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ダリオさんに抱えられ晩餐室に行くと皆さんすでに着席をして私の到着を待っていてくれた様子だった。
「すみません。遅くなりました。」
「あぁ。来たか。...なんだその子猫は?」
首相さんがすぐに私の腕の中の子猫に気が付いた。
「本日拾ったようですよ。さ、リリアナ子猫は下に置きなさい。」
ダリオさんは私を下ろすと抱えていた子猫を下ろす様に言った。
床に子猫を下ろすと私から離れたくないらしくロングスカートの中に潜り込んできたので見えないけれど、足に体をすり付けているみたいで少しくすぐったい。
くすぐったさに耐えていると首相さんの合図で配膳が始まったので急いで席に着席をした。
「リリアナ。子猫はどこにいたんだ?」
「馬車の中にいました。
とても大人しいので飼い猫だと思うのですが、紅目の黒い子猫を飼っている方を知りませんか?」
レオナルドさんに聞かれたので仔猫の情報と共に聞いてみた。
「...馬車の中だって?
...確か寮は動物禁止だろう。」
「あとは、馬房と騎士団の獣騎がいる厩舎くらいか。」
横からアポロさんが子猫がいる場所の可能性をあげる。
「そうだな。もし王宮内に子猫がいるとすればその辺りか。
リリアナ。明日、その子猫の事は皆に伝えて探してみよう。
構いませんね、父上。」
「ああ、構わないが、その仔猫の飼い主が見つからなければどうするつもりだ?」
.........
はっきり言って物凄く飼いたい。
でも、私は3歳で世話をしてもらっている立場だ。それなのに首相さん達に子猫が飼いたいとか物凄く言い辛い。どう答えようかと悩んでいると隣で話を聞いていたお兄様が口を開いた。
「お父様、僕は飼いたいです。リリアナと一緒に面倒をみます。」
その言葉に驚いてお兄様を見上げた。
「リリアナはイヤ?僕は猫を飼った事がないから面倒を見るの手伝ってよ。」
うわっ!なにこのイケメン。天使からイケメンにジョブチェンジしたの?
お兄様の言葉に嬉しくなりながらもはっきりと頷いた。
「分かりました。ならお手伝いさせて頂きます。
あの、お兄様。ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
笑い合う私達を見た首相さんは仕切りなおすように皆さんに声をかけた。
「では、決まったな。リリアナはちゃんと子猫の面倒を見るのだぞ。
さぁ。遅くなってしまったが夕食を始めよう。」
夕食を食べている最中に厨房の件を言い忘れているのを思い出して首相さんに声をかけた。
「あの、すみません。
厨房の使用許可が欲しいのですが...」
もしかすると首相さんに話しかけるの初めてかもしれない。
「厨房?何をするつもりだ?」
いや。厨房でやることって言ったら一つでしょ。
「料理を作ります。」
そう答えると首相さんは首を傾げた。いや。なんで?
二人そろって首を傾げているとダリオさんが私達に何が足りないのか教えてくれた。
「あなた方二人は言葉が足りないのですよ。
リリアナ、なぜ厨房を使用したいのかをまず説明をしなさい。
ツヴァイ、リリアナに厨房で何をするつもりと聞いては料理を作るという言葉が返ってきて当然です。ちゃんと厨房の使用理由を聞くべきです。」
なるほど。思わず手を叩きそうになったくらいにわかった。
首相さんは厨房の使用理由を知りたかったのか!
ようやく疑問が解けてスッキリしたので、首相さんに向き合いもう一度聞いてみた。
「厨房の使用許可をください。」
「お前ワザとか!?なんでそこで使用理由じゃなくて許可求めんだよ!」
アポロさんが勢いよくツッコミをいれた。
アポロさんの隣のレオナルドさんと反対側のえーっと。麗しの第三王子様?が同時に言葉を放った。
「「アポロ。うるさい。」」
「おっ。わり。」
...えっ?えっ?それでいいの?
前から思ってたけど...この人達、王族なのにこれでいいの?
フツーの家族みたいだよね。
そんな失礼なことを考えながら驚いて周りを見渡していると
「リリアナ。気にしないで。いつもの事だから。」
お兄様からのいつもの発言に唖然としていると、その奥のがダリオさんめっちゃ頷いているし。
...いつもなんだ。
なんか想像していた王族とはかなり違うんですけど...
「家の中でまで肩ひじを張っては疲れてしまうだろう?
もちろん、だらしなさ過ぎるのはダメだが、家族の前くらい自分自身であってもいいだろう。」
そう首相さんに穏やかな声で言われた。
家族...
そっか。賑やかで少し乱暴で暖かいこの人達が今の私の家族なんだ。
前は理解できなかった言葉が今度はすんなりと胸に落ちてきた。それを理解したら心が暖かくなり口角が上がりだした。
「それで、なぜ厨房の使用許可が必要なんだ?」
首相さんにかなり脱線していた話を戻された。
「森の妖精王にお礼として私の前世の料理を贈ろうかと思いましてそれで、厨房の使用許可が欲しいです。お話をしていた時、前世の記憶に御興味がありそうでしたのでどうかと思いまして。」
「ふむ。確かに森の妖精王様には礼の品は必要であろうが...いや。リリアナがそれがいいと思ったのならそれが一番だろう。
ただ、問題はリリアナを一人で厨房に立たせられんという事だ。」
「では、こういうのはどうでしょう。リリアナに紙に書かせて料理人に作らせるというのは。」
ダリオさんが名案の様に話すが無理です。
「ダリオさん。私、字を書けませんし読めません。」
他の人が口を開く前にダリオさんの案を却下した。
「それに作るのは違う世界の料理です。作り方だけを見て作るのは難しいかと思います。
多分、一番分かりやすい方法は、他の人が作っているのを私が後ろから監督するのがいいのかとは思うのですが...」
さすがに私には包丁やフライパンは持てないし、女性の立ち入り禁止もあるからどうかな?
返事が返ってこないことを不審に思い周りを見渡すと皆さん私を見ていた。
「?どうしました?」
「いや。なんでもない。
...厨房の使用に関して二つだけ条件がある。」
首相さんが条件を出してきた。えー。条件!?
「どんな条件ですか?」
「一つ目、使用する場所は後宮の厨房のみ。
二つ目、厨房に立ち入る際は必ず側仕えに抱き上げられて、そして何も触らない事。」
三つじゃね?何も触れるなって本当に指示しかできないじゃん。
そもそも誰が作るのさ。
「それが守れるのならば料理人に話をして手伝わせよう。」
「よろしくお願いします。」
こんなの即答でしょ。触らないを守るだけで王宮の料理人に作ってもらえるんだよ?
本職さんだよ。むしろ私からお願いしにいかなきゃいけない人だよ。
やったね!何作ろうかなー?まずはお礼のお菓子を作って...
「リリアナ。厨房は危ないからよく周りの人のいう事を聞きなさい。」
首相さん。どこまで子ども扱いするのさ...
夕食も食べ終わり王宮へ戻ろうと馬車の発着場に移動したら後ろから声を掛けられた。
「リリアナ。」
後ろを振り向くと第三夫君のグラッドさんが急ぎ足でこちらに向かってきた。
「呼び止めてすまないな。」
「いいえ。何かありましたか?」
この間、膝に乗せられたけどあまり接点のない人だから何のために声を掛けてきたのかまったく分からない。
「服を作る話があっただろう。」
「...はい。ありました。」
「私の実家で商売をやっているのだが、協力している商会のデザイナーを紹介したいのだが...
これが、そのデザイナーの書いたドレスだ。」
そう言って数枚のデザインのラフ画を見せてくれた。」
一枚には夏の空を思わせる青と白のコントラストが美しい涼し気な夏用のドレスが、もう一枚には咲き誇る大輪のバラを思わせる深紅のドレスが大胆な筆使いで描かれていた。
「...凄いキレイ。
グラッドさん。私この人とお会いしてみたいです。」
「そうか。では明日の朝すぐに王宮に来るように伝えよう。予定は大丈夫か?」
「私は大丈夫です。連絡よろしくお願いします。」
「グラッドはどこ行ったんだ?知っているか?クロノ。」
「リリアナを追ったみたいですよ。
父上。リリアナに前世の記憶があるというのは本当ですか?」
「本人はそう言っている。魔法のない科学というモノが発達した世界だそうだ。」
「...そのような場所あるとは思えませんが?」
「まぁ、その世界があるかないかは俺達にはわからんさ。だが、あの子が普通の子供ではないのは確かだ。」
「アザリー。なぜそう思う?」
「むしろツヴァイなんでそう思わない?他の子供たちの3歳頃を思い出して見ろ。あんなに大人しく席に座ってお行儀よくキレイに食事したか?してないだろ?誰一人。」
「確かにそうですね。話をしていてとても賢い子だと思いますよ。表情が豊かなので隠しきれてはいませんが
...問題になりそうなことは報告しないとかね。いい度胸ですよ。」
「ダリオ父上。昨日の事ですか?あれは忘れていたとかではありませんか?」
「まさか!確信犯ですよ。
あの子は私がアピスに事情を聞いた後、アピスに視線で抗議をしてましたから。
それに今日だって厨房の使用に関しておよそ3歳児では考え付かない事まで考えましたからね。
前世の記憶があるのは確かでしょう。」
「まっ。それより、ツヴァイ。どうするんだ?ちなみに俺は止めさせるべきだと思うぞ。
理由は今日の馬車に子猫が入り込んだことだ。あれが刺客だったらどうする?中庭で遊んでいた時に入り込んだらしいがいくら王宮内とはいえ馬車の近くには召使いがいたはずだ。なのに子猫が馬車の中に潜り込んだ。それにアピスの報告の件もある。わざわざ何かあるかもしれない場所に近づける事はないだろ。」
「父上。私もそう思います。
少なくとも後宮内の者が王族であるリリアナを軽視しているのは確実です。」
「だがな。アザリー。グラッド。
ようやく話すようになった子に来なくていいなどとは言えんよ。それに私は首相さんだしな。」
「「「(...やっぱり気にしてた。)」」」




