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アピスに後宮内の医務室に運び込まれた私は以前お世話になったサンタクロースの様な白ひげの先生にまたお会いすることになった。
診察イスに座らせられ腕を台に伸ばすとすぐに手が見えないように布で仕切られた為に私には自分の手の状態が見えない。これかなり痛かったから治るかな?酷いんだろうな。今はスイキンの痛み止めの魔法かよく効いていて動かしても痛くないけど
「殿下!動かさないでください!!」
指を動かしていたら布の向こうのアピスに怒られた。
布の向こう側でスイキンにアピス、サンタ先生に助手さん達が慌ただしく動いているのはよく分かるけど話声は不思議な事に全然聞こえない。
向こうにスイキンがいるのは痛み止めの魔法を維持するためなんだって。
布を見たままじっと座っているのって辛い。
私の側に立ついるリカに話し掛けようとしたら、大きいピンク色の花の蕾が医務室内に出現した。
...ナニコレ?
口を開く前に花が咲き始め中から人の身ではでは有り得ない美しさを持つ森の妖精王が出てきた。
不思議な花から出てきたのが友人であった為に息をつめて強張っていた体から一気に力が抜けた。
なんだ森の妖精王か。何かと思ったよ。
「リリアナ!!無事か!?」
「森の妖精王。久しぶりー!元気してた?」
「久しぶりー!じゃない!!ケガをしたと聞いたぞ!!」
贈り物は良く貰ったが会ったのは久々の為に軽く挨拶をしたら怒られた。随分心配をしてくれているらしい。
「...火傷をしたんだけど感覚がないからよく分からない。」
安心させようと思っても何も思い浮かばずにそのまま今の状態を伝えた。
スイキンのこの魔法、痛み止めと言うよりは麻酔に近いモノだね。時間が経つほど水に浸かってる手の感覚がなくなったから、今は手を握っているのか開いているのかすら感覚だけだと分からなくなってる状態だ。
「そうか。どれ少し見せてもらおう。」
森の妖精王はその言葉と共に布の向こうに行ってしまった。
あー。行っちゃた。久々に会ったのに。
「リリアナ。今くらい大人しくしてるっす。大丈夫っす。森の妖精王は戦うことは苦手だけど薬に関しては本当に凄いっすから、手は元どうりになるっす。」
私の膝に乗ってきたうっきー君が私の心の不安を見透かて宥めてきた。
「...本当?...凄く痛かったよ。また動かせるの?」
みんな何も教えてくれないで、ただ手の感覚だけはなくなっていくから必死で考えないようにしていても怖かった。うっきー君が大丈夫と言ってくれた事で泣きそうな小声でも今の思いを少しだけ話せた。
「大丈夫っす。森の妖精王を信じ「ナァーオ。」。」
うっきー君の言葉が終わらないうちに子猫が甘えた声を出して足に擦り着いてきた。
ちょっ!今、きっとうっきー君がいい事を言ったんだよ。ほら、半目で睨んでるよ!
「とにかく大丈夫っすよ。」
「ありがとう。うっきー君。」
気を取り直して力強い口調で安心させてくれたうっきー君に心からの感謝を伝えた。
「殿下。」
すぐ側に立つリカが優しい目をしてぎこちない手でゆっくりと頭を撫でながら言った。
「殿下は泣かないで偉いですね。でも、泣いても誰も怒りませんよ。無理も我慢もされなくていいのです。ただ願わくば殿下のお心をお教えいただきたいです。」
「...リカ。」
「まぁ、これからしばらくは御食事もお手伝いさせて頂くことになるでしょうしね。」
最後は口調を変え明るく爆弾を落としやがった。
「...なに?食事のお手伝いって...」
信じたくない現実がチラっと脳内に浮かんだ為、それを振り払うように質問をした。
「殿下は両手を御怪我されたのですよ。ならばしばらくは食事の世話も側仕えの仕事という事になるでしょう?」
...あれ?おかしいなリカのニコニコ笑顔が悪魔に見える。
それって食べさせられるってこと...?
イヤーーーーー!!!!
それって三人にあーんされろと!?ハズっ!!今ここで想像しただけで無理!!
お願い!!私の手!!!今すぐに元に戻って!!!
「それは神でもなきゃ無理っす。」
私の思いを読んだうっきー君が無情にも言い切った。うわーん!!
「ユリウス。リリアナと何があったのだ?」
「お父様。あいつの拾った猫がいきなり俺に向かって火を吹いてきたんだ。」
「ユリウス。もうすでに何があったかは召使い達から聞いています。
貴方がリリアナに向かって言った言葉もリリアナを突き飛ばしたこともすべて。」
「ツヴァイ。ダリオ。ユリウスがすみません。ほら貴方も謝りなさい。」
「なんで!?みんな言ってたよ。あいつは王族を語る乞食だって!お父様たちは騙されているんだって!
だからあいつにそんな事をやめさせようとしたのに何で俺が怒られるの!?」
「ユリウス。みんなとは?誰がそう言ったのですか?」
「えっ?...側仕えと後宮内の召使い達がいつもそう話してた。」
「私達は騙されてはおらん。お前も王家の紫の瞳の事は知っているだろう。
王家の紫の瞳は太陽神の加護とも言われていると、この瞳の色を変えるには王家より出るしかないと。
リリアナはこの瞳を持っている。何よりの証拠ではないか。」
「でも、魔法で変えるとか出来るんじゃないの?あの下賤な女に教わってさ。」
「ユリウス!いくら何でも下賤な女とは!!どうやら貴方の教育係を間違えたようですね。
ツヴァイ。本当に申し訳ありません。」
「ユーノ。私は大丈夫だ。
ユリウス。この瞳は魔法で変えることはできん。
お前が酷い言葉で蔑み突き飛ばしたのは小さなか弱い女の子だ。
そしてその子はお前の妹だ。その子はお前を火から庇ったせいで医務室に運び込まれている。
何か言うことはないか?」
「...」
「そうか。ならば答えが出るまで謹慎してなさい。それからお前の側仕えと教育係には聞き取り調査をするからな。そのつもりでいなさい。」
「ツヴァイ。ダリオ。手間を掛けますがよろしくお願いします。
ユリウス。戻りますよ。今日からは私とたっぷりお話をしましょう。」
「ダリオ。後宮内の調査を急がせろ。少し強引な手を使っても尋問をしても構わん。」
「...ユリウスをいい様に利用されたのが気に入りませんか?」
「当たり前だ!子供の純粋さを使って攻撃するなどと許されていいはずがない!
...本当に子供はよく周りを見ているよ。
周りの者達が悪く言えばそれが正しい事だと思うのだからな。」




