72
「殿下。本日のご予定はいかがなされますか?」
お兄様達を見送った私の後ろからアピスがそっと近づいてきて今日の予定を聞いてきた。
「予定?私は...」
衣裳部屋にある服も直接ココに納品されたから私はまだ見てないし。お風呂の文化もなかったみたいだからどうなっているか確認をしないとね。あっ!あと、昨日もらった誕生日プレゼントも!森の妖精王にお礼も...甘いものも食べたいし...後宮探検もしたいし...
考えたら出したら次から次へとやりたいことが頭の中に沢山浮かんできた。
んー。とりあえず部屋はあと3つだから全部見て回っちゃうか!
「まずは室内を見て回ります。順番はまず寝室。次にお風呂で最後が衣裳部屋の順かな?」
「かしこまりました。」
アピスのその声を聞いてから一人で居間に戻り室内を左に進めば大きな襖が何枚もあった。
ドワーフの職人さんの技術が輝く透かし彫りの襖にはこの世界の神話が刻まれているらしい。まだそのお話を知らないから技術がとんでもないとしか...あり得ないくらいの掘り込みなんだけど...
これ手で彫ったの?こんなの作れるのもなの?緻密過ぎない?えっ?マジで?触ったら壊れそうなんだけど...
襖の精巧な技術に見惚れてじっと見つめていたらリカに声を掛けられた。
「いかがなされました?あっ。申し訳ございません。今、扉を開けます。」
そう言ってリカが両手で襖を持ち取り外そうとした。
「わーーー!!ダメ!!やめて!壊れちゃう!!」
私が叫んだことでリカは驚きながらも襖から手を放してくれたけど、リカを止める為に動き出した私は止まらずにリカの腰に勢いよく抱き着いた。
...悲しいかな。誕生日を迎えたばかりの4歳児のタックルではリカはビクともしなかった。
腰、細いね。
複雑な気持ちを抱えながらもリカを見上げ注意する。
「職人さんが精巧に作ってくれたものだから取り扱いには気を付けて。」
「ですが殿下これでは寝室に行けませんよ?」
「?なんで?行けるよ?引き戸だもん。」
「引き戸?」
正確には引き違い戸っていうらしいけどね。
そういえば今まで見た扉ってすべて開き戸か両開きしかなかったね。引き戸自体がないのかな?...そんな事ないか。ないのなら大工さんがこれを作れるわけないもんね。
リカに襖を引いて開けて見せれば感嘆の声が聞こえた。
「この襖は横に移動させるの。
こんなに素敵な物を彫ってもらったんだから大切に使わなきゃ大工さん達にも職人さんにも失礼だよ。」
私が説明をするとリカが目を点にして私を見てきた。いや。なんでさ。意味が分からずに見返すと恥ずかしそうにそっと目をそらされた。
「とっとにかく!この襖は丁寧に扱ってね。」
「かしこまりました。」
妙な空気を振り払うようにもう一度リカに伝えればキレイな礼で承諾が返ってきた。
さて、次は寝室。
襖を通り抜けて続きの寝室に入ると他の部屋とは少し変わり床と壁は白い木材で統一され、ポイントのデザインは女の子らしいものになった。部屋の家具は白で統一され、差し色には青を使っているので可愛すぎるという程でもなく、落ち着いた部屋に仕上がっている。
まだこの部屋にあるのはベッドとドレッサーと棚だけだから広く感じるけど本が読める様になったら本棚を置く予定だからね。
...それでも広いね。
うん。分かっていたけどやっぱり広い。
まぁ、物は少しづつ増やしていけばいいよね。
次!どんどん行かないと遅くなるからね!次はお風呂!
寝室の奥の右側の扉を開くとそこは化粧部屋。大浴場に置いてあるっぽい大きい鏡があった。
次!奥の扉を開くと目の前には大きな浴槽。特注です!王族万歳!!
物置時代は置いといても、サウナ風呂しかなくてコレジャナイ感が凄かったんだよね。ようやく熱いお湯に浸かれると思うと胸に熱いものが...
目の端を拭うしぐさをしていると真後ろから声を掛けられた。
「殿下?いかがなさいました?」
...アピス付いてきてたんだ。まったく気が付かなかった。
「何でもない。早くお風呂に入りたいだけ。」
「では、今から御入浴なされますか?」
誤魔化すように早口で伝えたらまさかの入浴を勧められた。
昼からお風呂!?
何ていう贅沢を言うの!?
くぅー!!入りたい!でも、でも!
「物凄く入りたいけど!...まだやることがあるから夜まで我慢する。」
アピスからの悪魔の誘いを振り切り寝室に戻らずに化粧部屋から真っすぐ進み衣裳部屋に入る。
衣裳部屋にはノアがデザインした服がたくさん掛けられていたけど、まだまだ隙間があって服が入りそう。着る前に成長しそうだからもう少し大きくならないと買わないけどね。
そんな事を考えながら見渡しているとわがままを言ったクマさん人形が棚の上に飾られていた。
「あっ!アピス!あれっ!クマさん人形とって!!」
アピスに取ってもらって間近で見ると...大きい!!
私と同じくらいのサイズだよ!?手を伸ばして触って見るとフワフワの柔らかい生地の中に綿をたっぷり詰められている感触がした!!ノアさんGJ!!アピスからクマさん人形を受けとり抱っこしながら寝室に戻ろうとするとクマさんの足が長くて転びそうになったのでアピスが運んだ。お手数おかけします。
寝室に戻りクマさんはベッドの近くに飾って。
お次はみんな大好き!誕生日プレゼントの開封だ!!
「アピス。プレゼントを開けてもいい?」
「もちろんです。ですが刃物はお渡しできませんのでお座りになってご覧ください。」
そう言われ居間のラグの上に座ればフォルカーとリカがすでに準備をしていたらしく私の前にプレゼントが運ばれてきた。プレゼントは全部で16個もあった。
なんで箱を空けるだけなのにこんなに楽しいんだろう?あれかな子供だからかな?何が入っているんだろ?
フォルカーとリカが丁寧に箱を開けメッセージカードがあればアピスが読んでくれた。
プレゼントは色々あってドレス用の生地や宝石の原石から絵本に花束にお菓子あと変わり種としては『何でも作ってあげる券』なんて肩たたき券の様なものまであった。
この世界で生まれて初めて生まれた事をお祝いされて途中から嬉しくて泣き出してしまったので、アピス達を驚かせてしまったけど、私が嬉しくて泣いていることを知ると何も言わずに泣かせてくれた。
泣き過ぎたせいでそのまま寝てしまって、起きた時に森の妖精王からのプレゼントが届いていてまた少し泣いてしまった。




