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昼過ぎから走りまわり汗を沢山かいたので夕食会の前に王宮に一度戻り着替えることとなった。
「では、お兄様。また夕食会の席でお会いしましょう。」
そう言ってお兄様と別れ馬車に乗って王宮まで戻る途中で座席の下に黒い毛玉を発見した。
...毛玉?不思議におもい椅子から降りて手を伸ばして触ってみるとどうやら寝ていたらしく飛び起きた。
毛玉じゃない。猫だ。紅目の凛々しい顔立ちをした黒い子猫。
なんでここにいるの?
「殿下。危ないのでお座りください。」
同じく馬車内にいたアピスに注意された。ちなみに、フォルカーとリカは御者台にいる。
「アピス子猫がいる。カッコいい紅目の黒猫さん。」
そう言ってもう一度手を伸ばすと鼻でフンフンと匂いをかがれたのでそのまま少し待ってみた。
「まさか、この馬車に子猫など。...いましたね。」
私の言葉を信じていないアピスが同じく椅子からおり目線を下げると子猫が見えたらしい。
アピスと話しているうちに子猫は匂いを嗅ぎ終わったらしく私の手に体を擦り付けてきた。
わぁ。甘えん坊さんなのかな?それとも飼い猫かな?
子猫の脇に手を入れ持ち上げて座席の下から出せば大人しくされるがままになって私に抱っこされた。
おぉぉ!!モフモフ!いい―手触りですな!!
毛も汚れていないみたいだし、大人しいし、飼われていたのかな?
「殿下。不用意に触れないでください。」
アピスが私から子猫を奪おうと手を伸ばしたら必殺!猫爪アタック!が決まった。
引っかかれてやんの。
「いっ。このっ...」
アピスは猫に引っかかれて怒ったらしく今までに聞いた事のない低い声を出した。
「いきなり手を伸ばされたら猫だって驚くよ。
それにしても大人しい子だね。この美人さんは飼い猫かな?」
「基本的に王宮使用人の寮は動物禁止です。王家の方々も猫を飼っているという話は聞いたことがありません。」
「そうなの?ねぇ。君はどこの子?おうちはどこ?...聞いても返事するわけないか。
アピスさっきの場所、血出てない?」
「血は出ておりませんのでお気になさらずに。」
「王宮に戻ったら傷口をよく洗っておいたほうがいいよ。動物から受けたケガは怖いんだからね。」
私の言葉にアピスは目を見開いて驚いた。
いや。そこ驚くの?私、そこまで非情な人間じゃないよ。
「かしこまりました。ありがとうございます。
その子猫、飼われるのであればツヴァイ様に許可を取らねばなりませんよ。」
「だよね。
しばらくの保護かもしれないけど聞いてみる。飼い主の手掛かりもあるかもしれないし。
あっ。あと、厨房ってやっぱり使用許可取らなくちゃダメ?」
「厨房は女性は入ってはならない場所とされておりますがいかがいたしました?」
「前に曾おじい様と森の妖精王のお礼に付いて話していたでしょ?あれからも考えていたんだけど、やっぱり私の前世の記憶のお菓子なら喜ぶかなって思ってさ。前に一番食いついてきた話は前世の記憶だったからね。」
「それはお喜びにはなられるかもしれませんが...
先程も申したように、女性は入ってはならない場所とされておりますので、ツヴァイ様の御許可がいただけるかどうか、許可を取れたとしても殿下が御作りになられるのは不可能かと。」
「なんで?料理は好きだったらしくて作り方は覚えてるよ。」
アピスの言う意味が分からずにアピスを見上げると困ったように笑いながら言われた。
「殿下はまだ幼いですので、火や包丁は触れないかと。」
...そうだ。私、3歳児だよ。包丁持てないよこの手じゃ。
子猫を抱いていない手を見ながら握ったり開いたりして呆然としていると馬車が止まった。
アピスにエスコートされながら馬車を降りると急かされた。
「殿下。まずはお着換えを。夕食会に間に合わなくなってしまいます。」
「分かりました。急がせて悪いけどお願いしますね。」
「かしこまりました。では、抱き上げさせて頂きます。」
それから夕食会に出るまで3人がフル活動をしてくれてどうにか夕食会に...
間に合わなかった。可愛い子猫の妨害行為は強力でした。
「リリアナ。遅いから心配しましたよ。」
「すみません。ダリオさん。」
後宮に到着すると玄関付近にダリオさんの立つ姿があった。もしかして、来るのが遅かったから迎えに来たとか?
「なんですかその子猫は?」
アピスにエスコートされて馬車を降りた私が抱いていた子猫を怪訝な目で見られてる。
「今日見つけまして、私から離れようとしないんです。」
「これから食事ですから子猫は下に置きなさい。連れてきて構いませんから。」
「ありがとうございます。」
「ほら、急ぎますよ。皆、貴方を待ってます。」
「はっ、はい。」
そう言うと子猫を抱いたままの私を抱き上げて晩餐室に運び出した。
待って、まだ子猫が!
下に降ろせってさっき言ったじゃん!!




