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大人しく4階の私室に戻った私は絶賛困ってた。
どうしよう。
リカとうっきー君の三人でお茶をしたいのだけど...そう思っていたらアピスとフォルカーはお茶を淹れたら用事があるらしくすぐにどっかに行っちゃた。
ラッキー。...今のうちにおやつ食べちゃお。
「リカ。今のうちに食べちゃお。」
「かしこまりました。(あー。あとでアピスに小言を言われるなこりゃ。)」
「うっきー君!用意できたよー。」
掘り炬燵に座ってうっきー君を呼べば今日は机の上に小さい花が咲いた。
この移動方法。相手に見える植物は毎日違うんだって。
「ありかとうっす。あれっ?」
「森の妖精様。本日は同席をさせて頂きます。」
「そうなんすか?俺は別にいいっすよ。」
「じゃ、食べよう。」
「リリアナ。この色の付いた温かい水は何すか?」
「それは野菜コンソメのスープ。飲めたら飲んでみて。」
「ふーん。いただくっす。」
「では、私も。」
「いっただきまーす。」
大口を開けてかぶりつく訳にもいかずにナイフとフォークでクレープを食べるとか...どこのセレブだろう?王族か。
一口食べれば口内に広がるのはブルーベリーのジャムの甘さとホイップの優しい甘さ。この世界の甘すぎて胸やけするお菓子ではなく程よい甘さが身に染みる!!
ウマー。幸せってこういう事だと思う。
クレープを味わうことに夢中になって食べたらすぐに終わってしまった。
「美味しかったー。」
満足のいく味に感想を漏らしながらリカとうっきー君を見れば二人ともクレープはすでに食べ終わっていたらしくスープに手を伸ばして引っ込めていた。
...失礼な。
お茶を飲みながら様子を二人の様子を見ていると先に意を決したのはリカだった。
スプーンで一口。恐る恐る口に入れる。
「...美味い。」
だろう。
「本当っすか?いい匂いはしてるっすけど澱んだ水の色してるっすよ。」
胡散臭げにうっきー君がリカに尋ねた。
「はい。本当です。その俺は料理には詳しくないので上手く言えませんが美味しいです。」
リカの感想を聞いてゆっくりとうっきー君が一口。
「...いろんな野菜の味っすね。よく溶けだして煮込まれて。
うん。これ、美味しいっす!」
「でしょー。」
二人に胸を張って自慢してみた。
「ですがその、野菜の切れ端では誰にもお出しできないと思いますが...」
「普通に作ればいいんじゃない?今回はわざわざ切れ端使っただけだし。」
「普通に?...なぜ今回は切れ端で作られたのですか?」
「今回はデュークに作り方を覚えてもらう為だから少量でよかったから。それに切れ端だって立派な野菜だし。」
「......そうですか。」
「よく分かんないっすけど料理っていろいろ難しいんすね。
リリアナ。今日食べたのは両方美味しかったっす。また作ったら食べたいっす。」
「分かった。
あっ!そうだ。今度は森の妖精王の御礼を作るから持って行ってくれる?」
「任せろっす!!」
うっきー君が力こぶを作ってアピールしてくれたけどリスザルだからね。
腕細いね。
「では、私は次回も殿下を抱き上げさせていただきます。」
「手伝わないんじゃなかったの?」
「嫌がる私に手伝わせたのはどなたですか?」
「私だね。」
それから少し3人でお話をすればもう夕方だった。
その日の夕食会でお兄様達が興奮気味に私の部屋の事を話題に出したので急遽、夕食後に部屋に遊びに来た。
「足を延ばして座るというのもいいな。」
「これが森の妖精王様がお創りになられた庭ですか!なんと素晴らしい!!」
「えっ!?ユーノお父様、アポロ兄様、雨が降ってませんか?」
「まだ降ってないぞ。来てみろよ。ルーク。」
「この彫り物は見事だな。」
「確かドワーフの褒章受賞者が彫った物とか...」
...なぜ部屋に王族全員集合した?
今日はゆっくりお風呂に入ろうと思ってたのに...
「リリアナ。立ってないでこっちにおいで。」
自分の部屋なのに入口で立ち尽くしていればレオナルドお兄様に呼ばれたので掘り炬燵に行くとそこでクロノお兄様とグレイシアお兄様も一緒にくつろいでいたのでお邪魔させてもらった。
クロノお兄様は簡単に言うと蒼髪の美女。(背は低め)なんかね。女帝って言葉が似合いそうな雰囲気で凄く無口なんだよね。挨拶の時しか声を聞いた覚えがないの。
「リリアナ。今日は案内ありがとうね。」
「グレイシアお兄様。気になさらないでください。」
お兄様も可愛いけどグレイシアお兄様も可愛いよね。あざといカンジで。
「それで?リリアナは今日は何をしてたんだ?」
「今日はお兄様達を案内した後は...お料理をしました。」
「料理?なんで?...お腹空いたの?」
まって。グレイシアお兄様どういう事?お腹空いたのって...
「森の妖精王に御礼を作る前に一度、厨房を見たかったのでお邪魔しました。」
「へぇ。それ食べれたの?」
「グレイシア。さすがにそれは酷いぞ。リリアナの料理か...
夕食には出なかったよな?」
「えっ?えぇ。出てませんね。作ったのはおやつとスープで残りは料理人達にあげましたから。」
レオナルドお兄様の言っている意味が分からず答えつつも首を傾げた。
「リリアナは鈍いよね。」
「どういうことです?」
「レオナルドお兄様はリリアナの作った料理を食べたかったって事だよ。」
「...まさかの!?そんな凄いモノではないですよ?」
驚いて隣のレオナルドお兄様を見上げれば優しく頭を撫でられながら言われた。
「凄いモノでなくていいんだよ。前世の料理でもリリアナが初めて作っただろう?だから食べて見たかった。それだけだ。」
「あっ!!では明日の朝食にジャムを出して貰う予定ですのでそれはどうですか?」
「ジャム?」
「果物を砂糖で甘く煮たものです。パンに付けて食べようと思ってまして...」
「では、ありがたく頂こう。」
「甘いの?パンに合うの?」
「はい。おいしいですよ。前世の定番です。」
ジャムパンを定番って言わなかったら何を定番と言うんだろう?レベルだし。
「ふーん。じゃあ、俺もちょうだい。」
「リリアナ。私ももらえますか?」
あっ。今日初めてクロノお兄様の声を聞いた。
「もちろんです。」
「そうすると多分、朝食の時に全員が食べると言い出すだろうから...砂糖で煮たんだよな?全員分あるのか?」
「いくつかビンに入れてありますから足りると思いますが...?」
あれ...?
デュークの反応にレオナルドお兄様の話し方だと...
「まさか...砂糖って高価な品?」
「えっ?あぁ。まぁ高級品ではあるな。」
「知らなかったの?」
「少なくとも庶民が簡単に口に出来るものではありませんよ。」
上からレオナルドお兄様、グレイシアお兄様、クロノお兄様が続いた。
あー。やっちゃった。ジャム作っちゃたよ。
「あわあわわ。どっどうしましょう。ジャム作っちゃた。」
そういってレオナルドお兄様を力の限り揺らせば全く揺れなかった。
「リリアナ。落ち着いて。大丈夫。高価と言ってもドレスほどではないから。」
「そういう事では...ってドレスってそんなに高いんですか!?」
「ふっ。リリアナは変な事を心配しますね。」
...クロノお兄様が少しだけ笑った声が聞こえた。
「本当に気にしなくていいからね。」
「そうだよ。あの女の方が金喰い虫だったからね。」
「グレイシア!」
「っごめんなさい。」
「えっ?えっ?どういうこと?レオナルドお兄様どういう事?」
「それはだな...」
「レオナルド兄様。リリアナに自分の予算を教えないでどうするんですか?」
「クロノ...そうだな。
リリアナ。この部屋や服のお金はどこから出ているのか知っているか?」
「...いいえ。知りません。
お父様もアピス達も予算は気にするなとしか言われませんでした。」
「そうか。分かった。
リリアナは王族だから国から国民の税金で生活しているのは分かるね?それは祭典や式典用といった儀礼用のドレスから生活費までそれで賄わなくてはならない。予算は毎年、議会で審議され父上が承認すればリリアナの予算として個人で使用できるわけだ。で、今回俺が言いたいのは。」
「使い過ぎですか?」
4階の改装に新しい服を作って、砂糖を沢山...デイジーが使い込んだって話もあったよね。
「いや。違う。逆。使わなすぎなんだ。」
「えっ?だって...4階の改装に新しい服を作って、砂糖を沢山」
「4階の改装も砂糖というか食事も後宮の予算からだよ。
だからリリアナの予算から出るのは服だけなんだけど...」
「たくさん作りました。」
「作った服は生地くらいしかお金をかける場所がないってアピスが想定より余り過ぎてるって困っているんだ。それにリリアナの作った服の量はたくさんとは言わないよ。」
余り過ぎて困る事ってあるの?...もしかしてだから服に宝石つけるの?
「余ったのなら他に回せばいいだけの話ではないですか?」
インフラとかさ、お金が足りない所はたくさんあるのでは?
「そういうわけにもいかないんだ。そうだな。...例えばリリアナだって自分の仕える人間がボロボロ汚いの服を着ていたらどうだ?」
「ヤダ。...あぁ、なるほど。外聞が悪いってことですか。」
レオナルドお兄様だけではなく大人しく一緒に聞いていたクロノお兄様もグレイシアお兄様も目を丸くして私を見た。...前世があったから分かったようなもんだけどね。
「よく分かったな。だからリリアナには予算を使い切ってもらわないとイケないんだ。」
「でもよろしいのですか?デイジーが使い込んだとも聞きましたが?」
「問題ないよ。確かにデイジーは予算以上のお金を使い込んだけどそれ位で倒れるような柔な国じゃない。これは政治的な話になるけど...今までがあるからね。王家としてはリリアナを歓迎する様を貴族や民に見せなければならないんだ。」
「今まで?あっ物置。...だから予算を使い切りたいんですね。分かりやすい歓迎ってのが要は十分なお金を渡すってことだから。」
単純な人は私にいくら渡したから私が厚遇されていると思うってことか。
「まぁ、そういう事だね。だからもう少し使ってほしいというのが本音だね。」
「使う。...んー。今すぐには思いつきませんね。
あっ。そうだ!少し違う事かもしれませんが、水琴窟を作ってくれた大工さんや襖を作った職人さんに御礼がしたいです。」
「御礼?褒美って事かい?」
「確かにこの襖は素晴らし出来だな。」
襖の前で話していたお父様とダリオお父様も掘り炬燵に入ってきて話に加わった。
「ドワーフの褒章受賞者が作成しただけのことはあります。」
ナニソレ...人間国宝みたいなのかな?初めて聞いたんだけど...
「では、リリアナからの褒美として何かを与えすようにしますか。」
レオナルドお兄様が確認のためダリオお父様に問い掛けた。
「それがいいでしょう。
それでリリアナ?水琴窟というのはどこにあるんですか?」
「庭です。暗いですけど行きますか?」
「面白そうだな。行こう。」
お父様物凄く楽しそうだね。こういうの好きなの?




