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リカに食材庫に連れてきてもらって二人きりになってから声を掛けた。
「リカ。...。ずっと私を持ってて重くない?」
「重くはないけど疲れてきたんで一回降ろしてもいいですか?」
「いいよ。ここなら誰も見てないでしょ。」
「あざーっす。」
リカは私を降ろして壁に寄りかかりながら厨房の様子を窺い始めたので、一人で野菜棚にある人参とセロリを探し始めようとしたら干しブドウが目に入った。...パンも作るか。固いパンばかりで飽きてたし。
「それよりも人参とセロリはどこ?」
さっきの廃棄予定の食材の中になかったんだよね。これ入れないといいカンジなコンソメにならないから出来れば入れたいんだけど...一人でゴソゴソと野菜棚を漁っていると出入口にいるはずのリカの声が思ったより近くから聞こえた。
「セロリも入れるんですか?...入れなくてもいいのでは?」
「作れなくもないけどビミョーな味になるよ。セロリ嫌いなの?」
「...嫌いですね。」
「私は苦手かな?...皆には内緒だよ。」
「皆様、知ってると思いますよ。」
「えっ!?何で?」
「だって殿下。セロリ食べる時すっげー顔してますよ。」
「すっげー顔って何さ。すっげー顔って。...苦手でも食べられなくはないもん。
ねぇ。甘いモノは好き?」
「甘いモノですか?...そうですね。好きですね。他の人には内緒ですよ。」
「ふっふふ。内緒ね。分かった。今からお菓子作るから一緒に食べよう。」
「いいですね。アピス達には?」
「もちろん。内緒でね。」
厨房に戻ると焦った様なデュークが私を呼んでいた。
「で!殿下。そっ外に。外に!森の妖精様が!!」
うっきー君、戻ってきたんだ。
リカに勝手口から外に出てもらうとうっきー君が勝手口の近くで座って待っていた。
「リリアナ!ミント持ってきたっすよ。」
「ありがとう。助かったよ。あっ!うっきー君は甘いモノ好き?」
「甘いモノは好きっす。でも、人の食べ物っすよね。」
「あーそうだね。森の妖精王にもらった果物で作る予定なんだけど食べる?」
「...食べてみるっす。リリアナの初めての料理なら食べたいっす。」
「分かった。出来たら呼ぶね。」
「頼むっす。」
もう一人分増えたね。
「お騒がせしました。
あっ。野菜は洗い終わってますね。では、水をたっぷり入れて煮込んでください。
時間は...いい匂いがしてくるまで。大体1時間くらいです。」
「かしこまりました。」
「あっ!これも!!この人参とセロリも洗って適当に切ってそのまま入れてください。」
ミントと共に手に持っていた野菜を急いでデュークに渡した。これを食材庫に取りに行ったのに忘れちゃ意味ないよね。
「リリアナ殿下。ジャムはこれくらいでよろしいでしょうか?」
ビンを持って来た人に声を掛けられたのでコンロに行ってジャム鍋の中を確認すれば少し緩そうなジャムがあった。
よし!おやつはクレープにしよう!!...生クリームが欲しいな。
だんだんと作るものが増えているのは私の気のせいじゃないよね。
「もう少し煮詰めないとダメですね。この先は焦げやすくなるので十分に気を付けてください。
ねぇデューク。生クリームとかホイップクリームってありませんか?」
「生クリームならございますよ。少々お待ちください。」
そう言ってデュークは食材庫に探しに行ってくれた。
「リリアナ殿下。湯が沸いております。もしよろしければ手伝いをさせて頂きたく。」
「ありがとうございます。では、喜んでお願いします。」
丁度通りかかった人が沸いている湯に気が付きお手伝いを申し出てくれたので喜んで次の工程をお願いする。
「ではジャムを入れるビンを少し煮ます。少ししたら取り出して清潔な布の上に置いて少し冷まします。熱いので気を付けてください。それからこのサクランボを洗ってもらえますか?」
「かしこまりました。」
「殿下。お待たせしました。クリムの実でございます。」
デュークが食材庫からヤシの実みたいなの大きな白い固そうな実を抱えて来たよ!
「えっ?生クリーム...?」
「はい。これを割ると生クリームが出てきます。」
マジか!?牛乳じゃなかった!!
「少々お待ちくださいね。」
そう言ってデュークが手際よく端を包丁で切り落としボウルにモッタリとした白い液体を出した。
見た目は生クリームだ!!
少しスプーンで舐めさせてもらうと甘くないタイプの生クリームだった。
よっしゃー!!
料理にお菓子に使えるじゃん!生クリーム入れるだけで随分と味が変わるからね!
欲しい時にない!それが生クリーム!!
「それに砂糖を入れて泡立ててホイップクリームにできますか?」
「はい。可能です。少々お待ちください。」
「あの、すみません。リリアナ殿下。この果物はどうすればよろしいですか?」
お手伝いを申し出てくれた人が洗浄したサクランボの使い道を聞いてきた。
「あっ、それはデキャンタの中に入れてください。それから絞ったレモンの皮を千切りにしてもらってライチの皮をむいてミントと水を淹れればあとは待つだけです。」
「それがデトックスウォーターというモノですか?」
ホイップを泡立て始めているデュークに聞かれた。
「はい。すべて入れたら冷蔵庫で半日ほど寝かせたら完成です。」
「リリアナ殿下。ジャムはこれでよろしいでしょうか?」
呼ばれたのでもう一度、鍋を見に行くとよく煮詰まった紫色のジャムが沢山鍋の中にあった。
「大丈夫です。冷めないうちにビンの中に入れてください。」
そこまで行ったのでついでにいい匂いをさせているコンソメの鍋を覗いてみる。
「コンソメは、あっ!早い。!!もう良さそうですね。」
「こちらはどういたしますか?」
お手伝いさんがデトックスウォーターを作り終わりやってくれるらしい。
「中の野菜はもういらないので濾して捨ててください。これがスープの元になります。」
「スープの元?ですか。」
「はい。これにいろいろ入れてスープを作るんですが。
...今回は単純に玉ねぎとベーコンでどうですか?」
「匂いだけでも美味しそうですね。すぐに食材をご用意いたします。
...しかしその、俺達にレシピを教えてしまってよろしいのですか?」
聞いてはいけないことを聞くように誰にも聞かれないように小声で聞かれた。
「えぇ。私は料理人ではないですし毎日厨房には立たないので貴方方が覚えて作って頂ければ食べられますし...ですが、私が知っている料理は王宮の料理とはかなり違うと思いますので強制はいたしません。」
「...いえ!!リリアナ殿下ぜひとも私にもご教授をお願いいたします!!」
力強く言い放ち勢いよく頭を下げられたので飛び上がって驚いたのは気が付かないふりをしてください。お願いします。リカさん。
コッソリ笑わないで...
「では、これからもよろしくお願いいたしますね。」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。」
「では、スープを作りましょう。ここまで来たら簡単です。
玉ねぎとベーコンを軽く炒めてからコンソメと水で煮込んで塩コショウで味を整えれば完成です。」
「それだけですか!?」
「それだけです。」
「すぐに作ってみます!!」
「あっ待って。...ビンをもう一つ貸してほしいのですが。」
「かしこまりました。すぐにお待ちします。」
「コホン。今度はどうされるのですか?」
笑い終わったリカが誤魔化すように聞いて来たので白い目で見ながら手伝わせることに決めた。
「ビンに水と干しブドウを入れてよく振って混ぜて。」
「...俺がですか!?料理できませんよ!?」
「大丈夫。大丈夫。料理って程じゃないから。」
お手伝いさんがビンを持って来てくれたのでリカに水と干しブドウを入れて混ぜてもらった。
「終わりましたよ。これでどうするんですか?」
作るように言ったの私だけどさ。
なんで私を片手で持ったままで作れたの?腕の筋肉どうなってんの?
「どうもしない。何か言うなら日当たりのいい場所に置く?」
「...料理ではないのですか?」
「料理の前の準備。これから毎日振って混ぜて5日くらいかかるの。」
「5日?食べれるんですか?」
「食べれます。...上手くいけば...」
最後を小声で付け足せばリカに胡散臭い目で見られたので逃げる様にホイップを作ってくれてるデュークに声をかけた。
「デューク。ホイップは出来た?」
「殿下。お待たせして申し訳ございません。これくらいの固さでよろしいですか?」
そう言って泡だて器を持ち上げると柔らかそうなクリームになっていた。
「んー?もうちょっと。固い方がいいな。混ぜながらでいいから聞いてください。
最後におやつを作るつもりです。材料は卵、牛乳、小麦粉、バターそれから中は...バナナとブルーベリージャムと生クリームでクレープを作ります。あと少しお付き合いをお願いします。」
「かしこまりました。」
「殿下。ジャムを詰め終わりましたので私もお手伝いさせてください。」
「ありがとうございます。では、材料を取ってきてもらえますか?」




