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ジャノヒゲ女王国  作者: くまごん
1ー誕生、そしてー
6/118

6

「フィリップに危険がないところに行きたいです。

 私は自分のことすら一人で出来ないただの子供だけど、私の大切で大好きな人を守りたいです。彼を助けたいです。

 お願いします。力を貸してください!お願いします!!」


 私は本当に何も持っていないし何も知らない。

 いま出来るのはこの海の妖精に頭を下げてお願いすることだけ。

 でも本当に大切だから彼のためならいくらでも頑張れるから。


ー顔をあげてください。そのままでは話せませんから。

 一つ問題があります。

 ワタクシは海の妖精。本来ならば揺蕩う(たゆた)存在。

 あなたの力になるということは名前をもらわなければ助けられません。ー

「...名前?」

ーはい。名付けと言われる儀式になります。

 妖精とは、この世界の大いなる力の流れの一部です。そして、ただそこにあるだけの存在です。

 その一部に名前を付けることで妖精と契約者を繋ぎます。

 この場合、ワタクシとあなたですね。ー

「名前を付けるだけでいいの?」

ーはい。あなたが考えた名前をワタクシにつけてワタクシがそれを了承すれば名付けの儀式は完了になります。そうすればワタクシを通してあなたが海の妖精の力の一部を借り受けることが出来るようになります。ー

「...分かりました。よろしくお願いします。」

ーはい。ではワタクシに名前を。ー

 名付けかぁ。はっきり言ってセンスないんだけど...


「名前は....そうだ!水琴。

 スイキンでどうですか?」

ースイキンですか。...珍しい名前ですね。ー

「だっダメですか?」

ーいいえ。そんなことはありませんよ。

 あなたがワタクシのために考えて決めた名前ですからこれがいいです。

 では始めましょう。ー

 スイキンはそう言って、厳かな様子で鼻を上げて私のおでこをかすめた。


ー ”ワタクシはスイキン。この者リリアナと繋がるもの”ー


ーはい。これで儀式は終了です。

 これからよろしくお願いいたしますね。ー

「よろしくお願いします!」

 よし。まだいろいろ聞きたいことはたくさんあるけど、急がないとあの人達が来ちゃう。


「フィリップ!起きて!起きて!!」

 むぅ。起きない。私が揺すっても全然、起きないし。疲れてるのかな?

 寝かせてあげたいけど仕方がない。

「スイキン。水ってどう出すの?」

ーワタクシに触れてください。どこでも大丈夫ですよ。ー

 私は初めてスイキンの背中に手を伸ばした。

 ピンクなゾウさんはすべすべしていて弾力のある肌にひんやりとした体温?をしていた。

 これは。あれだ。縁日で売られていたビニール人形によく似ているんだ。

 揉んだら気持ちよさそう。夏とかいいかも。

ーそうしたら願ってください。リリアナの思いのままに。ー

「えっと。願うことは、少しの水が出ること。」

 私がそう呟いた瞬間、私の目の前に小さい水玉が出現した。

 おお!出た。

 これをフィリップに...


 パシャ


「つっ!っなんだ?...なんで濡れているんだ?」

「フィリップ!起きて!逃げなきゃ。」

「リリアナ様どうされたのですか?まだ夜中じゃないですか。もう一度寝てください。」

 そう言ってまた寝ようと体を丸くした。

 寝ないでよ!!私は必死にフィリップを叩きながら

「フィリップ!よく聞いて。

 今からフィリップを殺そうとする人達が来るから逃げなきゃ!!!」

「私などを殺そうとする者などいませんよ。怖い夢でも見たんですか?」

「違う!ちゃんと聞いて。

 デイジーがフィリップを殺したがってるの。男の人達に命じたの。

 今、ここに向かってきてる!」

「...それは本当ですか?」

 フィリップが私をじっと見定めるように私を見つめてきた。

 この目をそらしちゃいけない。

「本当。信じて。」

「はぁ。分かりました。では、警備をしている方々に伝えましょう。」

 フィリップはめんどくさそうに立ち上がった。

「ダメ!!

 その人達は信用できるの?

 私が閉じ込められていても、フィリップが殴られていても見ない振りをしていた人達でしょ。

 フィリップのこと馬鹿にする人達でしょ。

 私は信用できないよ!!」

 私のこの決断は早まったことかもしれない。最善は他にあるかもしれない。

 でも、信用できなかった。助けてと言えないくらいに。

 しばらく私を見下ろしていたフィリップは少し考えるそぶりを見せた後

「...分かりました。外に逃げましょう。」


 少しドアを開けて周りをうかがうと明りに照らされて鈍く光った鎧を着た二人組が少し離れたところからこちらを見ていた。

 この部屋は何階かは分からないけど右端の部屋だね。

「こっちは二人組の見張りがいる。」

「窓の外にも一人見張りがいますね。」

「ここって何階なの?」

「2階です。飛び降りますか?」

 窓から見える景色がけっこう高いけど飛び降りれるものなの?

「私を抱っこしてケガもなく飛び降りられるの?」

「これくらいなら出来ます。」

 おぉ。凄いな。...となると、問題は姿が見えることだね。

 飛び降りた瞬間を見られたらすぐに捕まっちゃうからね。

「・・・スイキンは姿を消すこととかできる?」

 ー出来ますよー

 海の妖精が姿を消すってどうやるんだろ?光の屈折的な何かかな?

「じゃあ、それで行こう。」

 これで、方法は決まった。あとは準備をしなくちゃ。

 顔を上げるとフィリップが不思議な顔をして私を見ていた。

「スイキン?誰かと話されているのですか?」

 あっ。フィリップにスイキンのこと話してない。忘れてた。


 ようやく目が暗闇に慣れてきてよく見えるようになったよ。

 この部屋は客室みたいだね。寝室とは別に応接室があるような高そうなホテルの。お風呂とか洗面所はないけど。なんでだろ?

 寝室でフィリップにシーツを裂いておんぶ紐を作ってもらう間に、部屋にある使えるのものを探しておかないと。何も持たずに出ていったら餓死しそうだしね。

 なんかないかな?

 応接室を見回すと机とソファとローテーブル、燭台、なんかの金色の像、絵画があった。

まず、大きいものはダメ。

 なんかの金色の像、一部とれないかな?この剣あたり脆そうな気がするけど。

 ・・・

 ・・・・

 ・・・・・とれ...ちゃった。

 本当にとる気はなかったんです!!ごめんなさい。直さないと...。

 ...これ持って行こう。金っぽいしお金になるでしょ。もう少し削れないかな?

 そう思いながら机の引き出しを一つ一つ探していく。

 ...あっ。机の中にナイフがあった。切れ味悪そうだけど装飾あるから売れるかな?

 これであの像削れないかな?ちょっとでいいからさ...


 疲れた。疲れるの早いな。少し取れたからまぁいいや。

 それから売れるか分からないけど売れそうなのは燭台かな?売れなかったら使えばいいし。

 あっ、あと役に立つだろうから寝室にあったタオルも。

 これでいいかな?重いと持てないしね。それじゃタオルに包んで。


「リリアナ様出来ましたよ。」

 おっ。ナイスタイミング。フィリップ!

 それじゃあ、脱出といきましょう。


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