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いま私達は、フィリップに私がおんぶ紐で背負われて私にスイキンは背負われている。
うん。ブレーメン。もしくは亀の3段重ね。...似てないか。
逃走方法は単純でさっきよりも大きくした水玉を出して着地予想地点と反対方向へ投げて、警備の人の意識が水の破裂音に向いてるうちに人のいないほうへ走って逃げる。
注意点は音は消せないから気をつけなくちゃ。
「スイキンよろしくね。」
ー任せてくださいー
「フィリップ、合図したら飛び降りてすぐ走って。」
「はい。わかりました。」
最終確認を終えた私達は静かにベランダに出た。
見張りの位置を確認してっと。
よし!望むことは水玉(大)を出来るだけ遠くへ投げること!
とりゃぁあぁ!!
私は心の中で叫びながら水玉(大)を投げ、すぐにフィリップの背中を叩いた。
バシャ。ドスン。
「ん?何だ?」
少し建物から離れた場所でフィリップが口を開いた。
「リリアナ様。裏門に向かいますね。詰所をどうにかできれば外に出れるかもしれません。」
ー裏門に行くのはやめたほうがいいですよー
「フィリップちょっと待って。スイキンなんで?」
ー妖精用の感知装置があるからですー
「それって姿を消しているスイキンを見つけられるってこと?」
ーはい。そのとおりですー
「・・・ねぇ。スイキン。
私達が外に出られる方法知らない?」
ー知っていますよ。-
「教えて。どうすれば外に出られる?」
「ここだね。」
「リリアナ様なぜこんな場所に?」
あれから私達は王宮の外れにある今は使われていない井戸に来ていた。
「ここから外に出れるってスイキンが。...井戸の中に入れる?」
「ちょっと待ってください。
うん。行けそうだ。...縄もしっかりしているから降りれそうです。」
「井戸の途中に横道があるからそれに入って。」
「わかりました。」
フィリップって体動かすの得意だよね。
3歳児おんぶしたまま2階から飛び降りたり、長い距離走ったり、ロープつたって井戸降りれるってレスキュー隊みたい。
「本当に道があった。」
フィリップが信じられなさそうにつぶやく。
スイキンが言うにはもう誰も覚えてない避難通路らしい。
それにしても不思議。
石で出来た地下通路はついこの間出来たみたいにきれい。
昔、作られたものなら朽ちていたり、壊れていてもいいはずなのに。
しかも、ところどころ壁がぼんやり明るいから地下通路なのに灯りがいらない。
よく壁を見てみると苔が光っているみたい。ヒカリゴケってやつかな?初めて見た。
忘れられた地下通路だから少しくらいお話ししても大丈夫だよね。今のうちに聞きたいこと聞いておこう。
「ねぇ。フィリップ。
フィリップはなんでデイジーの離宮で働いていたの?」
「それは...」
フィリップが固まっちゃた。言いづらいことなのかな?
「ふぅ。もう4年ほど前になります。
デイジー様が遠出された際、俺の住んでいる村を通りかかりました。
農作業をしていた俺は馬車から見ていたデイジー様に気に入られそのまま荷馬車に乗せられて離宮に連れてこられました。」
「...それ誘拐だよね?]
「えっ?リリアナ様。誘拐というのはか弱い女性に対するのもですよ。」
いや。無理やり連れてこられたなら誘拐でしょ。違う。今は誘拐の定義の話をしている場合じゃない。
「えっっと、お給料とかは?」
「なんですかそれ?」
なんと!?
「お金とかもらわなかった?」
「王家の方々に尽くすのは国民の義務ですよ。」
...えっ?無給?
「...里帰りとか?」
「デイジー様の離宮の敷地から外に出ることは許されませんでした。それに幼いリリアナ様を置いてはいけませんから。」
そう言ってフィリップは少し寂しそうに笑った。
フィリップを誘拐して強制労働ってあのアマ!!何考えてんのさ!!
「それなら!ここから出たらフィリップの家に行こう!」
「ええええっ?俺の家ですか?」
「そっ。私が家に帰してあげる。」
「...ありがとうございます。」
この人にもっと笑ってほしいその一心で私は目的地を決めた。それから街の様子や住んでいた村への行き方。村での生活いろいろなことを教えてもらった。
そして長い地下通路を抜けて、ようやく外の光が見えてきた。
どうやら地下通路は森の中の洞窟とつながっていたらしく辺りに人の姿は見えなかった。
「長い通路だったねー。ここどこだろう?」
「森の中のようですが...」
ーここは王宮の裏手にある聖なる森の中にある洞窟のひとつです。森を抜ければ街がありますよ。ー
「フィリップ!この森の先に街があるって。」
「では、もう少し頑張りましょう。」
「んあ...?あれ?寝てた?」
まだ話せる。
「お目覚めですか?リリアナ様」
私を背負ったフィリップが大きな門と広い庭が建ち並ぶ石畳できれいに舗装された道を歩いているところだった。
私じゃ長く歩けないからおんぶ紐作って正解だね。うん。よく寝た。
ちなみにスイキンは私のシャツの中に潜り込んでお休み中。
「ごめんね。寝ちゃってた。」
「気にしないでいいですよ。子供は大きくなるのが仕事ですから。」
「ありがとう。ここはどの辺り?」
「ここは貴族街といわれる場所です。もうすぐで平民区が見えてきます。」
「フィリップって街に詳しいの?お店ってもうやっているかな?」
「詳しくはないですよ。ただ幼い頃に王都には一度来たことがあるくらいです。
お店は。そうですね。そろそろ開く時間ですね。」
フィリップは空を見上げながらそう答えた。
そしたらフィリップに換金してもらおう。
この国の通貨は分からないけど王宮から持ち出した物がそれなりの金額になればいいんだけど。完全に泥棒だけど...ごめんなさい。
「そしたらまず、質屋に行きたい。」
「えっと何をしに行くのですか?」
「持ってきたものを売る。これ。」
そう言って私は持っていたタオルで包んだものをフィリップに少し見せた。
「.....リリアナ様!!一体どこから!?
ダメですよ。泥棒なんてしちゃ。返しに行きましょう
俺も一緒に謝りますから。」
確かにそうだし。罪悪感もあるけど。
「返さない。フィリップもお金持ってないでしょ。王都でのんびりしてたら捕まっちゃうもん。
換金してここから出ていかないと。」
「リリアナ様・・・」