...エルフ組はお供え物をした木に向かって拝み始めるし...そしてアピス達がお風呂にまで一緒に付いてくるっていう事実。
もう疲れすぎていて拒否する気力もなかったよ。
そんな私が翌朝起きれるハズもなく...
「...ん?」
周りを見渡すと晩餐室で着た覚えのない服を着て食事中だった。
「おっ。起きたか。」
「おはよう。リリアナ。ジャム頂いているよ。」
「おはよう。甘い果実もパンに合うのだな。」
上からアポロ兄様、レオナルドお兄様、お父様。
「おはようございます。」
また起きれなかったか...左を見ればお兄様はまだ寝てた。
食事を始めようとスープに手を伸ばし一口飲むと、ベーコンのしょっぱさと玉ねぎの甘さが絶妙な野菜コンソメスープだった。
「あれ?野菜コンソメだ。デュークもう作ってくれたんだ。美味しい。」
「野菜コンソメというのか?このスープは。」
「ん?いつもと違ったのか?」
「アポロ。気が付いてなかったのか。」
気が付かなかったアポロ兄様は置いておいて。
「料理人は凄いですね。少量を作って見せただけなのにこんなに美味しく作れるなんて。」
「そうだな。さすがは料理人だな。それにしてもこのスープは優しい味で美味いな。」
「はい。そうですね。
リリアナは凄いな。こんなスープを作れるなんて。」
レオナルドお兄様に褒められたけど...なんか違う気がする。
「レオナルドお兄様。褒めるならこれを作った料理人を褒めるべきではないですか?私は凄くありません。」
大体、私は抱きあげられていただけだからね。
「でも、リリアナの前世の料理なんだろう?」
「それはそうですけど。
何十年も何百年も料理人が積み重ねたレシピを偶々私が知っていただけです。庭の水琴窟も襖もそういう文化で育ったというのを覚えていただけです。私が凄いわけではありません。
それにレシピを知っていれば作れるという事でもありませんから。
褒められるべきは私の下手な説明を理解してこれだけのモノを作り上げた料理人や職人にするべきではないですか?」
「...そう、だな。リリアナの言う通りだな。」
それだけ返したレオナルドお兄様は側仕えを呼んで何かを言付けた。
「で?リリアナ。今日は何するんだ?」
急いで晩餐室から出て行くお兄様の側仕えを見ていたらアポロ兄様に声を掛けられた。
「今日は...森の妖精王への御礼のお菓子を作ります。」
随分先延ばしにしてしまったけど今日なら一日空いているからたくさん作れるからね。
「なんだ。菓子を作るのか...肉は?」
「お菓子嫌いなんですか?お菓子にお肉は使う予定はないです。」
「甘ったるいモノはなどうにも...な。まぁなんか作るなら俺の分もよろしくな。」
アポロ兄様。甘いの嫌いとか言いながら食べる気なんだ。
「では俺の分も頼むよ。」
「では、私の分も。」
「僕の分も。」
「おや。では私の分も。」
上からレオナルドお兄様、お父様、お兄様、ダリオお父様。
...毎回、一気に増えすぎ!!
お兄様いつ起きたの?
それにいつから話を聞いてたのダリオお父様?
「分かりました。皆の分も作ります。」
ジャムも皆、食べてるみたいだからそれが一番でしょ。残っても私がおやつで食べればいいし。
「あっ。お兄様おはようございます。」
「おはよう。リリアナ。僕は果物が入った甘い物が好きだよ。」
お兄様。挨拶ついでに好みという要望を混ぜないでください。
朝食が終わり空中庭園からハーブを摘んで、厨房に行けばすでに連絡が届いていたらしく昨日より多くの料理人が待ち構えていた。ちなみに私を抱いて厨房に入るのは昨日と同じくリカ。
「リリアナ殿下!お待ちしておりました。」
「お邪魔します。デューク。今日もよろしくお願いします。」
「はい。よろしくお願いします
本日は森の妖精王様への御礼の品を御作りになられるとかお伺いしましたが。」
「今日はそのつもりです。時間がかかると思いますがよろしいですか?」
「もちろんです。本日はまた手伝いが増えましたので御存分に申し付けください。」
「ありがとうございます。あっ。今日の野菜コンソメスープ美味しかったです。レオナルドお兄様もお父様も美味しいと仰ってました。」
「嬉しいお言葉をありがとうございます。ツヴァイ様やレオナルド様にそのお言葉を頂けたのもリリアナ殿下あっての事でございます。」
「そんな事はないとは思いますよ。レシピは知っているから作れるというモノではないですからね。
さて、今日は先程も言ったように、森の妖精王への御礼やお父様、お兄様にも渡すために作るので色々と作ります。作る物はもう決めてあります。
まず、シフォンケーキを3種類、クッキーを3種類。それとアポロ兄様にキッシュ。それからおやつ様にホットケーキが食べたいです。工程も沢山あるのでグループに分けて作業した方が早いと思いますがどうですか?」
「そうですね。それが早いでしょう。組み分けはこちらでいたします。
材料は何が必要でしょうか?」
「まず、小麦粉。薄力粉があればそれがいいです。全体的にあと必要なのは卵と砂糖とバターですね。シフォンケーキは昨日作ったブルーベリージャムとバナナ。クッキーは採ってきたローズマリーとやっぱり昨日のジャム。キッシュの生地はいいとして。ホットケーキは牛乳とはちみつが欲しいです。」
「かしこまりました。材料をすぐに取ってこさせます。
それからそのローズマリー?でございますか?お預かりいたします。」
「はい。これはハーブという草の一種です。水で丁寧に洗ってください。」
「かしこまりました。材料は似たようなものなのですね。
では、まずはどうなさいますか?」
「シフォンケーキは卵を卵黄と卵白に分けて卵黄には水とサラダ油を卵白はツノが立つまで泡立ててください。次にキッシュは薄力粉、バター、卵を混ぜ合わせて冷蔵庫へしばらく休ませます。」
「生地を休ませる?」
「はい。しばらく冷蔵庫に置いておくんです。そうすると生地がなじんで...なんていうんでしょう?少し変わります。」
「変わる?...あっ!失礼いたしました。」
「いいえ。私も上手く答えられなくて...
クッキーは薄力粉をふるいにかけ、バターを白くなるまで混ぜます。ホットケーキも卵を卵黄と卵白に分けて卵黄には少しずつ砂糖を加えて混ぜて卵白はツノが立つまで泡立ててください。」
「かしこまりました。」
一斉に調理を始めた料理人の手際のいいこと...さすが本職。
ほんとっに手伝わせて申し訳ないね。
それから厨房の真ん中に立ったリカに抱き上げられてレシピを口で伝えればすごい勢いで料理人が作ってくれた。
やることないね。なにも触らない約束だけど...今更だけど私が作ったって言っていいのかな?
...少し遠い目をしながら厨房を見渡していれば今日は何かの骨を見つけた。
「ねぇ。デューク。あれは何の骨?」
「あれは本日のメインの鶏の捌いた廃棄予定の骨ですね。...まさか!!」
驚いた様子のデュークが私を見ていたので笑って言った。
「今日はトリガラだね。...うん。好きだよ。」
「...かしこまりました。煮ればよろしいのですか?」
「先によく洗って血合いとかよく落として、それから湯引きしてキレイにしてから煮込んで。臭み取りにショウガとネギも一緒に入れると美味しくなるよ。あっ。あと、煮込むと灰汁が出てくるからそれは絶対に取り除いて美味しくなくなるから。」
「かし「リリアナー!!いるー?」
...この声は?お兄様だ。
厨房の入り口を見ればお兄様が...勉強組のお兄様達が連なって顔を覗かせていた。
「「「「「「おっ王子殿下!!」」」」」」
あーあー。
お兄様達が顔を覗かせたことによって作業を中断して皆、頭を下げ出しちゃった。
「皆さんは作業を続けてください。
お兄様。皆さんの作業の邪魔です。決して厨房内には入らないでください。」
「えー!」
残念ながら抗議の声を上げたのはお兄様ただ一人。
「えー。じゃありません。ダメです。厨房は遊び場ではありません。」
廊下に出てリカに降ろしてもらいお兄様に話し掛けた。
「で?お兄様達が揃ってどうされたのですか?」
グレイシアお兄様とユリウスお兄様は厨房が珍しいのかまた入口から中を覗いている。
「ハリさんにリリアナが厨房で何かを作ってるって聞いたから遊びに来たんだ。」
お兄様に子供らしい無邪気な笑顔で教えられて思わず頬が緩むのが分かる。
かーわーいーいー。
お兄様の笑顔に浮かれている私の鼻先にいきなり風が渦巻いて黒い丸が二つ鼻に引っかかった。近すぎてよく見えないけど多分、空の妖精のハリさんかな?
「ふっふっふっ。今日はいつもと違ってハリさんも一緒に来たぜ!!
ということでリリアナー。俺にもお菓子ちょーだい。」
やっぱりハリさんだった。
何がという事なの?あとハリさんキャラ変わりすぎ。
お菓子ねー。あっ!ちょっと待って。
「お兄様。ちょっと待っててください。」
急いで厨房の入口からデュークに声を掛け出口まで来てもらう。
「デューク。お兄様達の昼食ってこれから作るの?」
「はい。丁度あの者達作り始めますが...?」
そう言って手を伸ばした方を見ると確かに数人作り始めていた。
「...お兄様達とハリさんの昼食にホットケーキを追加で作れる?」
「御作りすることは可能です。御一緒にお出ししますか?」
「お願い。味見程度でいいからね。
あっ!あと倉庫の森の妖精王からの果物が食べたい。」
「かしこまりました。それならばすぐにご用意できます。」
「お願いします。
お兄様達と一緒にお昼を食べて、それから後でまた来ます。」
「はい。またお待ちしております。」
少し離れた廊下で待ってくださっていたお兄様達に小走りでよれば会話は昼食の事だった。
「んー?天気が悪いから晩餐室だな。いいですよね?グレイシアお兄様。」
「うん。いいよ。さて、ここにいては使用人達の邪魔になるからね。
それまで談話室でゲームでもしてようか?」
「ゲーム?どう言ったモノなんですか?」
「あれ?リリアナはもしかして談話室に行ったことがないの?」
「えぇ。たぶん...」
「じゃあ、なおさら行こうか。」
そう言って手を伸ばされたのでその手を掴むとお兄様が
「グレイシアお兄様!!ずるいです。僕もリリアナと手を繋ぎたいです。」
「反対の手が空いているだろ?」
「でも!そうするとユリウスお兄様が...」
「えっ?俺!?俺は別にいいよ。」
「お兄様とユリウスお兄様が手をつなげば四人で手を繋げますよ。」
「...その手がありました。ユリウスお兄様。」
「別に手を繋がなくてもいいんじゃ...?」
ユリウスお兄様の呟きが小さく消えて行った。
時には諦めも肝心だよ。ユリウス君。




