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ジャノヒゲ女王国  作者: くまごん
4-後宮で遊ぼうー
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 居間からベランダに出れば足裏に芝生の柔らかい感触がした。

 一緒に居間から出てきたお兄様達を体ごと振り返り見ると同じように瞳を輝かせ芝生に魅入ってた。

 あっ。マズイ。

 そう思った時にはすでに遅くお兄様達は芝生の上を我先にと駆け出していた。

 いきなりの全力疾走に側仕え達も驚いたらしく少し遅れてからお兄様達を止めようと必死になって追いかけていく。

 いきなり始まった追いかけっこにどうしようかと私の後ろに立つアピスを見上げた。

「王子殿下方は活発ですからね。このような場所で走るなという方が無理があるかと...」

 ...私の兄達は外に出ると走り回る犬か何かなの?気持ちは分からないでもないけどね。これだけ広いと走り出したくなるよね。

 そう思いながら走り回るお兄様達に目を向ければ追いかける側仕え達から静止の言葉に混ざり暴言が飛び出してる気がするのは私の空耳です。

 放っておくか。

 側仕え達が居るからケガはしないでしょ。

「庭を少し見て回ったらお兄様達とお茶にします。お茶の用意をお願いしますね。場所は...藤棚でどうかな?」

「はい。かしこまりました。御準備いたします。」

「私は右側から回ってくるね。」


 そう言って歩き出しても私が一人になれるはずがなくフォルカーとリカに指示を出したアピスがそっと後をつけてきた。

 壁沿いに右側に進めばまず見えるのは一本の木。木は横に広く枝を伸ばし大きな木陰を作っていた。その木を取り囲むように低い木や草花が植えられている。

 森の妖精王がいうにはこの庭園にある植物はすべて薬用・食用に出来るもので誤って私が口に入れても大丈夫らしい。

 私そんなに食い意地張ってたっけ?

 歩きながら軽く見ただけでも知らない植物が多そうだから森の妖精王が今度遊びに来た時にでも解説してもらおう。そんな事を考えながらも先に進む。

 庭園の一番端まで行けばひっそりと隠された木製の東屋があった。

 この東屋は足湯が出来る様になっており中央部に石で出来た浴槽が埋め込まれている。

「おぉぉ!!凄い!!よく作れたね。」

 初めてその出来栄えを見て手を叩き喜んでいるとアピスが答えた。

「初めての試みが多かったようですが殿下の御期待に応えられた様で安心いたしました。

 その、殿下。それで...これは何に使われるのでしょうか?」

 そう言ってアピスが手を示したのは東屋の脇に設置してある水が溢れ出る石。

「これは水琴窟(すいきんくつ)っていうの。水の音を楽しむ為の装置?で、スイキンの名前はこれからとったんだ。って言っても見ただけじゃよく分からないよね。

 一度、やってみようか。」

 柄杓(ひしゃく)で水を撒けば水の流れる音と共に琴をはじく様な高い音が鳴り響き始めた。

「キレイな音でしょ。」

「はい。確かにスイキン様はこの水音の様に美しい声をしてらっしゃいますね。

 ...それにしても水の流れる音を楽しむとは、このような楽しみ方もあるのですね。」

「ふふふっ。(おもむき)ってこのことだよね。」

「そうですね。心が洗われるようです。

 ...殿下。そろそろ戻らねば。王子殿下方も落ち着いた頃合いでしょう。」

「そうだね。戻ろうか。」


 来た道を引き返すと中央付近の芝生にはすでにお兄様達はいらっしゃらなかった。

 そのまま真っすぐ壁沿いを左側の藤棚まで歩いて行くと、藤棚の下に用意されたテーブルセットでお茶を飲むお兄様達がいらっしゃた。

 季節は夏なので藤の花はすでに散ってしまって青々とした緑の屋根になっている。藤の花の屋根もいいけど緑の屋根も捨てがたいね。この場所は階段から真っすぐ応接室の先だから来客があったらここでお話するのもいいかな?

「すみません。席を外していました。」

「別にいいよ。それより僕らもいきなり走り出してごめんね。」

 急いで空いている席に座れば隣に座っていたグレイシアお兄様に頭を撫でられた。

「楽しんで頂けたようですね。」

 お兄様達のお顔を見渡せばまだお兄様は肩で息をしていて、ユリウスお兄様はまだ汗が引かないらしく暑そうに手で(あお)いでいた。

「うん。楽しかったよ。

 でも残念だけどそろそろ行かなきゃ。先生をお待たせしているからね。」

「えー!もう行くの!?」

「ルーク、仕方ないだろ。ワガママ言うな。」

「お兄様。ぜひまたいらしてくださいね。」

「...わかった。必ずまた来るよ。

 そうだ!! 今度はリリアナが僕の部屋に遊びにおいでよ。」

「えぇ。その時はぜびお願いしますね。」

「ユリウス、ルーク。そろそろ行くよ。リリアナ今日はありがとう。また夕食でね。」

「はい。グレイシアお兄様。また夕食で。」

「じゃあな。」

「リリアナー。またね。」

 そう言いながらお兄様達は軽く手を振りながら応接室の方へ歩いて行った。

 軽く手を振り返すとお兄様が歩きながらもう一度、激しく大きく手を振ってきたので、大きく手を振り返すと、腕をもっと激しく振ろうとして転んだ。

 子供は可愛い―な。おバカな行動がたまんない。

 お兄様は急いで立ち上がり少し恥ずかしそうにグレイシアお兄様達を走って追って行った。


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